第34話 気になって


「なあ。訊いてもええかな?」

 小さな声で、里見が言った。


 今日は、前にも来たことのある、石川の河川敷での天体観測だ。今日は、夏休みに入ってすぐだから、先輩たちも同期の子たちも、けっこう揃っていて、にぎやかだ。

 来月に入ったら、ペルセウス座流星群を観る計画がある。今日は、そのプレ観測会だ。


 みんな河川敷に分散して、あちこちで空を見上げている。僕は、従兄から譲ってもらった望遠鏡を持参してきた。おばさんは、そんなにええやつちゃうでと言っていたけど、けっこう性能もよく、しかも後から追加で従兄がくれた高倍率のレンズを使うと、思っていた以上に、惑星などもきれいに見える。


 里見は、僕の望遠鏡を一緒に使っていた。

 たまたま、周りに人がいなくなったとき、

「なあ。訊いてもええかな?」

 小さな声で、里見が言った。


「ん? なに?」

 いつものように、僕のポケットには、小さなビー玉サイズのもちまるがいる。彼は、里見がそばにいるので、いつもよりちょっと固くなって、息を殺している雰囲気だ。


「いや。あのさ、今日も……連れてきてるん?」

 どう言ったものか迷うような顔をして、彼は言った。

「へ? 誰を?」

「なんか、時々、オマエとしゃべってるちっこいやつ」

「!!!」

「白くてまるい感じの……」

 僕のポケットの中で、もちまるがびっくりして飛び跳ねた。

 僕も、かたまってしまう。

「……なんで、いや、なんのこと?」

 僕は、とぼけるべきかどうか、迷いながらやっと言う。でも、目がうろうろしてしまう。

 里見は、ぼそぼそと続ける。

「いや。黙っとこうかどうしよか、って思っててんけど。……なんかめっちゃ気になって」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る