第65話 聖女の遠征2

「あなた達、ババアは酷いじゃない。」


「うっ……推しのアリエーンちゃんに言われたら謝らざるを得ない。すまん。」


 アンリさんをババアと言った人が謝っている。


 お母さん、もっと言ってやって。


「全く、せめて超お婆ちゃんって言いなさいよ。ショックで尿洩れしたらどうするの?」


 それ酷い。アドンが言ってたセリフを真似してる。


「ぷっ。」

「ぶはっ。」

「アリエーンちゃんノリ良すぎ。」

「悪魔だから尿洩れはせんじゃろ?」

「おい、冗談なんだからマジで返すなよ。」


「アリエーン、あなたねぇ……。」


「お婆ちゃんどうしたの? 朝ごはんはさっき食べたでしょ? ぷっ。」


 あぁ……なんて事。


 アンリさん推しの人以外全員大笑いしている。


 お母さんはアンリさんを揶揄うのが好きみたい。


「何て酷い娘なのかしら。親の顔が見てみたいわ。」


「親はあなたですよ? お婆ちゃんったらもう、本当にボケちゃって……。」


 やだわ、と手を振るお母さん。


 そして更に笑う“推ししか勝たん”の面々。


「……もう帰る。フンッ。あんたの母ちゃんでーべそっ!」


 アンリさんは涙目で捨て台詞を残して去っていった。


「変なの。私の母ちゃんは自分なのにね?」


「私に言わないで。」


 微妙に反応に困るからやめて欲しい。


 それにしてもどうしよう……。


「アンリさんの道案内がないと、ルシーフの所まで辿り着けないわ。」


「ん? ルシーフの馬鹿野郎に用事があるのか?」


「はい。ルシーフを倒す為の旅をしているんです。」


「……倒せるのか?」


「はい、割と余裕で。」


 私は身体強化魔法を全開にする。


「……驚いた。」


「私も魔神級に強いわよ?」


 お母さんも身体強化を一気に引き上げる。


「信じられん……が、確かにそれならいけそうだな。圧がキツイから一旦抑えてくれ。」


「分かりました。」


 私とお母さんは身体強化を一度抑え、話を聞く事にした。


「もしかして、皆さんはルシーフのお城の場所が分かるんですか?」


「あぁ。あの馬鹿野郎がまともに統治せんから、一度だけこのメンバーで襲撃した事がある。強過ぎてすぐに逃げだしたがな。」


「でしょうね。1級程度だと、何十体と集めなければまともに戦えないでしょ。」


「悔しいがその通りだ。」


 そうよね、魔神級と1級の差は実際かなりのもの。


 相手の魔力を消費させるにしても、数が揃わなければ話にならない程度には差があるはず。


「俺達が二人を案内する。だから……ルシーフの馬鹿野郎を倒して欲しい。」


 “推ししか勝たん”同盟の五体に頭を下げられた。


 きっとルシーフって奴は余程酷い人なんだわ。


「頭を上げて下さい。私達の方からお願いしたいくらいですから。」


「ありがとう! 本当にありがとう!」


 涙を流して礼を言う悪魔達。


 それにしても、本当にこの人達が山賊紛いの事をしているの?


 全然そうは見えないけど……。


「皆さんはどうして山賊なんてやっているんですか?」


「俺達はそんな事しないぞ。もしかして“山賊はつらいよ”と勘違いしているんじゃないか?」


 何それ? つらいならやめれば良いのに。


「ルシーフ領ではまともに政治が機能せんから、あちこちで強い悪魔が徒党を組んでいるんだ。中でも特に強力なチームは二大勢力と呼ばれ、それが俺達“推ししか勝たん”と“山賊はつらいよ”だ。」


「なんだか大変ね。」


 群雄割拠とでも言えば良いのかしら?


 ルシーフ領は随分と大変な状態みたい。


「君達二人が言っているのはその“山賊はつらいよ”の事だろうな。奴らは日々、俺達だってつらいんだと言いながら山賊行為に明け暮れている。」


 つらいのに山賊するの? 全然意味が分からない。


「じゃあ、あなた達は何をするチームなのよ?」


「俺達は推しの女の子を助けて暮らしているんだ。借金に困っていたら金を渡すし、食うに困っていれば仕事を紹介する。もちろん悩み相談も受け付けている。」


 結構良い人達なんだ……。


 慈善活動団体って感じ。


「推しじゃない人は? 助けてくれって言われるでしょ?」


「そんなものは知らん。勝手にどうにかしろと言って放り出しているさ。なんせ俺達は“推ししか勝たん”だからな。」


 やっぱり良い人じゃなかったみたい。


「どうしてもと言う奴もいるが、その場合は金を取って依頼を受ける事にしている。慈善事業ではないもんでな。」


 推しに対しては慈善活動、それ以外には営利活動、金がない奴は知らん、って事かしら。


「自分の好きな人はタダで助けてあげるって事ね。割と健全な感じがするわ。私だって好きじゃない奴をわざわざ助けないもの。」


 言われてみればそうね。


 私も良く知らない人を何の見返りも無く助けるって事はしないかも。


「だろう? もし良ければ君たちも“推ししか勝たん”に入らないか? そうすれば、俺達は推し推されの素晴らしい関係を築けると思うんだ。」


 悪くはないんだけど、聖女軍と掛け持ちは無理ね。


「すみませんが遠慮しておきます。私達は“聖女軍”のトップなので。」


「その“聖女軍”とは何だ? 聞いた事がないな。」


 聖女軍は最近出来たばかりだし、ルシーフ領の人達にはまだ伝わってないみたい。


「簡単に言えば聖女をトップに据え、魔神アンリ、ベーゼブ、アドンを傘下に加えた新しい勢力よ。」

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