第66話 聖女の遠征3
「魔神三体を配下にしたのか!?」
「えぇ、ここにいるアリエンナがトップなの。そして私が№2。」
“推ししか勝たん”の人達は大層驚き、開いた口が塞がらないようだ。
「……聖女とは回復魔法が使えるという、あの聖女の事か? 聖女が強いとは聞いた事もないが。」
「その通りよ。強さに関しては……聖女っていう肩書関係なしにアリエンナが強いの。」
「成る程。にわかには信じ難いが、目の前で実際に強さを見せられたしな。」
納得してくれたみたい。今度からは誤解されないように、身体強化をもう少し強めに常時発動させておいた方が良いのかしら?
今の発動状態だと1級上位悪魔と同レベルくらい。魔力の回復量が消費量を上回っている感覚がある。
回復と消費が釣り合うくらいに上げておこう。
「アリエンナ、どうしたの?」
「弱いと誤解されないように、魔力の消費と回復が釣り合うくらいに身体強化を調整してみたよ。」
「良いんじゃない? 魔神に一歩及ばないくらいってところかしら? なら私も。」
お母さんも身体強化魔法を調整した。大体特級くらいかな?
「よし、これで良いわ。」
「では案内をお願いします。」
私達は“推ししか勝たん”に案内され、ルシーフの城へと向かっていた。
歩いて行くと結構時間がかかるという話だったので、面倒になった私達は走って目的地へと向かう。
「後どのくらいですか?」
「今のペースだと二日はかかるな。」
そんなにかかるの? 聞いてないんだけど。
体感だと、恐らくは時速150㎞以上で走っていると思う。
なのに二日もかかるとなれば、相当な距離だ。
「もっとペースを上げてもらう事は出来ませんか?」
「無理だ。これ以上ペースを上げると俺達の体力が持たない。」
うーん……流石に全員を抱えて走るのは無理だし、どうしようかな。
「道案内に一人だけ私が抱えて走るので、残りの人達は待機してもらって良いですか?」
「しかしな……。」
難色を示す“推ししか勝たん”の人達。離れ離れになりたくないなんて、仲が良いのね。
「目的地に着いたら私が転移魔法で迎えに行くわよ?」
そっか。お母さんも転移魔法を使えるんだった。
「なら大丈夫だ。」
「ちなみに、あなたのお名前は何でしたっけ?」
「俺はルゴールだ。」
「では、ルゴールを連れて行く事にします。」
という事で、私は“推ししか勝たん”のリーダー格、ルゴールを抱えた。
俗に言うお姫様抱っこで。
「……この体勢は恥ずかしいんだが。」
「気にしてはいけません。それよりも、お城がある方角を教えて下さい。」
「あ、あぁ……あっちだ。」
私とお母さんは示された方向へと走りだした。
「ちょぉぉぉ! 前っ! 前ぇぇっ!!」
「うるさいですね。」
ドギャァァッ!!
私達は木々をバキバキとなぎ倒しながら走る。
「障害物を無視した方が速いじゃないですか。」
「待て! 待って! ちょぉぉぉっ!!」
ルゴールはひたすら騒ぎ立てていた。早く慣れて欲しい。
「騒ぐと危ないですよ?」
グシャァッ!!
「あっ。」
ドラゴンを轢いちゃった。
なんて運の悪い魔物なのかしら。
私とお母さんはひたすら走り続け、森を抜ける。
その間にもグングンと加速していき……
ドンッ!!
と何もないところで強い衝撃を受けた。
私は突然の事にビックリしてしまう。
「今の、何?」
『アリエンナは知らない? 音速を超えると衝撃波が発生するのよ?』
音速って何だろう。
『分からないって顔ね。簡単に言えば、時速にして約1225㎞が音速。音が伝わる速さって事。』
知らなかった。音にも速さがあるんだ。
「それにしても何で念話なの?」
『アリエンナ、この速度で走ってるんだから、まともに音が伝わらないわ。念話で話して。』
そうなんだ。念話って使ったことないけど、こんな感じ?
『わかった。これで良い?』
『えぇ、バッチリよ。それよりも、ルゴールは大丈夫なの?』
あっ……忘れてた。
お姫様抱っこで抱えているルゴールに視線を向けるとぐったりしている。
『私が今から使う魔法を真似して。じゃないと、その人死んじゃうわよ?』
お母さんがそう言うと、魔力を円形に展開し始めた。
早速私も真似してみる。
『こんな感じ?』
『そうそう。取り敢えず、これで呼吸しやすくなったでしょ?』
確かに、さっきは結構息苦しかった。
『後で休憩しましょう。このペースで走り続けるとお母さんも8時間くらいしかもたないわ。』
それだけ走れるなら十分だと思う。でも、疲れちゃうから休憩も必要よね。
『わかった。』
「いつの間にこんな所まで……。」
「やっと起きたの?」
今は大きな湖のほとりで休憩中。ルゴールは結局今の今まで目を覚まさなかったのだ。
「俺はどの程度気絶していたんだ?」
「大体5時間近くは目を覚まさなかったわね。」
「そうか、その間既に8割方踏破していたのか。一体どれだけの速度で走ったのやら……。」
彼は呆れた顔でぽつりと呟く。
かなりの時間を短縮できたみたい。結構頑張って走ったもんね。
「どうぞ。」
私はサンドイッチをルゴールへと手渡す。
「頂戴しよう。」
お腹が空いていたのか、彼は勢いよく食べ始めた。
「美味いな。カレー味とは斬新だ。」
「それは良かったです。」
カレー味しか作れないんだけどね。
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