最果ての理想郷?そんなご都合主義は俺と悪魔でぶっ壊す!~人生悪役の俺が悪魔と契約して転移した先の異世界で成り上がりの大逆転するから覚悟しとけ!~

月夜見月

第1話青春の陰と陽

「おう!涼太、お疲れさん。今日も図書館に寄ってく?」


「そうだね、家に帰ったら寝てしまいそうだし行くつもりだよ。ヒロも行くの?」


「ああ、俺も行くよ。今日は世界史の復習しようかな」


東京都千代田区にある国立図書館。

2人の通う高校から二駅離れたエリアにあり、多様な専門書や資料が揃った都内有数の国立図書館だ。


静かな館内は受験生にとっては集中しやすく、俺達が3年生になってからは長期休みや放課後によく利用している。


その日の放課後も、廊下で待ち合わせた親友のヒロと雑談しながら正面玄関へと向かう。

廊下を歩いていると、いつも通り周囲から悪意満載の視線と特定個人に対する陰口が聞こえてくる。


「あの盗撮野郎、よく学校来れるよな。俺なら絶対無理」

「それ本当に思う。メンタル強すぎでしょ」

「なんでヒロくんあんな盗撮魔の相手してんの?」

「うわ、盗撮魔とかキモっ」


自意識過剰ではなく、それが自分に向けられた陰口であると認識する。

これは俺の高校生活におけるありきたりの日常であり、普段通りの光景。


昨年までは他生徒から面と向かって馬鹿にされる事が多かったが、3年生に進級してからは直接俺に絡んでくる事は減った。

しかしその反面、俺に対する陰口がかなり増えている気がする。


直接的に非難されるのはもちろん心が傷付くのだが、陰口のダメージ蓄積も馬鹿に出来ない。

内容が分からず、反論のしようのない陰口は耐えるしか無い。


その陰口の主人公である俺の呼び名もレパートリーに富んでいる。「盗撮君」「盗撮魔」はもちろん「戦場カメラマン」「深淵を覗く者」など、数多くの呼び名を付けられ、生徒達のおもちゃにされている。


原因は高校2年の春、始業式の日に起きた事件がきっかけだ。

同じクラスの女子を盗撮用カメラで隠し撮りした犯人だと、全クラスメイトの前で吊し上げられた。

それ以降はキモい盗撮野郎としてのレッテルを貼られ、ほぼ全校生徒から蔑まれながら、惨めな高校生活を過ごしている。




それは遡ること約1年半前 2年生進級の始業式の日。


うちの高校は入学時と2年生進級時の計2回のクラス替えがある。

ひと学年全9クラスあるマンモス校で、ヘタなクラスに配分されると「あれ、友達が1人もいない?」といった状況も有り得る。


春休み明けの始業日の早朝、友達のヒロこと松永比呂マツナガ ヒロと、慎也こと梨田慎也ナシダ シンヤと共に、玄関前の掲示板に貼り出された新しいクラス名簿を確認していた。

まだ俺が普通の高校生としての生活を送れている時期だ。


「おっ!俺2-Dだ!」


最初に慎也が自分の新クラスを見つける。


「まじ!?おれも2-D!涼太は?」


次にヒロが見つけ、続けて俺のクラスを確認する。


生徒名:仲立涼太ナカダテ リョウタ 2-A


「うわ、俺は2-A。俺だけ違うクラスかよ!」


「あら残念。Aクラスって誰か知ってる人いんの?」


クラスメイト事情を確認すべく再び名簿を見る。


「んー、これは!?誰も仲の良い人がいない・・・」


「どれどれ。本当だ、こりゃハードだな」


俺の肩に寄りかかるヒロはクラス名簿を眺めケラケラ笑う。


「あ、でもAクラスに瑠々ルルちゃんいるじゃん。あと桐谷透華キリタニ トウカも!いいな〜」


慎也が学年でも特に人気の高い女子の名を挙げる。

その後クラス名簿を確認した結果、同じAクラスで知っている名は


鳴海英志ナルミ エイジ

顔、身長共に申し分ない学年1のモテ男。サッカー部期待のエースで運動神経、学力共にトップクラスのハイスペック男子。


田中瑠々タナカ ルル

1年の時も同じクラスで、よく席が隣になっていたショートカットが似合う愛嬌のある女子。

分け隔てなく誰とでも気さくに話す裏表のない性格で男女共に人気が高い。


長谷部光太郎ハセベ コウタロウ

1年の時、同じクラスの女子へのストーカー行為が発覚し停学。それ以来変態、キモイのレッテルを貼られている、ある意味可哀想な生徒。


小日向楓コヒナタ カエデ

同学年に双子の妹を持つバレー部期待のエース。既にプロからのスカウトも来ているとの噂。責任感が強く、クラスのまとめ役の1人。


桐谷透華キリタニ トウカ

唯一同じ中学出身で1年生の時も同じクラス。

普段から挨拶程度に話す仲で、顔面偏差値が高く、どこか透明感のある少女。優しい笑顔が印象的で、男子の人気ランキング上位陣。


他にも、1年の時暴力事件を起こした高村薫タカムラ カオル、生徒会役員の真田優希サナダ ユウキ、地雷系少女の佐倉恵那サクラ エナなど、話した事は殆ど無いが見知った生徒の名も確認出来た。


