第69話 聖女の軍事力は三界いちぃぃぃ!

 話はトントン拍子に進み、無事に魔神核の移植作業も終えて魔神マルコスが誕生した。


 “推ししか勝たん”の面々はマルコスの配下におさまり、政治面での不安な点も聖女軍から人材派遣を行う事で無事解決。


 アンリさん推しのマルコスは当然のように聖女軍傘下に加わり、これで残すところは魔神バルバスのみ。


 そして私達が今、何をやっているのかと言うと……。


「バルバスに関しては情報が少な過ぎるわ。」


「ここまで戦力差があるのだから、情報など集めずとも一息に潰してしまえば良いのではないか?」


 こんな具合で私、お母さん、魔神四体、そして幹部級の1級悪魔達で会議を行っていた。


「そうは言うけど、バルバスを倒した後に奴の領内が混乱してしまうと面倒だよ?」


 アドンの言う事も尤もね。


「確かに強い悪魔が暴れて回ると面倒そうだわ。」


「ワシが知っているのは、バルバスの奴はとにかく強い悪魔を処刑する気狂いだという事くらいじゃな。」


 強い奴を処刑するなら、バルバスの領内には強い悪魔が碌に居ないという事にならないかしら?


「じゃあ、バルバスの領内には強い悪魔は全く居ないんでしょうか?」


「殆どおらんじゃろう。おったとしても、隠れられては見つける事など出来んしな。」


「それなら多少混乱しても問題ないんじゃないですか? だって、強くない悪魔が暴れてもどうって事ないですよね?」


 弱い悪魔なんてすぐに鎮圧出来ると思う。


「まぁ、言われてみれば。」


「こちらから強い悪魔を派遣して治安維持に努めれば、大きな問題にはならないかもしれないね。」


 アドンは私の部下になっただけあって、会議の場ではこうして援護してくれる。


「なら、バルバスは普通に正面から攻め滅ぼす方針で良い?」


「勿論アンリちゃんの意見に賛成じゃ。」


「良いよ。」


「というか、正面から攻める事しかしてないだろ。」


 マルコスは完全にアンリさんのイエスマンだ。仲良くやっていけそうね。


「バルバスを攻める前に、ルシーフ配下がこちらへ戻って来るだろう事も考えなきゃ。」


 そっか。ルシーフの幹部は戦争に出掛けているだけで、居ないわけじゃないもんね。


「特に問題ないだろう。現在この城には戦力が集中している。攻めと守りに分ければ撃退は容易いさ。」


「じゃが、この領には“山賊はつらいよ”の問題もあるのじゃ。」


「何それ?」


 アンリさんは途中で拗ねて帰っちゃったから知らないもんね。私が教えてあげようっと。


「俺達だってつらいんだ、と言いながら山賊行為を働くならず者の1級悪魔チームらしいですよ?」


「馬鹿なんじゃない?」


 私もそう思う。でも、もしかしたら事情があるのかも。


「では城の守り、領内のならず者討伐部隊、バルバス討伐部隊の三つに別れれば問題なかろう。戦力は充実しているしな。」


「部隊編成は魔力の少ない僕とその配下が守り、“山賊はつらいよ”を知っているマルコスとその配下がならず者討伐部隊、それ以外がバルバス討伐部隊で良いんじゃないかい?」


「守りがアドンとその配下だけだと不安なので、ベーゼブとその配下も残ってあげて下さい。」


「良いのか?」


「はい。魔神相手なら私とお母さんが居れば十分ですから。」


「……そう言えばそうだったな。」


 どうして皆顔が引き攣ってるの? 私、変な事を言ったかしら?


「この中で、バルバスの城か領内まで行った事ある人っている?」


 お母さんが皆の顔を見て尋ねる。


「確か、アスタはバルバス領出身だったわよね?」


 アンリさんの発言にギクリと体を硬直させるアンリ魔神軍四天王のアスタ。よほどお母さんが怖いのか、必死に気付かれまいと気配を消している。


 名前を呼ばれてるんだから、気配を消そうとしても無駄だと思うんだけど。


「アスタ?」


「あ、あぁ。バルバスの城には行った事ねぇが、隣の街までなら……。」


 どうやら観念したようで、返事を返すアスタ。


「そうなんだ。アスタだっけ? 初めましてよね? 道案内よろしくお願いするわ。」


 え?


「お母さん? この人、会った事あるよ?」


「そうだっけ?」


「この人の手を引きちぎったの忘れちゃったの?」


「私、そんな事した?」


 本当に分からないといった表情だ。


「したよ。最初魔界に来た時、突っかかって来たこの人の手を力比べだって言って握り潰して、その後引きちぎったじゃん。」


 お母さんは少しだけ頭を悩ませ考え込み、周りの皆は信じられない…と呟いて顔を青ざめさせている。


「ダメよアリエンナちゃん。アリエーンにとって暴力は日常なんだから、そんな事言ったって思い出さないに決まってるわよ。」


「ボケ老人に言われたくないんだけど?」


「こらこら、アリエーンちゃんや。お母さんをそんな風に言っちゃダメじゃろ?」


 マルコスは優しそうな笑顔でお母さんを諭す。


「……分かったわよ。」


「よしよし。やっぱりアリエーンちゃんは良い子じゃな。」


 マルコスがホッホッホッと笑い、お母さんの頭を撫でている。


 凄い。お母さんが他人の言う事を聞いた。


「今度からマルコスにアリエーンの教育をお願いしようかしら。」


(ねぇお母さん。なんでマルコスの言う事は聞くの?)

(お母さんね。舞台俳優のオレナルド・ビッグプリオが好きなのよ。)

(もしかしてその人に似てるの?)

(そういう事。)


 案外普通の理由だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る