風と星がささやけば(瞬きの終わる前に SEASON 0)

原田楓香

第1話  偶然?

『それ』に気づいたのは、ほんとに偶然だった。

毎日通学のために通る道で、普段なら自転車であっという間に通り過ぎている場所で、僕は、『それ』に気づいてしまった。


 たまたま、その日は、自転車がパンクしていて、やむなく僕は重いカバンを肩にかけて、歩いて駅に向かっていた。

てくてく歩く僕の右の方から、なんだか不思議な気配がする。

悪い気配ではないけれど、だからといって安心していいのかどうかもわからない。

そんな微妙な気配だ。

人間が発するものでないことは確かだけれど。


 僕は、少し警戒して、まっすぐ前を見て歩く。

こういうとき、その気配の方を見ると、まずろくなことはない。

僕は、これまでの経験で知っている。

だから、何も気づかないようなふりをして、まっすぐ前だけを見て、歩く。

どうやら、その気配は、通り過ぎた僕のうしろをついてくるつもりのようだ。

『それ』は、こころなしか、スキップでもしてるような、ウキウキした気配を漂わせている。

 駅が見えてきた。

あと少しで駅に着く。改札までは、もう20メートルほどだ。

まさかこのまま一緒に電車に乗るつもりか?

僕が、少し危ぶみ始めたところで、気配が急に消えた。

(あれ?)

不思議に思って、うっかり振り返りそうになったけど、ここで振り向くと、

びっくりするほど相手が距離を詰めてきていて、真後ろにいたりするので、

振り向いて確かめたい気持ちをあわてて抑える。

気配はふっつりと消えたままで、無事?僕は、改札を抜けた。

(一体、何やったんやろう・・・・・・?)

首をひねりながら、満員の人の波に合流し、電車に乗り込んだ。


 僕は、伏見大吾。高1だ。

家から最寄り駅まで自転車で8分。

そこから電車で15分ほどのところにある公立高校に通っている。

満員電車に揺られて着いた駅から、徒歩8分ほどで、学校に着く。

家からダイレクトに自転車で通うこともできないわけではないけれど、電車の中で本を読む時間が好きで、基本、電車通学している。

友人の和也や丈くんは、家から直の自転車通学派だ。


 駅で合流した同じ部の連中と、あれこれ喋りながら学校への道を歩く。

そのときだ。

また、例の気配が、した。

 どうやら、気配を消していただけで、僕と一緒に電車に乗っていたようだ。

このしつこさは、・・・・・・ちょっとややこしいタイプのやつかもしれない。

内心ため息をつきつつ歩くうちに、学校に着いた。

下足室で、靴を履き替えて、自分のクラスのある2階へ向かう。

大勢の生徒が行き交う朝の階段や廊下は、様々な足音が入り乱れている。

それなのに、その気配が、ふたたび、スキップしながら、僕の後をついてくるのが、僕にはわかった。

 

 教室に入って、カバンを置いて、周りのクラスメートとおはようのあいさつを交わした後、僕は、自分の教室のある本棟2階から、渡り廊下を通って中棟に行き、そこから階段を4階まで上る。試しに駆け上ってみる。

やはり、気配はついてくる。

 僕が向かっているのは、『中棟4階西の果て』というキャッチフレーズで呼ばれている、地学部部室、兼地学教室だ。地学の授業はうちの学校ではない(昔はあったらしい)ので、実質、僕ら地学部の部室だ。

このフロアは、僕らの部と、隣の教室を使っている地理歴史研究部のメンバー以外、ほとんど近寄るやつがいない場所だ。

生徒の多くが、3年間ただの一度も近づくことなく卒業していくとさえ言われている場所だ。

 ここなら、あやしい奴と会話していても、誰かに聞かれる心配はない。

今は、鍵がないので、とりあえず教室の前まで行って、扉の前で思いきって僕は振り向いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る