第9話悪魔ルシア

「何が起きたんだルシア。今、辺りが真っ暗に!」


ルシアに話しかけるも、ネックレスについているはずの宝石ルシアが消失している。


落としたかと足元を探していると脳内に声が響く。


「マスターの意思により、主ルーシェの力との融合が成されました。現在のシンクロ率は17%です。これによりマスターは第1形態での戦闘が可能です」


頭の中で先程の機械音声が聞こえてきた。


「ルシアは!?ルシアはどこに消えた!」


「ご安心くださいマスター、私はルシアです。マスターとの融合により、戦闘特化型ルシアへ移行しただけです。それよりマスター、よく立ち直ってくれました。歓喜です」


「ああ、ルシアのお陰だ、ありがとう。てか戦闘特化って・・・マスターとかキャラ変わりすぎじゃねーのか?」


「戦闘特化型ルシアの凄いところは、魔力の供給はもちろん、状況、先行きを見据えた的確且つ効率的なアドバイスが可能な点です。但し、実際に戦闘するのはマスター本人になりますので、いつものみたいに集中が切れることの無い様にお願いします」


「自分で自分のこと凄いって言うか普通。あと、俺のいつもを知らないだろ!」


「では結界を解除します」


「え、ちょっと待った!そんないきなり!?」


フッと俺達を囲っていた結界が消える。


「ではまずマスターの好きな様に闘ってみてください。あ、でも後ろの女性を助けたいのであれば、立ち回りは気を付けてくださいね」


「いや的確なアドバイスはどこいった!俺さっき傷心から立ち直ったばかりだぞ?!スパルタ過ぎだろ!」


結界が消えたことを確認したガーゴイルが、加速飛行で飛びかかってきた。

後ろに動けない少女がいるため、避けずに両手をクロスしガードするしかなかった。

相手の勢いが凄いため、吹き飛ばされるのを覚悟し、衝撃に備え踏ん張る。ガーゴイルの攻撃が腕に衝突するがたいして衝撃がない。

腕の隙間から相手の方を覗きこむと、ガーゴイルが口を開けて俺の腕に噛み付こうとしているので、慌てて振り払う。

ガーゴイルは警戒し、後ろに距離をとる。


「避けずに立ち向かう勇気、それは評価しましょう。ですがそれ以外はダメダメですマスター」


「仕方ないだろ!人生初バトルだぞ!」


「では戦い方を指示します。身体で覚えていってください。まずは格闘戦です。相手が飛びかかって来たら横にかわし脇腹に打撃を当ててください」


「そんな簡単に言われても出来るか」


「出来ます。相手の動きをよく見て実践してみてください」


再びガーゴイルが正面から飛びかかってきたので、集中し敵の動きをよく見る。すると相手の動きがスローモーションの様に遅くなった。それを冷静に左にかわし、ガラ空きの脇腹へパンチを繰り出す。


「ギエッ!」


ガーゴイルが小さく悲鳴を上げ距離をとる。


「出来た。今、相手の動きが一瞬スローに見えたぞ!」


「身体能力、魔力共に主ルーシェの能力を供給しているのです。このくらいの相手、目を閉じてでも勝てます」


その後も戦闘特化型ルシアの言うことを聞きながら、ガーゴイル相手に格闘戦のレクチャーを受けた。相手との距離のとり方、詰め方など基本的なことから、打撃の繰り出し方、タイミングなどを実践を通し学んだ。

最初の一撃以来、ルシアの指示通りに動くことで、ガーゴイルの攻撃は一度も俺の身体に触れることはない。

だがさっきから俺の攻撃が全く効いてない気がする。かなり当ててるんだけど。


「なあルシア。さっきから俺の攻撃が全然効いてない気がするんだが」


「訓練でしたので攻撃時のみ魔力供給を遮断していました。今までの攻撃は人間としてのマスター自身の自力です」


「おれの全力じゃあいつに全く効果ないってこと!?どんだけ硬いんだよ」


「人の力では低級とはいえ悪魔には効きません。マスターは悪くないです」


自分の攻撃が当たらずイライラしたのか、痺れをきらしたガーゴイルは


「ヨクニゲマワル。ナラバ」


ガーゴイルは狙いを俺から後ろの少女に変えて飛びかかる。


「キャッ!」


「まずい!!!」


身体が勝手に動いたかと思うと、一瞬でガーゴイルの後ろまで距離を詰め背中に回し蹴りを浴びせる。今日初めて強烈な一撃を繰り出す。


「グエッ!!!」


短い悲鳴と鈍い衝突音と共に、ガーゴイルが地面に叩きつけられた。直後、黒い霧に変わりその姿は消えていった。


「今のが魔力解放の力です。5%程度ですけどね。それ以上解放するとあれこれ飛び散ってグロいので抑えました」


「今ので5%かよ。全力ならどうなっちゃうのこれ」


「マスターは今、主ルーシェの力を17%まで解放可能です。それ以上解放するとなると、マスター自身のレベルアップが必要です」


「レベルとかあるのか。今いくつなんだ?」


「具体的に確認出来る数字等はありません。経験と共にいつの間にか上がるといったところでしょうか」


ガーゴイルの消えた跡には、500円玉くらいの翡翠の様な石が転がっていた。


「それは魔石です。そのまま通貨にもなりますし、貨幣に換金も可能です。その大きさなら2、3日の生活は心配ありません」


「もしかして、さっきお金のことは後で説明するって。俺に悪魔退治をさせるつもりだったとか?」


「はい。金策がてら戦闘の経験を積ませるつもりでした。手間が省けて良かったです」


苦笑いしながら魔石を拾い、ポケットへしまう。

そういえば助けた少女は大丈夫だろうか。足を怪我したとか言ってた気がする。後ろを振り向き、少女の方へ向かおうと歩き出したと同時に、辺りに爽やかな風が吹き、身体の力が抜ける様な感覚に陥る。


「融合解除します。お疲れ様でした」


首に少しの重みが戻り、ルシアが元の宝石に戻っていた。

俺は少女に近づき声をかけた。


「大丈夫ですか。足を怪我したって言ってたけど」


闘っている間は暗くて確認出来なかったが、よく見ると少女は見慣れた紺色のブレザーにスカート姿の学生だった。


「仲立君ありがとう。すごく怖かったよ」


月明かりに照らされ、その子の顔がはっきりと見えた。

怪我をした右足を抑えペタンと地面に座っていたのは、ショートカットと愛嬌ある笑顔がよく似合う、同じクラスの田中瑠々タナカ ルルだった。

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