第7話親友の素顔
怒りが一瞬で消えて頭が真っ白になった。
松永比呂って、ヒロ?
鳴海に対しての壮絶な怒りが、まるで瞬間冷却の様に一瞬で冷めていく。
「何をバカなことを言ってるんだルシア。ヒロがそんなことする訳ないだろ」
ルシアは淡々と答える。
「新しいクラス名簿を確認している時にカメラを仕掛けたようですね」
「そんな訳あるか!だってヒロはあんなに心配してくれてたんだぞ!」
友情を穢されたことに腹が立ちルシアに抗議する。
「信じられませんか。ではその時の映像を確認してみましょう」
ルシアはそう告げると胸の宝石から光を放った。
「このままそこの建物の壁に近づいてください」
言われた通り路肩にある建物に近づく。
するとプロジェクターの様に、壁に鮮明な映像が映し出された。
そこに映っているのは、俺、ヒロ、慎也の3人。2年生の始業式、新しいクラス発表の時のもので、俺達3人が、貼りだされたクラス名簿を眺めているシーン。
(動画)
「俺2-Aだ。俺だけ違うクラスかよ」
そこには項垂れながら発言する自分が映っている。
そんな俺に対し隣にいるヒロが話しかけた。
「うわ残念。同じクラスに誰か知ってる人いる?」
俺は再度クラス名簿を確認し
「えーと、これは!誰も仲の良い人がいない」
ヒロはケラケラ笑いながら
「どれどれ。本当だ、これはハードだな」
確かにこんなやり取りをした気がする。
そこで映像が一時停止され、ルシアが指摘する。
「ここですね」
そこには俺に寄りかかりながら、クラス名簿を確認するヒロが映っている。
一部分の映像が拡大されていく。
かくだされたヒロの左手には、見覚えのある黒い小型カメラが映り込んでいた。
その後、俺のカバンのサイドポケットにカメラを忍び込ませ、レンズが飛び出すように調整する様子も確認出来た。
「こんな映像でまかせだ!第一お前はこの時居なかったじゃねーか」
「人間界の出来事はこちらの世界では全て確認出来ます。どんな映像も再生可能です」
ルシアはこの日俺の周りで起きた出来事の映像を次々と切り替える。その全てが心当たりのある出来事だった。
「そんな、ヒロが・・・どうして」
「他にもこんな映像もあります」
ルシアが映像を切り替える。
私服の鳴海英志とヒロが公園で向かい合っている映像だ。
ヒロと対峙した鳴海が口を開く。
「ほら、約束通り動画を編集しておいた。仲立の顔もばっちり映っているはずだ。それぞれ動画を隠し撮るのも大変だったが、繋ぎ合わせるのも骨が折れたよ」
鳴海がヒロに何かを手渡しする。
「お疲れさん。あとは俺が電源を入れて明日涼太のカバンに仕込めば完了だ。あいつのスマホとのペアリングは春休み、図書館で涼太が眠りこけている隙に済ませておいた」
ヒロが指で摘んでいるのは例の小型カメラ。それに対し鳴海は
「だが、万が一クラスの誰にも気付かれず、先に仲立に発見されたらどうするつもりだ」
「大丈夫。その時は昼休みにでも俺が涼太を訪ねて騒いでやるよ」
ヒロが含み笑いしながら答えている。その顔は俺の知っているいつものヒロの顔とは違う全くの別人。
「しかし、君達友達じゃないのか。何故友を裏切る様な事に手を貸すつもりになったんだ?」
鳴海の質問に答えるヒロ。
「別に、単に気に食わないからだよ。いつも俺より下の涼太が、学年1とも言われる桐谷に好かれているその事実が。あいつに桐谷は相応しくないし、これは行き過ぎた果報への罰みたいなものだ」
俺の知っているヒロとは思えない。まるで別人格だ。
「怖いヤツだな。これが発覚したら仲立は社会的に終わると言うのに」
「大丈夫、そうなったら俺が見捨てない。傷心した涼太を立ち直らせてみせるさ。お前は何も心配せず桐谷透華を慰めでもしてればいい」
「わかった。そうさせてもらうよ。では俺はこれで。後は任せたぞ」
「心配するな。じゃあな」
ここで映像がプツンと切れる。
「松永比呂は鳴海英志と結託し、偽動画を作らせた後に自らの手でりょーたのカバンにカメラを仕込んだようです。かなり計画的ですね」
映像を観てから何一つ言葉が出てこない。
俺の知っているヒロは友達想いの優しいヤツだ。この事件の後も俺の濡れ衣を晴らすため精力的に動いてくれた。
それら全てが自作自演の嘘だったというのか。
呆然としている俺にルシアは
「とてもショックなのは分かります。ですが、りょーたには真実を知る権利があります。何よりりょーた自身があのトラウマから先へ進む為にも、真実と目を向ける必要があります」
これが真実だったのか。盗撮犯の濡れ衣以上に心に大きな穴が空いた様な気分だ。
「この真実を受け止め、りょーたが何を思い、この先どうするかはりょーた自身が決めていくことです。私はりょーたの傷ついた心が回復するまでいつまでも待ちますよ。そして再び立ち上がった時は、私が貴方の心の拠り所となります」
その後、ルシアは優しい声色で
「私は貴方を決して裏切りませんからね。あ、あとお友達の慎也さんは無関係ですよ」
その場で崩れ落ちた俺はその後、しばらく立ち上がることが出来なかった。
その間、ルシアはただ静かに、凍りついた俺の心を温めるかのように淡い光をぼんやりと灯していた。
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