第17話 『了解』ってことやんな?
バスを降りたあと、電車に乗り換える。途中、最寄り駅が同じ光瀬・美月とわかれて、僕は1人で、家路を急ぐ。
3人ともお腹は空いていたけれど、どこかお店に入って食べる元気は残っていなかったのだ。服も結構汚れているし、早く帰って、シャワーを浴びたかったのだ。
僕は、周りに人がいないのを確かめて、そっとポケットの中に、駅で買ったアメを1つ、差し入れする。
「ごめんな。もちまる。おやつ、僕らだけ食べて。遅くなったけど、アメ」
ポケットにそう話しかけると、中から、すぐにアメの包みを開けるかすかな音がした。そして、「ありがと」と少しモゴモゴした声が聞こえた。早速、アメを頬ばってるらしい。
「昼ご飯は、帰ってからにするわな。いいやろ?」
「ん」
「そういえばさ、さっき、何か言いたそうやったけど?」
「ん。大吾、おまえ、気ぃつかんかったか?」
「なにを?」
「あの、ご住職、たぶん、本人とちゃうで」
「え? どういうこと?」
「いや、ご住職が膝を痛めてはる、いうんは、おそらく、ほんまのことやと思うけど。お茶をいれてくれはったんは、ご住職とちゃう」
「え? じゃあ、まさか、僕ら、狸か狐に化かされてたとでも?」
「ちゃうちゃう」
不安そうな僕に、もちまるが笑って言った。
「帰り際、ご住職いてはれへんかったやろ?」
「うん」
「それで、大吾たち、本堂の仏様にご挨拶したやん。あのとき、仏様の顔、見ぃへんかったか?」
「ん、ちらと見た」
「笑ってはったやろ?」
「え? え? まさか、まさか……」
気のせいやと思ってた。確かに、ご住職と仏像の顔が似てるなあとは思ってた。それに、帰りに、僕らが頭を下げたとき、なんだか笑い返してくれた気がしたけれど。まさか。
「そうやで。すごく喜んでくれてはったな」もちまるが言う。
「そっか……そうやったんか」
「本物のご住職は、病院かどこかに行ってて留守やったんかもな。きっと、今頃、帰ってきて、きれいになってるの見て、びっくりしてはるかもな」
もちまるが笑った。
「ふふ。そやな。そういうこともあるかもな」
僕も笑う。
そう。不思議なことは、起こり得る。気づくか、気づかないか。信じるか、信じないか、の違いはあるけれど。
「なあ、もちまる。 めっちゃ疲れたけど、今日、行ってよかったよ」
「そやな。ようがんばったな」
「うん」
「なあなあ。がんばったごほうびに、……今晩はカツにせえへんか」
もちまるが、ねだるように言う。どうやら、この間、食べたカツが、気に入ったらしい。
「う~ん。この間食べたばかりやからなあ。今日は、野菜たっぷり八宝菜とかは、どう?」
「野菜より肉がええな」
「豚肉入ってるよ」
「ほんま? そやったら、食べる!」
「よし、それじゃ、スーパー寄って帰ろう。豚肉と、ウインナーもいれよう」
「サイコー」
帰りに寄ったスーパーで、僕は、野菜と豚肉やウインナーやエビの他に、揚げたてのカツを1枚、買い物カゴの中に入れた。
もちまるが、ポケットの中で、ぽてぽてっと、嬉しそうにはねた。
「半分こやで」
僕はささやく。 もちまるがぽてっと身動きした。
『了解』ってことやんな? もちまる?
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