第71話 聖女の試合観戦2

「どんな卑怯な手を使いおった! 魔力が減るどころか増えるだと!?」


「卑怯な事なんてしてないわ、よっ!!」


 お母さんがバルバスの力を利用して投げ飛ばし、壁に叩きつける。


「危ない危ない。潰されるところだったわ。」


「よくもやってくれたな。」


 バルバスは強烈に叩きつけられたはずなのに、全くダメージを負った様子がない。自らの服についた埃を払い、意気揚々とお母さんに向けて走り出す。


「あら、元気一杯。もっと叩きつけてあげるわね。」


 お母さんは楽しそうにバルバスの攻撃をひらりと躱し、相手の力を利用しては壁、地面、天井と、様々な方向へと弾き飛ばす。


 こんな戦い方も出来たんだ。


「私としてはもっと力比べをしたいんだけど、あんたに付き合ってたらこっちが成長する前に潰されそうなのよね。」


 バルバスの体格も相まって、彼の突進は凄い威圧感を放っている。それを余裕な顔で捌き続けるお母さんはとても楽しそう。


 彼は技に翻弄され、何度も突進を繰り返しては弾き飛ばされ、壁に穴を増やすだけだった。


「くそがっ!! 絶対に捕まえてやる!」


「無理無理。だって、あんたって力が強いだけなんだもん。」


 既にこの場はあちらこちらがバルバスの体で作られた穴だらけ。にもかかわらず、体力が尽きるようなそぶりがまるで見えない。


「ふんふん。そろそろブッ叩いても良いかしら?」


 お母さんは攻撃パターンを把握したようで、反撃に出るつもりだ。


「やってみろ! お前の攻撃など効かんからなぁっ!」


「ではお言葉に甘えて……オラァっ!!」



 ズドンっ!!!


 お母さんは勢いよく利き脚で蹴りを放つが、バルバスはそれを片手で受け止めている。


「はんっ。この程度……」

「死ねやっ!!」



 ドズンっ!!!


「がっ!?」


 受け止められた方とは反対の脚でバルバスは後頭部を蹴られ、吹き飛ばされてしまった。


 そして勢いよく飛んでいくバルバスに猛然と距離を詰め、追加の拳を見舞うお母さん。


「どりゃっ!!」



 ドンっ!!!


「くたばれっ!!」



 ズドッ!!


「かはっ……。」


「ふう、なかなか硬いわね。」


 物凄く良い笑顔のお母さん。楽しそう……。


 バルバスは明らかに脚にきている。若干フラついている様子が見てとれるのだ。


「ぐっ……なぜ効く? 確かに威力はそれなりに強いが、ここまでダメージを食らうような攻撃じゃなかったはずだ。」


「急所を捉えたからね。戦いは力だけじゃないって事よ。」


 私のお母さんは力が強いだけじゃなく、実は技も使える人なのよね。


「力こそが全てだ! 技など圧倒的な力で蹂躙してやれば良いっ!」


「じゃ、試してみる?」


「潰してやるぞっ!!」


 バルバスが力強い突進を敢行した。


 お母さんは身体強化の出力を更に引き上げ迎え撃つ。その出力は魔神の1.5倍くらいにまで到達している。


「がああああっ!!」

「オラアアアっ!!」


 二人は互いの手を掴み、潰してやろうと押し合いを始めた。




「凄まじいわね。」


「はい。ただ、バルバスは技を使えないのが致命的ですけど。」


「そうね。あれで技まで使えるのなら、魔神の中でも一番強かったでしょうね。」


 そう……バルバスは身体能力だけを見るなら、明らかに魔神の中でも頭一つ抜けている。


「でも、結局は力に溺れた弱者。如何に強い力があっても、あれではお母さんに勝てません。」


「えぇ。技で時間を稼ぎ、その間にアリエーンは成長してしまう。身体能力まで追い付かれたバルバスに待っているのは……無惨な敗北よ。」




「オラオラオラァっ!!」

「ぐうっ……はあっ!!」


 どうやら決着がつきそうね。


 バルバスは単純な力でさえも、お母さんに押され始めている。


「何故だっ! 何故俺が押し負ける!? 貴様は一体何なんだ!!」


「普通の美人の子持ちよ。」


「そんなワケあるかっ!!」


「ほら。ちゃんと力を入れないと……潰れちゃうわ、よ!」


「ぐうっ……!」


 とうとうバルバスが床に膝をつく。


「うんうん。もう力では私の方が上ね。あんた、もうちょっと頑張れるわよね?」


「くそがぁぁぁぁぁ!!」


 必死に押し返そうとするも、虚しい雄叫びのような声が響くばかりでバルバスの不利は覆らない。


 そうしている間にもお母さんの身体強化は出力を上げていく。


「そろそろ片手でもいけそうね。ハンデに左手を離してあげるから、必死で頑張るのよ?」


 お母さんは面白がって片手を離す。


「馬鹿にしやがってえええええ!!!」


「失礼ね。馬鹿にしてないわよ? だから片手なんじゃない。馬鹿にしてるんだったら指一本とかよ?」


 片手で相手をしているにもかかわらず、お母さんは涼しい顔で受け答えをする。


 多分、その態度が馬鹿にしているように感じるんだと思うけどな。


「ほらほら、もっと力を入れないと潰れちゃうわよ?」


 バルバスは潰されないように必死の抵抗を試みているが、お母さんの右手を抑えるだけで精一杯だ。


「もう潮時かな? あんたって強いのに、魔神の力に胡坐をかいているだけなのね。技も使えなければ魔法も使えない。ついでに言うなら頭も悪い。」


「くそっくそっくそおおおお!!」


「ダメね。そろそろブッ叩こうかしら。知ってる? お肉は叩くと柔らかくなるのよ?」


「何を言って……。」


「オラア!!」



 ドギャッ!!!!


「ぶはっ!」


 お母さんが左手で強烈な拳を腹にくらわせ、それに悶絶するバルバス。


「どう? 柔らかくなったかしら?」


 バルバスは抵抗も出来ずにその場で腹を庇いうずくまっている。


「死ねっ!!」



 グシャァッ!!


 あっ……お母さんの腕がバルバスの腕もろとも腹を貫通しちゃった。


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