そんな俺の隣で、慎也もクラス名簿から誰かの名を必死に探している。


「えっと、本物の有名人は・・・。あぁ、2-Bか~」


慎也が指差した先には、校内随一の有名人。校内1の美少女と名高い現役アイドル。


小泉綾瀬コイズミ アヤセ

親の都合で15歳までドイツで生活。高校入学のタイミングで帰国し、1年生の時に原宿で芸能事務所からスカウトを受けたとか。某アイドルグループの1人。


「いや慎也には全く関係ないから。クラス同じでも相手にされないって」


イジって笑っているヒロに対して慎也は


「分かってないなヒロ、目の保養だよ。あと彼女が近くにいるだけで、普段から男としていい所を見せようと頑張っちゃうだろ?結果的にそれが努力の積み重ねとして~」


自慢のメガネを持ち上げながら何やら語っている。

それから俺達は、慎也の馬鹿げた持論を聞きながら各々の教室へ向かうことにした。


「じゃあ、俺2-Aだから」


「おう、頑張れよ涼太!初日が大事だからな!第一印象だぞ!」


ヒロと慎也は、健闘を祈ると親指を立て去って行く。

2-Aの教室に到着し、まずは教壇に置いてある座席表で自分の席を探す。

窓際に自分の席を見つけ、カバンを机の横に掛けた。

自席に着きクラス内を見渡してみると、改めて話せる知り合いがいないことに気付く。


「はぁ、また一から友達作りかぁ」


1人で居る事は別に嫌ではないが、クラス内ぼっちは避けたいので、誰か話かけ易そうそうな生徒を探す。が、見当たらない。


これは思った以上にハードかも!?


1人自席で固唾を飲んでいると、隣の席の机にカバンが置かれた。見上げると同じ中学出身の桐谷 透華キリタニ トウカだった。


「あ、涼太君おはよ。また同じクラスだね」


「おはよう桐谷。また1年よろしくな」


同じ中学の流れで、桐谷は唯一俺の事を名前で呼ぶ女子だ。

微笑んだその笑顔は、透明感がありどこか儚げ。だが生まれながらの美貌のせいか、それが神秘的にさえ見えてくる。

周りの男共が騒いでる理由がなんとなく分かる気がした。


桐谷との挨拶を済ませ、再び辺りを見回すと、他のクラスメイト達も続々と自席に着き始めていた。 

隣の桐谷を挟んだ反対側には、No.1イケメンの鳴海英志が。俺の斜め前にはバレー部エースの小日向楓がいた。


桐谷同様に男子から強い人気を誇る田中瑠々タナカ ルルは、少し離れた席で周りと談笑している、ら

持ち前の愛嬌とコミュ力で、既に新しい人間関係を築いているのだろう。


周りと溶け込めずにボーッとクラス内を眺めていると、横からやりとりが聞こえてきた。


「桐谷さん、よろしくな。同じクラスメイトだし、これからは俺の事エイジって呼んでいいよ」


イケメン鳴海英志ナルミ エイジと桐谷の会話だ。


「あ、え、うん。よろしくね、エイジ君」


「フッ、了解。じゃあ改めてよろしく、透華」


まるで、ニコッ!と音が聞こえてきそうなハニカミをかます鳴海。さすがは学年1のイケメンだ。

普段からハニかむ練習でもしてるんだろうか。

しかも最後サラッと名前呼びしてるし。

フッ、了解。とか俺には絶対に出来ない芸当だ。

桐谷も突然で照れているのか、俯き加減に返答している。

やはり美男美女は絵になるな。俺には入り込む隙間は無さそうだ。


別に人見知りって訳ではない。

当たり障りのない関係を築くのはむしろ得意だと思う。

だが、自分から一歩踏み込んで、更に親睦を深める事が得意ではない。

拒絶されるのが怖いとかじゃなく、正直面倒くさいを優先してしまう。そういうのは得意なやつがやればいいとさえ思っている。


しかし、今後一年間ぼっち生活を回避する為にはそうも言ってられない。ひとまずHRまでの間、隣の桐谷相手に当たり障りの無い会話を試みる。


「そう言えば桐谷さ、少し背伸びた? 1年生の時はもっと小さかった印象だったけど」


気付いてもらったのが嬉しかったのか


「そうなの。冬休みくらいから春休みにかけて5cmも伸びたんだよ~」


満面の笑みで答える。

見た感じ160cmくらいだろうか。すらっと細い手を頭の上に乗せてアピールしている。


「このまま涼太くんにも勝っちゃうかも、フフ」


フフっと笑うその姿に一瞬見蕩れてしまい、返答が遅れる。


「そ、それは勘弁して」


悟られ無いように慌てて返すのに精一杯で、それ以降会話に華が咲く事はなかった。

だが進級早々に桐谷と隣の席になれたことが少し嬉しくもあった。

暫くして新担任が登場。HRが始まり、そのまま一限目の授業に入った。


この後、俺は最低最悪な盗撮魔として学校中に名を馳せる事となる。

その事を何も知らない俺は桐谷をチラチラ横目で見つつ、その綺麗な横顔に心なしか浮かれていた。

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