【完結】世界の終わりで君と恋をしたい

第143話 歌姫がダンジョンにチャレンジする理由

　話はユリナが『歌姫』のライブ配信で廃ホテルダンジョンへのチャレンジ宣言に至る三日前に遡る。

「太ってる……」

　その日、長風呂を終えてようやく出たユリナはいつものようにヘルスメーターに乗り、青褪めた。

　僅かではあったものの体重が増加している。

　そう思うと心無し下腹部がぷにぷにしているように見えてきたユリナは、感触を確かめた。

「まずいわね。これは太ってるわ」

　実際には誤差の範囲で体重が少しだけ、増えたに過ぎない。

　誰が見てもユリナの腰回りはスリムな部類に入るものだった。

　腰に手をやるポーズを取れば、指の先がくっつくレベルの細さである。

　麗央はユリナを搔き抱く時、折れやしないかと内心、冷や冷やしていることを彼女は知らない。

　しかし、一騒動が巻き起こるのは次の日である。

　目を皿のようにして、ファッション雑誌に目を通していたユリナが麗央でも驚くほどの勢いですくっと立ち上がった。

　雑誌を手に目の前で仁王立ちするユリナを前に麗央は目を瞬（しばた）く。

「ど、どうしたんだい？」

「レオ！　私とこれをしましょ。ダイエットしたいの」

　ユリナはやおら雑誌のとある頁を開く。

　何とも刺激的な文言の入った記事が麗央の前に展開されていた。

『恋をして、気持ちよく、楽に痩せよう！　セックスダイエット特集』

　麗央はまたもや「おや？」と思った。

　見出しだけで色々な情報が入ってくる。

　情報過多に麗央の処理能力は早くもパンク寸前に陥っていたが、ユリナが何かを勘違いして暴走しかけているのを察っせないほど鈍くない。

「リーナ。それ、ちゃんと読んだかい？」

「よ、読んだわよ。激しいセックスをすれば、痩せるのよ。レオはお子ちゃまだから、知らないのね」

　「ふふん」と言わんばかりになぜか、ユリナは勝ち誇ったような顔をしている。

　お姉さん風を吹かせているつもりのユリナだが肝心のセックスが何なのかは一切、理解していない。

　麗央も止めようとしたもののいまいち、理解していないので何をどう止めればいいのかが分からない。

　どちらもないない尽くしなのだが、この夫婦はともに負けず嫌いの一面がある。

「そういうリーナはセックスが何か、分かるんだよね？」

「と、と、当然だわ。私が知らないとでも？」

　腕を組み悠然とした麗央と腰に手をやり勝気な表情をしたユリナが静かな火花を散らしながら、対峙し始めた。

　三人の同居人は巻き込まれないうちに既に退避していた。

「じゃあ、何をするのかな？」

「な、何？　何をするのよ？」

「それを聞いてるんだけどなあ。どういう行為をするのか、リーナは知らないんだろ？」

「知ってるわ。えっと……」

　ユリナは雑誌の記事に再び、目を通したが、よく見ていなかった挿絵を見て絶句した。

　男女が交合しているイラストだったからだ。

　「どういうこと？」が彼女の頭の中を埋め尽くしていく。

　段々と難しい顔になるユリナを見て、さすがに可哀想と思ったのか麗央は呆れながらも優しく諭すことにした。

「俺にもよく分からないけどさ。多分、俺のコレをリーナに……」

「そ、そういうことよね」

　ユリナは麗央のアレを幼少期に見て、触ったことがあった。

　まだ小さく、小指の大きさもないほどの頃だ。

　彼女が持つアレのイメージはその程度のものだったが、夫婦生活を続ける中で麗央のアレが遥かに大きく成長しており、ひょんな拍子にさらに大きくなることを知った。

　まず自分の中に麗央の立派なモノを受け入れる想像が出来ない。

　頭が追い付かないのだ。

　麗央のモノが自分を見て、大きくなるのはどうにか理解したユリナだが、それを受け入れる自分がどうにも想像出来ない。

「それでどういうこと？」

「多分だけどさ。これは俺のコレをリーナに刺して、それで激しく動かないと意味がないんじゃないかな」

「無理だわ。そんなの」

　麗央の股間にふと目を向けたユリナは恥じらいからか、両手を顔にやるといやいやと頭（かぶり）を振る。

　顔は上気したように桜色に染まっている。

　おまけに動くたび、ユリナの狂暴なメロンも揺れていた。

　それを見て、しまったと思いながらも麗央のアレは反応してやや元気になった。

「もっといいダイエット法があるから、それにしよう」

　己の心を落ち着かせながら、麗央はユリナの頭を幼子をあやすように撫でる。

「う、うん。そうする……」

　こういう時は妙に聞き分けのいいユリナだった。

　二人は全く、気付いていない。

　それがキャベツ畑に赤ちゃんを呼ぶ為にいずれ、しなければならない行為であることを……。

　翌日のことである。

「レ～オ～！　一緒にダンジョン行きましょ。楽に痩せられそうだわ☆」

　どこで聞きかじったのか、ダイエットで一暴れすればダイエットにいいとの情報を入手したユリナはライブ配信を行い、ダンジョンにチャレンジすることを決めたのだった。