第13話 [あーん合戦しないでほしい]
「や、やっと弁当タイムだぜ……」
一時間目以外も天国のような地獄の授業を受け、ようやく昼休憩の時間となった。
前まではなんの味っ気もない平穏な日常だったはずなのに、今日はとんでもなく濃い日になっているではないか。
とりあえず一休みできる……そう思った束の間。
「透! 弁当作ってきたから一緒に食〜べよっ!」
「透くん。お弁当を作ってきましたので一緒に食べましょう」
地獄延長確定。
……いや! まだ助かる可能性はあるぞ! 一筋の光……地獄に仏と蜘蛛の糸ッ!! 俺を助けてくれ、我が頼れる友人である悠人よッ!!
「あー、悪い! 実は悠人と一緒に弁当食う約束が……」
「俺のことならいいぜ! 三人で楽しんどけよっ! じゃなっ!」
バチンッと俺にウィンクをして教室から立ち去った。廊下から「いいことしちゃったぜ〜」と聞こえてきた。
そこは気ぃ遣わないでいいんだよぉおお!!
「い、いやぁ……俺は購買で済ませるからいいかなとか……」
「透ぅ……お腹すいて授業に支障をきたしたらどうするの?」
「そこは私も彼女と同意見ですよ透くん。五、六時間目は一番疲れているので、集中力を上げるためです!」
「(もうとっくにあなた方が支障をきたして授業に集中できてなかったんですけど!?)」
圧に押され、俺は承諾してしまった。
周囲からはなんだか妬みを超えて、哀れみを抱いているクラスメイトもいるようだった。
哀れみ抱くなら助けを寄越せェ!!
「あたしのお弁当、おーーぷんっ! じゃじゃ〜ん!」
「おお、やっぱり夏墨の料理は美味そうだな」
「透は昔っから卵焼き好きだったよね〜。フユキさんは知ってた〜?」
「し、知らなかったですけど何か……」
昨夜と今朝のご飯を見ていたので大体予想はついてたが、やはり美味そうなことに変わりはない。
「私も、これです!」
「これは……」
白銀さんの弁当は、まっ茶色であった。唐揚げがぎっしりと詰め込まれていたのだ。だが気持ち程度に弁当の端に、ボロッボロの卵焼きがあった。
「肉肉しいな」
「男の子はやはりお肉が好きだと思ったので」
「……中学の時もおんなじこと言ってたぞ」
「あ、ふふっ、そうでしたね」
あはは、うふふと笑いあう俺と白銀さんで、夏墨はそんな俺たちを見てぷくーっと頬を膨らませていた。
「なぁんか、仲良いねぇー……。まあいいさ! 味で勝負よ味で! はい透、あーん♡」
「むぐぁ、ぉい!
夏墨の方に顔を向けたら、いきなり卵焼きを口に突っ込まれ、甘さが広がる。相変わらず、ついつい口に運んでしまうくらい美味しい出来だ。
「む……わ、私もはいっ! あ、あーん……」
「……嫌ならやらなくてもいいんだぞ、白銀さん」
顔を真っ赤にして、卵焼きを持つ箸はプルプルと震えている。
「い、いいからさっさと食べてください! デコピンしますよ……」
脅しが可愛い。
心の中でこう思い、もはやあーんされるのに何も思わないように心を無にして白銀さんの卵焼きを口に入れる。
「……ほお、しょっぱいな」
「え!? そ、そんなはずは……。砂糖を沢山入れたはずなのに……。はっ! 砂糖と塩を入れ間違えたかもしれません!!」
頭を抱える白銀さん。
でも、中々良い出来だろう。
「す、すみません透くん……。出来の悪い卵焼きで調味料の入れ間違えもしてしまうとは……」
「いや、俺卵焼きしょっぱい方が好きだしこれいいな」
「えぇーーっ!? あたし聞いてないよ!?!?」
「言ってないしな」
しかも、訳あって中学の時に白銀さんが作ってくれた料理とはレベルが桁違いに上がっている。
「え、えと……ありがとう、ございます……。えへへ、もう一個いりますか?」
「じゃあもう一個もらおうかな」
「ずるい〜! あたしもあげるぅ〜!!」
その後、弁当箱二つを全てあーんされ、腹がはち切れそうになったのはいうまでもない。
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