荒牧lost

「ふふ~ん。先輩~今日一緒にうどんでも行きましょうよ~♪」

「だから行かねえって!というか先輩って呼ぶな!同級生だろうが!」


などと泰斗に絡んでいるのはさきほど遭遇したランクS能力者,荒牧 奏。泰斗、灰の同級生であり調停者ストッパーの同僚である彼?彼女は二人を先輩と呼んで慕っていた。

ちなみにここ数百年で制服はジェンダーレス制服である。やはり性別は謎だ。


「でもでも~?調停者としてはボクのほうが後輩ですし~?ねぇ、灰先輩?」

「ちょっとパン買ってくる」

「このへんにパン屋はねえよボケ。逃げんなや」


良いように言ってその場を離れようとする灰に泰斗はツッコミを入れつつ止める。


「ですからぁ~うどんでも行きましょうってば」

「話聞いてねえのか!?男か女かも分かんねえようなやつが引っ付いてくんじゃねえ!」

「だったらぁ...ボク、どっちだと思います?♡」

「知らんわ」

(この人...泰斗に惚れてる....?)

「おもんねーですね先輩」

(ないな)


しつこく誘った上に、誘惑するような動き、ただし演技を見せる荒牧と泰斗を見て、灰はとんでもない邪推を行ったが、すぐにそれを撤回する。


「ほら、灰、行くぞ」

「分かった分かった。」

「ボクも着いていきますっ!」


歩くこと数分、急に気になった灰が、後ろにいるはずの奏に問いかける。


「そういや君の能力ってどんな感じなの?」

「あーそれ俺も気になってた。天候操作って言ったってそんな広いわけじゃないだろうし」


だが、その疑問に対する返答は無かった。


「あれ?」


疑問に思った二人が後ろを振り向くと、そこには既に奏の姿はなかった。


「居ない...ね」

「帰ったんじゃないか?」

「まさか。アイツなら声ぐらいかけるだろ。はぐれたか?おーい、荒牧ー?」


返答はない。

そこにちょうど通行人が通りかかる。


「あの...これと同じ服を着た中性的で長めの髪の人...見ませんでした?」

「いいや、見てないね」

「そうですか...ありがとうございます」


そう聞いて、灰はがっくりと肩を落とす。


「まあ、明日明後日の全体補修には来るだろ」

「まあそうか、じゃあひとまず帰る?」

「そうしよう」


そんな会話を後目に、通行人の男が暗い笑みを浮かべる。

また、かすかに聞こえる引きずるような音に二人は気づくことが出来なかった。

そして....




――明日も明後日も、荒牧は姿を見せなかった。

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