第8話 聖女の紹介

「それはブッ叩……いや、何でもねぇ。」


「そうですか? あっ、それがテイムの魔法という事なんですね?」


「違っ……違わないのか? 確かにテイムは出来てるしな……。」


 ブツブツと呟くギャモーは何だか考え込んでいるみたい。


「取り敢えず、ギルドに街を出る事を報告しましょう。」


「まぁ……そうするか。」




ギルドにて


「聖女様はこの街を出ていってしまうんですか?」


 受付のお姉さんは困り顔で聞いてくる。


「一時的に故郷へ帰るんです。また戻って来ますよ。」


「良かったぁ。それなら護衛に街の騎士団と馬車を手配しますので、一日だけ待ってください。」


 護衛をつけてくれるみたい。しかも馬車まで。


 聖女はチヤホヤされるって本当だったのね。


「騎士団? 騎士団の人たちはどのくらい強いんですか?」


「そうですねぇ。5人もいればスーパーゴブリンを討伐出来るくらい……あれ?」


「どうしました?」


「聖女様はスーパーゴブリンや姫ゴブリンを単独で討伐しましたよね?」


「はい。」


 この辺の魔物はそんなに強くなかった。


「もしかして護衛が足手纏い? でも、付けないのも問題になるし……。」


 受付のお姉さんは何やら悩んでいる。もしかして彼氏が欲しいとか?


 そうか。私がギャモーと良い仲だから焦っているのね。


「ごめんなさい。そんなに焦らないで下さいね? きっと良い人が見つかりますから。」


「え? ありがとう……ございます? まぁ、騎士団は確かに強い人が多いですから、護衛に最適な人もいますよね。」


 お姉さんは騎士団狙いだったのね。護衛に来てくれた人を紹介してあげよう。


「今度騎士団の人を紹介しますね。」


「はい? むしろ騎士団を紹介するのは私なんですけど……。」


 きっと照れてるんだわ。ギルドでお世話になったんだから、そのくらい遠慮しなくても良いのに……。


「えっと……明日の朝、もう一度ギルドに来てくださいね。」


「わかりました。」


「それなら今日は旅支度だな。買い物に行くぜ?」


 ギャモーに言われてハッとした。


 考えてみれば当たり前の事で、ここから故郷までは距離があるのだ。当然旅支度は必要になる。


 私は着の身着のまま猪に乗ってサバイバルしながらドゥーへ来てしまった為、その事を完全に失念していた。


「そうしましょう。」


 私達は旅の間に必要な食糧を買い込んだ。


 聖女なのに杖が無いのは変だと言われ、ギャモーが見繕って買ってくれた。


 余程私と結婚したいに違いない。


 嬉しい。大事にしよう。




翌日


 ギルトへ行くと、既に騎士団の人達が待機していた。


「聖女様。こちらの方々が今回護衛して下さる騎士団の隊長さん方です。」


 そう言って、受付のお姉さんが騎士団の人を紹介してくれる。


 それにしても、お姉さんったら疲れてるのかしら? ふわっと欠伸をして眠そうだけど……。


「ご紹介に預かりました、護衛隊隊長、十人長のダイアン=キチジーツです。」


「同じく副隊長、十人長のブツメツ=ニュウメーツです。」


「よろしくお願いします。聖女アリエンナです。」


「冒険者のギャモーだ。よろしく頼む。」


 隊長さんと副隊長さんは誠実そうな人だった。いきなり私に襲い掛かって来ないし。


 この人たちなら、お姉さんに紹介しても良いかもしれない。


「こちらギルドの受付のお姉さんです。彼氏を募集していますのでよろしくお願いします。」


 私がお姉さんの紹介をすると……


「は? はい……。よろしくお願いします?」


 隊長さんはいきなりで驚いたみたい。


「自分は婚約者が居ますので。」


 副隊長さんにはフラれちゃった。


 お姉さんを見ると……


 え? って顔してますね。どうしたの?


「あの……何で募集中だって分かったんですか?」


「聖女にはそういった力があるんです。」


 本当は違うけど、そう言っておいた方が説得力もありそう。


「ダイアン=キチジーツさん、よろしくお願いします。」


「こ、こちらこそ。貴女のお名前は……。」


「№1受付嬢のミレイユと申しますわ。」


 急に華やかな笑顔を振りまき、口調と態度を変えるミレイユさん。


 さっきまでは少し眠そうだったじゃない。まぁ上手くいくならそれで良いか。


「それでは我々23名が護衛致しますので、道中の安全はお任せ下さい。」


 隊長さんもさっきよりキリッとしたわ。きっとミレイユさんに格好良い所を見せようとしているのね。




 馬車での旅路は快適だった。ゆっくりとした移動ではあるけど、サバイバル生活よりもずっと楽で良い。


 騎士団の人達は休憩の合間、私を聖女だと言う事でチヤホヤしてくれ、その対応には大満足だった。


 道中は特別なトラブルなど起こる事もなく、いくつかの街や村を経由し、国境を越えて深淵の森へと辿り着いた。


「ここは流石に通って行けませんので、大きく迂回致します。」


 時間はかかるけど仕方ない。迂回しても1日で辿り着く距離だし。


 それにしても懐かしい。この森ではたくさん遊んだ思い出がある。


「わかりました。本当は森を突っ切ればすぐなんですけど……。」


「流石に無理だ。お前以外全滅しちまう。」


 そうですよね。全員は守り切れないし、仕方ないか。




 そうしてドゥーを出発してから約二週間かけ、アリエンナとその一行は目的の地へと辿り着く。


「あの村が私の故郷です。」


 既に、私の村が目視出来る距離まで来ていた。


「それじゃあ行こうぜ。」

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