ランクS

『次のニュースです。先日、エリアMr-08データセンターにおいて情報漏洩発生が発生しました。犯行は深夜2時頃、盗み出されたデータは能力含む個人情報、AR技術等多岐にわたり....』


「おいおい、なかなか物騒な世の中だな」


ホログラム映像に映し出されたニュースを見て、灰の父...天野 奏人が声を漏らす。


「そんなの昔からじゃんか。外からのデータ泥棒も無能力者の反乱も今までいっぱいあったしさ」

「それもそうか。ともかくお前今日終業式だろ?早く行ってこい行ってこい」

「はいはい。それじゃ行ってきますよ」

「ああ、行ってらっしゃい」




「おっはよ~」

「おはよう灰!聞いたか!」

「おおう、どうした?」


挨拶するやいなやの泰斗のテンションの高さに灰は少したじろぐ。


「この学校でSランクが出たってよ!!!」

「ランクS?ランクAの間違いだろアホ」

「誰がアホや。アホはお前や。ちゃうわそんな事言いたいわけじゃねーわ。今回のスキルチェックから導入されたランクAの上。つまりこの島最強の能力者だよ!」

「あぁ...そういう。お前のことだからどうせ俺がそのTier0だ!とか言い出すんだろ?」

f

実際泰斗の能力は高い。能力名である疾風迅雷の通り、無から生み出せる電圧は平均して秒間三百万ボルト、既に存在する電子を操る分には未知数のエネルギーを操作できる。それに加えて、自身の体表付近に風速10m風を生み出すの噴射点を作成でき、タイプA、超自然系能力の中では最高峰に位置するほどの実力である。

それ故、今までAランク評価を受けていたのだが。


「俺に対する評価よ...いやまあそれはそうとして、能力者は謎、噂だけが独り歩きってとこだ」

「ほーん。ま、俺達にゃ関係ない話だろ」

「いやいやいやいやいやいや!そんな淡白な!」


さほど興味のなさそうな灰に泰斗は大声で語りかける。


「A以上が狙えるようになったってことは、ランクBからランクAに上がるのも少しは楽になったかもしれないんだぞ!?」

「俺の能力技能系だから限界があると思うんだが...」

「おっと...いや...なんかすまん」


技能系の能力、つまり限界が人体のスペックに委ねられる能力であり、それでTier1に上り詰めるためには異常に高い精密性と特殊性を持つ必要がある。

灰の能力、『正確無比』。それは要するに精密身体操作であり、筋力を上げられるとは言え、調停者の活動でも現段階では体術や技術に頼る面があるため、戦闘とは関係のない測定においては低い数値が出やすくなってしまう。


「いやいいよ。別に気にしてないし。ランク付けなんて実力には関係ないしね」

「ほ~ん、ま、ええんちゃう?」

「つか今日は朝から終業式だろ。ほらさっさと行くぞ」

「へいへい」


そう言って二人は体育館へ向けて歩き出す。


「あっ」


しばらく歩いていると突然泰斗が声を上げる。


「どうした?」

「靴袋忘れたわ」

「やっぱアホやろ...」


灰の言葉を後ろに、泰斗は能力の風を使って教室のある3階まで飛ぶ。

ちなみに校内での能力使用は校則違反である。


「見つからないようにな...まあ無理だろうけど」


遠くから声が聞こえてくる。


「こらそこの風使い!待ちなさい!」

「すんませーん!!」



終業式を終えて、気を抜く二人がそこに居た。


「ふぁ~疲れた。なんで600年近く前みたいなやり方なんだよ。いまは和舞だっつ~の」


終業式を完全に無駄だと思う泰斗が呟く。


「それは令和人の台詞だよ...500年前じゃんか」

「歴史は大事だろ?」

「そっくりそのまま5秒前のお前に返すが?」



《エリアZn-15において暴走能力者を観測、鎮圧してください》


「はぁ??????帰りてーのだが?」

「まあまあ、暴走能力なんて滅多に見られたもんじゃないし。ほらさっさと行くぞ。」

「はいはい。じゃあいつも通り行くぞ」

「おっけーだよ」


そう言って泰斗は灰の両掌とかかと、腰に計5つの空気の噴射点を作成する。


「飛んでけぇ!!!!!」


その言葉とともに、灰の体が宙を舞う。正確無比の能力があるからこそできる技であり、泰斗を含む並の人間、ならばそのまま墜落してしまうであろう。


「それじゃ俺は...ちょうどいいのがあるな。よっと」


泰斗はおもむろに近くにあった鉄板を拾い上げ、それに電磁力をまとわせて、自らの電気で作成した磁力のレール上を走らせる。要するにコイルガンと同じ原理である。

それはさながら五百数年以上前の作品でありながら今なお熱烈なファンを有する普及の名作映画に登場するホバーボードのようであった。


「行っくぜえええええええええ!」


そんな二人が現場に着く。


「よっと。相手は...あれか。僕じゃ無理だな」


そこには明らかに制御できていない炎を当たりに撒き散らす少年が居た。炎は避けても熱を帯びている以上、丸腰で戦う灰とは非常に相性が悪い。


「んじゃあ、俺に任せとけ」


泰斗の能力は電気を操る。それはイコールで電子の塊を操る能力であるため、殆どがプラズマによって構成されている炎とは自身の電撃によって指向性を変えることが出来、相性抜群である。


「おらあっ!」


「ダメだっ!逸しきれねぇ!」

泰斗の電撃が迸る。だが、相手側の出力が非常に大きいらしく、そらしきれずに居る。


「一回引こう!ここは水が扱える能力者を待って....」


「その必要はないよ♪」


「!?」

「誰だ!?」


背後から掛けられた弾むような声にとっさに振り返ると、そこには少女とも少年とも取れる中性的な人が立っていた。その...便宜的に彼と呼ぶなら、彼は手でOKマークを作って覗き込む。


「雨3秒、かつ1秒後に大粒の雹」


「なっ...」

「すっげ...」


彼のOKマークの円が作った照準の部分だけに、雨と雹が降り注ぎ、暴走能力者はそこに倒れる。

天候を変えるなどというある意味では成層圏まで届く能力範囲に慄く二人のうち、灰がなんとか質問を投げかける。


「誰....だ?」


問いかけられた彼は、これまた男とも女とも取れない声で話す。


「ボク?一昨日調停者に配属された荒牧 奏。能力は「晴耕雨読」、要するに天候操作で~...ランクS能力者です♪よろしくおねがいしますね?先輩♪」


そんな彼を前に、二人は呆気に取られていた――



あとがき


空気を噴出して空を飛ぶ下りはH-IIAロケットの重量289tを165cm男性の標準体重で割って出た数値で体重ロケットエンジンの噴射速度4km/sを割って間違いなく飛べそうって確認して書いてます。ただしそのままの数値は早すぎて多分Gを受けて灰君死んじゃうので泰斗が適度に調節してるってことで...

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