第44話 影響されてないか? 


「それじゃ。また月曜に。おつかれさまでした~ では、解散!」

 部長の解散の声で、僕たちは、それぞれの帰途についた。


 昨夜はよく晴れたので、テントで休憩するのがもったいなくて、ずっと空を見ていた。だから、みんな完全に徹夜状態だ。

「帰ったら、もう絶対昼まで寝る~」と今にもその辺に倒れ込んで眠りそうな部員もいれば、逆にハイになってるヤツもいる。


 里見がそれだ。

「なあなあ。伏見、この後どうするん?」

 帰りかけた僕の肩をたたく。

「え? このあと? いや、普通に帰って寝ようと思てるけど」

「そうか……。帰って寝るんか……」

 里見が残念そうに下を向く。

「え、なんか、用事でもあるん?」

「いや。帰る途中、どっかで、朝飯食べへんかなって思って」

 僕のポケットの方(もちまるがいる)に目をやりながら、「ハンバーガーでも」と言った。


 駅前にバーガーショップはあるけど、ここから駅へは、

「僕は、家帰るのと反対方向なんやけど……」

「そこをなんとか。もう少し……一緒におりたいなぁ」

 僕のポケットの方を見つめながら言う。もちろん、里見が一緒におりたいのは、もちまるだ。

「う~ん」

 僕が唸っていると、

「そこをなんとか」 里見がもう一押ししてくる。

「……そこをなんとか」

 里見の声に続いて、ポケットからも小さな声が聞こえた。もちまるだ。

「おいおい。ふたりそろって……」

「なあなあ」と里見。

「なあなあ」ともちまる。

「え~」

 う~ん。

「もう。しゃあないなぁ。めっちゃ眠いからあんまり長居はせえへんで」

「OKOK」

「よしよし」

 握手するみたいに、里見の差し出す人差し指を、もちまるが伸ばした手できゅっと握る。


「もちまる、なんか里見に影響されてないか?」

「いやいや。単純にオレもお腹が空いた。それに、今の時間なら、モーニングセットがある。あのハッシュポテト、久しぶりに食べたい」

「そうそう。あれは、モーニングセットにしかない」

 里見がすかさず付け加える。

「……しゃあないなぁ。ほんじゃ、行くか」


 駅前のバーガーショップは、不思議に空いていた。開店時間すぐ、というのもあるのかもしれない。もしかしたら、他の部員たちもいるかと思ったけれど、みんなさっさと帰ったのか、誰もいなかった。

 モーニングセットを頼んで、奥の方の席に座る。ぱっと見は、高校生男子2人連れ。でも、本当は、+妖怪?1名。だから、その分、僕の注文量は、少し多めだ。

 それでも、幸いモーニングセットは、かなりサービス価格で、比較的お財布には優しい。


 注文したものが届いて、もちまるは、お気に入りのハッシュポテトを嬉しそうにかじる。そんなもちまるを見ながら、嬉しそうに、これまたハッシュポテトをかじる里見。そして、そんな2人を見ながら、僕も同じポテトをかじる。

「オレ、普通のより、こっちのポテトの方が好きかも」

 里見が言う。

「実は僕も」

 僕も同意する。カリッと香ばしくて、程よい塩気が美味しい。

「ほら。来てよかったやん。 美味しいやろ?」

 もちまるが、得意げに言う。

(いや、作ったん、あんたとちゃうで)とつっこみたいところだが、

「まあ……そやな」

 僕は苦笑いする。



 里見の話題は、いろいろだ。星や望遠鏡の話、予備校の冬期講習の話など、まあ学校でも出来そうな話だけれど、こうして、1対1で話すのも悪くない。くわしく本音が話せる雰囲気になる。


 里見は、まだ個人の望遠鏡を持っていない。何を買えばいいか思案中で、もしかしたら思案しているうちに、高校卒業してしまうかも、なんてことを言って笑っている。

 僕は、従兄の望遠鏡を譲り受けたので、それを使っているけれど、それがなければ、たぶん、里見と同じ状況だったろう。僕も里見もゆるく星空を楽しみたい、というレベルの星好きで、けっこう本気の天文ファンの先輩たちには、ちょっと申し訳ない気もする。


「それはともかく、冬期講習は行ってみようと思うねん」

 里見は、ソーセージエッグマフィンの包みを開きながら、言った。そして、間に挟まった目玉焼きを半分にちぎると、おっと、と言いながら、半熟の黄身がたれないように気をつけつつ、もちまるに差し出す。テーブルの上に座っているもちまるの小さな手が、目玉焼きをそっと受け取る。

「ありがと」「ありがとう」

 もちまると僕が言う。

「どういたしまして。……いやさ、夏にお試しで行ったときに、国語の講座で、めっちゃ面白いのがあってさ」


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