第6話 聖女の本気
翌日、私達は再びギルドで依頼を受け、ゴブリン討伐に来ていた。
「今日もゴブリンが大量ですね。」
「だな。」
ギャモーは昨日と変わらない剣の冴えを見せ、次々とゴブリンを倒していく。
そして私は『みんな友達』を使わず、ひたすらゴブリンをブッ叩く。
「アリエンナよぉ。」
「どうしました?」
「魔物を仲間にしなくても強ぇじゃねぇか。」
「はい? 普通ですよ。それに、ゴブリンなんて弱いじゃないですか。」
急にどうしたんだろう。これもチヤホヤの一環でしょうか?
「確かにゴブリンってのは魔物の中では弱ぇが、それでも普通の人間くらいには強ぇんだぜ?」
「言われてみれば、ブッ叩いた時の手ごたえが同じくらいですね。」
「……そんなに頻繁に人を叩いてたのか?」
ギャモーが後ずさる。いったいどうしたの?
「私は魔女ですから……。襲い掛かってくる村人に対抗しなければいけませんでした。」
私がそう答えると、彼はハッとした顔になる。
「すまん。そうだったな。自衛は必要だ……。」
「はい……。」
村ではしょっちゅう男の人に、物陰に連れ去られそうになっていたのだ。勿論毎回ブッ叩いて追い返していたけど……。
「そう落ち込むな。俺は魔女だなんて思ってねぇさ。」
「本当に?」
「あぁ。頼りになる仲間だと思ってるぜ!」
嬉しいわ。これが冒険者の仲間ってやつなのね。
冒険者になって良かった……。
照れくさいのか、ギャモーは「さ、次々倒すぞ。」と言って背中を向ける。
「フフッ。ありがとうございます。失礼な顔した私の大事な仲間。」
「ありがとよ。……褒め……いや、馬鹿にしてんのか?」
「褒めてますよ。」
「そ、そうか。」
それにしても、今日の稼ぎは凄い事になりそう。
「……おかしいな。」
「何がですか?」
「既に200匹は倒してる。それでも途切れねえ……。こりゃあ大物がいるぜ。」
大物? まさか……マグロ?
「怖い……。」
「心配すんなって。いざとなりゃ、お前だけでも逃がして見せるさ。」
凄い。ギャモーは全く恐れてないみたい。
頼もしい……。
「でも、それだと貴方が……。」
「大丈夫だって。まだ大物が出てくるとは決まっちゃいねぇ。」
「もう帰りましょう……。」
いくらギャモーでも厳しいはず。
だって、マグロは時速80㎞以上で泳ぐのよ? きっと逃げられないわ。
「大物が出てくるにしても気配も無ぇし、もう一稼ぎしようぜ?」
どうしよう。マグロの気配なんて察知できない。
こんな事なら、もっとマグロを食べておくんだった。
「ギャモーはマグロがどこにいるか分かるんですか?」
「マグロ? 何で急にマグロの話が出てくるんだ?」
ギャモーこそ何を言っているんでしょう。
「マグロが出てきたら勝てないわ。」
「は? マグロなんて出てくるわけねぇだろ。」
「大物って言ったじゃない。」
昔……村で一度だけ見た事がある。体長8mの巨大マグロを、村の男達が「大物だー!」と言って担いできたのだ。
あれはきっと、たまたま死んでいたのを拾ってきたのだろう。
私はあの……恐ろしい目をしたマグロが忘れられない。
一切の光を宿しておらず、誰彼かまわず奈落に引きずり込むような漆黒の目。
まさに、不吉を象徴する死んだ魚の目をしていたのだ。
「マグロは海にいるものだろ。」
「前に村の男達が陸で拾ってきたんです。」
「何か勘違いしてんじゃねぇのか?」
どうして信じてくれないの?
「勘違いじゃないわ! あれは……恐ろしいものよ。」
でも美味しかった。
「まぁ……マグロは置いといてだな、俺が言ってんのはスーパーゴブリンだ。」
「え? そうなんですか?」
「あぁ。奴らは強い。買い物帰りの奴らは特にな。」
マグロじゃないなら大丈夫そうね。
「常にエコバッグを持ち歩いて行動しているんだが、エコバッグの中身が詰まっている時は本当にヤバい。夜のヴァンパイアと同じ強さだと思ってくれ。」
重さのせいで動きが鈍ってそうだけど……
そんなに強いのかしら?
「ジョッビングゼンダァァァ!!」
え?
「クソっ! 奴が来やがった。話に気を取られちまったぜ……!」
エコバッグを手に持つゴブリンが現れた。
これが先程言っていた、スーパーゴブリンなのかしら。
「ボインドガードオモヂデズガー!!」
スーパーゴブリンは一瞬でギャモーの懐に飛び込むと、エコバッグから小さな長方形の鉄板を取り出し攻撃を始める。板には49ポイントと書かれている。
「くっ! マズいぞ! アリエンナは逃げろ!!」
「50ボインド、51ボインド、52ボインドォォォ!!」
ギャモーの剣と打ち合う鉄板からは火花が散る。
次々と繰り出される攻撃に、ギャモーの額には汗が浮かんでいた。
「ギャモー! 今援護します!」
「来るな!! 俺が抑えてっから逃げやがれっ!!」
「70ボインド、71ボインド、72ボインドォォォ!!」
「やべぇ! 100ポイント貯まっちまう! 早く逃げろ!!」
先程よりも激しく火花を散らし、鉄板で猛撃を繰り返すスーパーゴブリン。
ダメ! このままじゃギャモーが……
急いで援護しなきゃ!
「はぁぁぁぁっ! 吹っ飛びなさいっ!」
ドンッ!!!
巨大な質量を叩きつけたかのような音がし、スーパーゴブリンは吹っ飛んでいく。
ギャモーが驚き視線を向けた先には、今まで戦っていた強敵の居た場所に、力強く拳を置くアリエンナの姿があった。
「は?」
「危ないところでしたね。」
「お前、そんなに強かったのか?」
「強いかは知りませんが、ヴァンパイアなら仲間にした事ありますよ?」
「……それを先に言ってくれ。」
聞いてくれれば良かったのに……。
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