第6話舞台裏
ここエラリスについてルシアから説明を受けた後、俺達は神殿を後にした。
ルシア曰く、この場所はシヴァ神が統治する国インドラの僻地にある神殿らしく、隣接する神聖王国との国境付近に位置するらしい。
ルシアから、まずは旅の準備をすべきとのアドバイスがあり、ここから近いインドラ国領の都市アゼリアンの市街地へ向かうことにした。街へはルシアが案内してくれるらしい。
神殿の建つ丘陵を降りる途中、辺りの景色を見て思ったのは、俺達の住む地球とかなり酷似しているということ。
それをルシアに伝えると、当たり前だと言われた。
そもそも俺達の住む世界は、神が自分達の世界を模して創ったとのこと。
これから向かう都市アゼリアンは女神ラクシュミが治める領土で、交易も盛んで市街地は非常に賑やかな繁華街とのことだ。
ある程度のものはそこで揃うとのこと。
但し、この地でも通貨を使っての流通が基本らしく、お金のことを尋ねると
「市街地が近づいてきたら説明します」
との返答が返ってきた。
「そんなことより、りょーたは今後もう少し注意深く他人を観察した方が良いと思います」
「はいはい」
都市アゼリアンの市街地へ向かう途中、ルシアからチクチクと説教を受ける。男と間違えたのが余程気に触ったらしい。
「デリカシーというのは大切なんですよ?特にこれから向かう神聖王国は、見た目が中性的な方がたくさんいますから気をつけてください」
「うんうん」
会ってすぐの時は、りょーた様!とか可愛げあったのに、今やお節介幼なじみみたいになってやがる。
「そんなだから盗撮犯なんかに仕立て上げられるんですよ。もう少し色々と警戒した方がいいです」
「あーもうわかったよ!さっきから謝ってるじゃん!って、え?」
俺が盗撮犯に仕立て上げられた??
こいつ、あの事件について何か知っているのか!?
「ルシア、さっきの事なら謝る!本当に済まなかった。君はなんかふわふわしててかわいい女の子だ!」
「なっっ。は、反省するなら許してあげます。ふふん、そうですよ。りょーたもちょっとは反省したみたいですね」
心なしか赤い宝石が更に赤みを増す。
「それより俺が盗撮犯に仕立て上げられたって言ったか?」
「そのことですか。そうですね、何処から話せばいいですかね」
ルシアは少し間を置いた後
「桐谷透華とは中学校から一緒なんですよね?」
なぜ桐谷が出てくるのか不可解だが
「ああ、唯一同じ中学出身だ」
「何故、同じ高校なんですか?」
「そんなの知らないよ。たまたま学力が同じくらいで志望校が被ったって事だろ」
やれやれ、とルシアは呟き
「桐谷透華がりょーたを追いかけて同じ高校に来たんですよ」
「は?そんな訳無いだろ!中学の時はそんなに仲良くなかったぞ」
そういうのを引っくるめて乙女心って言うんですよ。りょーたもまだまだですね、と勝ち誇ってやがる。
「そんな桐谷透華ですが、高校一年生の終わりにある男性から告白をされました」
ルシアが続ける。
「桐谷透華はそれを断りました。好きな人がいるからと。断る際、告白された相手から、それは誰だ迫られ桐谷透華はりょーたの名前を相手に告げます」
全てが初耳すぎて驚きを隠せない。
「あとは想像出来ますよね。その男の逆恨みと巧妙な罠で、恋敵であるりょーたを盗撮犯に陥れたんです」
そこまで聞いてフツフツと怒りが込み上げてくる。
そんな事で俺だけじゃ無く、多くの人を巻き込む事件を起こしたというのか。
被害を受けたのが俺だけならいい。
悲しい想いをさせた両親、迷惑をかけたヒロや慎也。被害者である桐谷透華や田中瑠々達の事が頭によぎる。
握った手の爪が手のひらにめり込み、ポタポタと地面に血が落ちる。
「そいつは誰だ。ぶっ飛ばしてやる」
自分がどんな顔でその言葉を発しているか分からないくらいに表情は強ばり、全身に血が回る感覚だ。
小日向楓に追い詰められ、鳴海英志や男子達に捕縛された。桐谷透華と田中瑠々の怯えた視線。教師や全校生徒からの軽蔑の眼差し。俺の話を聞いてくれた両親の涙。地獄の様なこの一年半。
1人の男の逆恨みのせいでそれら全てが起きたのであれば、俺はその男を許さない。
「ではまず、逆恨みからこの企てを実行した主犯を教えましょうか」
ルシアは真面目な声で告げる。
「桐谷遥華にフラれ冤罪計画を企てたのは、鳴海英志です」
ブチッ。あのイケメン野郎!頭の血管が切れる音がする。
「それから・・・」
ルシアが理解の出来ない事を言う。
「それを手伝ったのはりょーたの親友、松永比呂です」
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