第10話 [いきなりの告白はやめてほしい]

 一難去ってまた一難。それはまさに今の状況だった。

 理由は単純明快。


「んじゃ学校へレッツラゴ〜!」


 ――ムニムニ


 学校に向かうため家を出たのだが、当然の如く部屋に戻した夏墨が待ち構えており、エンカウントをした。

 だが、俺の腕に抱きついているのだ。!! ツインになっている兵器がッ!!!


「(これは試練かっ!? 試練は、壊される理性で終わる……。とかそんなこと思っている場合じゃあない! なんとかしろ俺ェ!)」


 このままでは俺の理性が崩壊してしまう。なんとかして夏墨を離さなくては……。


「あ、あの、夏墨」

「ん〜?」

「当たっているんだが……」

「……当ててる、って言ったら……?」

「エ」


 ほんのりと頰を朱色に染め、上目遣いにこちらを見てくる。もちろん俺は、沸いたヤカンのようにボッと熱くなる。

 声が裏返り、露骨に動揺しているのだ。


「えええ、いや、あー、ソウデスネ。俺的にはなんというか刺激が強いといいますかなんといいますか……」


 陰キャオタクの特性、高速喋りが出てしまっている! 自分では相当キモいと思っているしやめたいが、なかなか抜けない。

 そんな俺を夏墨はジーーッと数秒見つめ、一言。


「……童貞くん」

「んなぁっ!!? 貴様それは禁句だぞ! 童貞でなにが悪い!! 誇り高き……なんかだぞ!」


 図星を突かれて泣きそうになる。

 言われてばっかだから嫌なので言い返そうと思ったのだが……。


「だ、大体お前こそ…………いや、やっぱやめとくわ……」


 初恋相手のイロイロな事情などあまり知りたくない。知ったらなんか、見る目変わってしまいそうだし。

 俺は言い返すことをやめた。


 いや、でもおれにもこの距離感ならワンチャン夏墨はもう……。あー、なんか、変な気持ちになってきた。


「……透」

「ん?」


 ぐいっと引き寄せられ、耳元で囁かれる。


「ちなみにあたしもだし。これでおあいこだから」

「ッ!!?」

「もお、早く行こっ」


 ムスッと頰を膨らませてそう言ってきた。

 夏墨のこの言い方は本当の言い方だろう。昔から変わっていない。

 パッと腕から離れ、俺の前を歩き始めた。


「(……というか、なんで俺はホッとしてんだ! 別に夏墨が幸せなら別にいいだろ。くそっ、自分の感情が気持ち悪い!)」

「(のゔぁああああ! 攻めすぎた! 恥ずかしい! でも透もまだだったの良かった! でもやっぱ死ぬほど恥ずかしいよぉおお!!!)」


 お互い顔が見えないことをいいことに、真っ赤にして悶々ときた気持ちを顔に思い切り出していた。


 思えば、こんなに感情の起伏が激しくなるのは久々のことだったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る