第2話盗撮犯

午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り昼休みに入る。

この昼休みを以て俺の青春は幕を閉じる事となる。


その日のお弁当は自席で食べることにした。

昼休み中の教室間移動は自由なので、今まで通りヒロ達と一緒に食べる事も出来るが、新たな交友関係構築のチャンスと考え、自分の教室で昼食をとる。


持ってきたお弁当を取り出そうとカバンを持ち上げるが、机の角にぶつけてしまいカバンを床に落としてしまった。

落ちた弾みで俺のカバンから小さく黒いものが床に転がった。

それに気付いた斜め前の席のバレー部の小日向 楓が、床に転がったソレを拾って俺に渡してくれた。


「はい、仲立君落ちたよ・・・って、これ何?カメラ??」


よく見ると小指の先くらいの黒い立方体で、小さなレンズのついた小型カメラだった。


「え、なんだこれ?これ俺のじゃないけど」


「いや、間違いなく仲立君のカバンから落ちたよ。私見てたもん」


小日向は確信を持った表情で答える。

対して俺は全く見覚えの無い小型カメラを前に戸惑う。


「それ明らかに盗撮とかに使うカメラだよね。ちょっと貸して」


小日向が俺から小型カメラを取り上げ、くまなく観察し始める。盗撮用という物騒なキーワードを聞いてか、皆が関心を寄せて集まってきた。

ひと通り調べ終わった小日向は再び俺に視線を戻す。


「仲立君。聞くけどこれで何を撮ってたの?」


「い、いや本当に知らないんだけど!心当たりゼロなんだけど!」


小日向だけじゃなくクラスメイト全員が俺に注目する。

疑いを晴らすために慌てて全力で否定する。

俺のその様子を見た小日向は、少し考えた後に過去にストーキング前科のある長谷部光太郎へ視線を向ける。

それに釣られて周りのクラスメイトも同方向に顔を向ける。


突然多くの目線に晒された長谷部はオドオドしながら


「ぼ、僕じゃありませんよ!アレ以来そういうことは一切してません!本当です」


長い前髪の隙間から必死に主張する。


「うん、ごめん長谷部くん。気にしないで」


小日向の視線が俺に戻る。周りの生徒も再び俺に注目する。

それぞれの目には俺に対する不審感や猜疑心が見受けられ、明らかに容疑者に向けられるものに変わる。


「本当に心当たりないし、第一俺はそんな盗撮趣味に興味ねーよ!」


疑いを晴らそうと声を荒らげ必死に訴える。

訴えながら皆の顔を見るが、共感どころか軽蔑の表情に変わっている。隣の桐谷に至っては俺に対する恐怖心を隠せずにいる。


少しの静寂の後、クラスメイトの1人が


「そういうカメラってスマホから遠隔操作出来るでしょ。この中に自分のスマホから繋げてるヤツいるんじゃない?」


男子生徒がスマホを操作しながら発言する。

周りの生徒がザワつきながら各々のスマホを取り出す。


「あ、ビンゴ。それっぽいペアリングの電波出てるよ。スマホで繋げて操作してるんじゃないかな」


その男子の名は杉村 太一スギムラ タイチ。元Eクラスで弓道部の副キャプテンだ。

俺はこの濡れ衣を晴らすべく、自分のスマホをポケットから出して机の上に置いた。


「じゃあまず俺のスマホを確認しろよ!本当に身に覚えが無いし、こんな濡れ衣を着せられたままとか冗談じゃないよ!」


皆に画面が見える様に指紋認証機能でロックを解除する。小日向とクラスメイト達が俺のスマホに集まって来た。


「よく見てろ。そんなペアリングなんて無いことを・・・証明し・・て」


スマホのロックを解除すると、ホーム画面上に普段見覚えの無い表示が映っており、思わずスマホを操作する手が止まる。


一瞬で背筋が凍り、額に変な汗が滲んできた。


ホーム画面右上に赤く表示された「録画中」の文字。


見慣れない表示に頭がフリーズし言葉も詰まる。

そんな俺の様子を不審に感じた小日向が、俺のスマホを覗き込み眉をひそめる。


「録画中・・・?仲立君、今録画している動画を見せて」


小日向の一言でクラス内が騒がしくなるが、小日向がそれを沈める。


「自分の潔白を証明したいのなら、今録画している動画を見せるべきよ。出来なければ、暗に自分の罪を認めることになるわ」


「マジで心当たり無いんだよ!なんだよ・・・これ」


絶望の中再度スマホを操作する。

録画を停止し、恐る恐る保存された動画を確認しようと試みる。


「待って!変なの映っているかもしれないから私が確認する!」


小日向楓が俺から携帯を取り上げ、動画を確認し始める。

動画の確認をする小日向に皆の注目が集まり、その間静寂が教室を包む。


「何これ・・・やっぱり隠し撮りじゃん。しかも透華の映像が沢山。てか私や瑠々ちゃんも!?」


桐谷透華、田中瑠々が俺のスマホを覗き込んだ後、それぞれ驚きの表情を露わにする。更に確認を続ける小日向だったが、手を止め俺を睨みながらスマホの画面を見せてきた。


「ねえ、これもうアウトだよ仲立君」


それは、カメラを必死にセットしている俺の顔がどアップで映り込んでいる動画の一時停止だった。

周りで見守っていたイケメン鳴海英志、ニヤニヤ聞いていたヤンキー高村薫、生徒会の真田など男子生徒数人が俺の腕を掴んだ。

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