第9話 [強制あーんしないでほしい]
俺の眠気なんかは一瞬で吹き飛んだ。
「は、え、な……ッ!?」
お、俺一体昨夜何をしていたんだ……!? 確か、特段変わったことなく普通だった気がするが……。
唸って焦燥に駆られていると、夏墨が目をこすり始めた。
「ん、ぅうん……? とーる……?」
「な、ナスミ……」
「ん〜、おはよ」
「おはようございます……。なんで普通なの……」
これがあたしのモーニングルーティーンとでも言わんばかりに落ち着いた様子だった。
「えと……俺昨日のこと何も覚えてないんだけど……」
「んふ♡ あんなにあたしを求めちゃって可愛かったなぁ〜」
「ソンナバカナ……」
マジで記憶がない……! 俺は昨夜、一体何をしでかしてしまったんだぁぁ!!
頭を抱え込んでその場に座り込む。
「あ、あの……透? 冗談冗談! あたしが勝手に昨日侵入したら抱き枕がわりにされただけだから!」
「そ、そうだったのか……。……いや、でも抱き枕もダメじゃね!? ってか不法侵入もダメだろうがァ!!!」
「イタァーーッ!! 頭ぐりぐりしないでぇ!!!」
「問答無用ッ!!」
一応俺も抱き枕にしてしまったことは謝ったが、夏墨は反省の色が見えなかったので再び頭ぐりぐりの刑に処した。
次から鍵をちゃんと、全ての鍵を閉めておこう……。二度と起こらないように。
「も〜、朝から元気いっぱいなんだから〜」
「元気じゃねぇよ……もう疲れた。朝ごはんめんど……」
「透ちゃんったら〜、もうっ、仕方ないわねっ☆ ママが作ってあげるから!」
「俺の母親は相変わらず変わってないからそんなんじゃないぞ」
「うぉー、久々に会いたいね〜」
本当に朝から疲れさせられたし、夏墨に頼んでもいいだろうか? このままだと俺がプー太郎になりそうだ。
だが夏墨もウキウキした様子だし、これは公平な取引ということにして頼もう。
「夏墨の朝飯を食いたいなー」
「えッ!?!? そそそそれって、毎朝食べたいとか……?」
「え? うーん、まあ、美味しかったら毎日食べたいかもな」
「そっか……。えへ、えへ♡ 頑張って作るねっ」
「お、おう……?」
夏墨はなぜかさらに上機嫌になって、鼻歌を歌いながら俺の部屋を出て行った。
夏墨、そんなに料理好きになったんだな! いやはや、食うことしか考えてなかったあいつが作ることが好きになるなんて思ってなかったなぁ。
うんうんと一人で感心しながら、俺もリビングに向かった。
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「できたお〜〜」
俺も流石に少しは料理の手伝いをし、休憩していた。キッチンから声が聞こえたので、テーブルに向かう。
「こりゃまた美味そうな朝飯だ」
「はいはい、しっとだうん。存分に喰らうがいい!」
「ありがたや〜。……あれ、俺の箸は?」
なぜか夏墨の分しか箸がなく、俺の手元にはなかったのだ。
「にっひっひ〜。箸がなきゃご飯たべれないよねぇ?」
「そりゃそうだな」
「でも、食べさせて貰えば食べれるよ?」
「……? ッ! 貴様……ハナから計画通りだったということかァーーッ!!」
まんまとはめられた。昔からいたずら好きだったが、その部分も強化されているらしい。
そんなところ強化しないでくれ。
「いや、でもまあ引き出しから取れば……」
「ふーん、いいの?」
「え?」
「箸取ったら、あたしこのまま全部食べちゃうかもよ?」
ニマニマと笑みを浮かべている。
ち、チクショウ! 俺は今とても腹が減っている。朝飯抜きは流石にキツイ……。かと言ってこれ以上無駄な体力は減らしたくない。
くっ、背に腹は変えられないか。
椅子に座り、どんと来いと言わんばかりの顔をした。
「はい、あーん♡」
「あー……。んん……んまい」
少し顔が熱くなる感覚がした。とても嬉しそうな顔をしているが、なにが楽しいのやら。
そう思いながらも、飯は美味かった。
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