なかよく、寿司

「………………あっ」

 和泉先生がレーンに流れてきたたまごのおすしを取り損ねた。莉乃のほうに流れてきたから、急いで腕を伸ばしてお皿をとってあげる。

「はい、どうぞ!」

「ありがと………………ていうか、莉乃、本当に、回転寿司で……良かったの……? ひさびさの……デートなのに……」

「うん! 莉乃ね、周るおすし屋さんが一番すきなの。おすしのほかにケーキとかポテトとかも食べれるんだもん。お得だな~って思わない?」

 そう同意を求めると、テーブルを挟んで正面に座った和泉先生(ずっと、たまごorえびばっかり食べてて何かかわいい)は微笑して、「それは……ちょっとわかる」と、ゆっくり頷いてくれた。

 ほんと、好き~~。

 莉乃は改めて、先生をうっとりと見た。

「莉乃って……、意外と、よく食べるよね……」

 そして莉乃の前にお皿が七枚くらい重なっているのを見て、先生がそう言った。先生の前に積まれたお皿は四枚だ。

「えへ。先生と一緒に来れてるの嬉しいから、今日はいっぱい食べちゃう。お財布の負担にならない程度に」

「……先生って言うのは、ダメ…………」

「あ、そっか。そうだね。これからは気をつけないとね」

 ここの回転寿司は学校からかなり離れてるし、身バレする心配もそんなにいらないとは思うけど……。でも、前に赤羽君に「皆、気付いてて知らないふりをしている」って言われちゃったこととか、一瞬先生たちに疑われていたこととかを踏まえて、もうちょっと気をつけなきゃとは思ってる(思うだけであんまり実行に移せてはいない)。

「じゃあ、今日は学人さんって呼ぶね」

「……俺、莉乃のそういうとこ……可愛くて好き」

「ほんと? 可愛い?」

「可愛い……」

 うれしくて、自然とほっぺたがゆるんじゃう。

 頻繁にデートには来れないけど、遠恋とかじゃないし毎日学校で会えてるし。莉乃はこの関係に満足してる。

 そのとき、ふいに莉乃のスマホがスカートのポケットで震えだした。え、電話? 誰だろう……。

「友達……?」

「えっとね、ちょっとまってね……。あっ、いっちゃんだ。なんだろ」

 画面に表示された『INORI《いのり》』という名前。

「東雲さんと……、連絡先、交換……したんだ……?」

「うん。仲良しさんだからね。もしもーし」

 スピーカーにして画面に向かって言うと、「あ、莉乃ちゃん?」とちょっとだけ切羽つまったいっちゃんの声が返ってくる。

「うん。莉乃だよ。どうしたの?」

「ちょっとお願いがあって……、莉乃ちゃん今どこ? お店?」

 いっちゃんが不思議そうに訊いてきた。お客さんたちが、がやがやしてる雰囲気が伝わったみたい。

「彼氏とごはんに来てるんだよ〜」

「え? ごはん……?」

「うん! 岩手のくら寿司!」

「岩手!? 県外じゃん!? くら寿司なら秋田にもあるよ……! なんでまたそんなところに……」

 明日から夏休みだから時間が許す限り彼氏に会える!ってハイになっちゃって、先生とひっそり待ち合わせして、おしゃべりしながら放課後ドライブデートしてたら、いつのまにか県境またいじゃったの。……とは言えない!

「えへへ。このあとは映画に行くんだ」

「あ……、そうなんだ」

 いっちゃんのあっけにとられた声が返ってくる。

「うん。それで? お願いってなぁに?」

「……いや、ごめん。やっぱりいいや。なんでもない、デート楽しんでね」

 そう言うと、プツン、と通話が切れちゃった。

「……何て言ってた…………? 東雲さん……」

「う~ん、よくわかんない……。でも、なんか、困ってそうな感じだったんだけど……」

 声も、ちょっと元気なかったし……。いっちゃん、どうしたんだろう……。「何でもない」って言ってたけど、なにかあるから通話かけてきたんだよね? もしかして、莉乃がデートで県外に来てるって言ったから? 近くにいたら何か頼みたい事があったのかな……。でも、莉乃は今は協力してあげれないし……。

「あっ、そうだ……!」

「?」

 思い立った莉乃に、和泉先生はお寿司を咀嚼しながら小首をかしげてみせる。口からえびのしっぽがはみでていた(いとしい……!)。

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