第7話 [後悔させるのはやめてほしい]

「ありがとうございました。またのご来店を」


 バイトして数時間、もうそろそろ上がる時間だな。


「透くん、冬雪ちゃん、今日はもうおしまいにしよっか」

「了解です店長」


 更衣室で着替え終えたあと、休憩室でしばしばラノベを嗜む。

 最初はバイトが終わったらすぐに帰っていたが、店長の新作スイーツやらの試食人として最近は休憩室で食べさせてもらっているのだ。


「今日はどんなスイーツかな〜」

「店長の甘味は美味しいですからね。女子力高めです。だから女子と間違われるんですよ」

「それには激しく同意。店長可愛いからな」

「……透くん、男の娘が好きなんですか?」


 じーっと俺を見つめる白銀さん。


「いや、世間一般的に見て可愛いということを言ったまでだ。確かにラノベとかで出てくる男の娘には萌えるがな」

「それはわかります」

「男なのに可愛いと言われ照れる姿ッ。やめてと言ってやめてもそれはそれで嫌な感じに。男の娘が自分の気持ちに正直になるまでが好きだッ!」

「オタク出てますよ透くん」


 オタクだから語るのは自然なことだ。白銀さんこそ、たまに物凄い語ってくることがあるだろうに。今度録音してやろうか。

 そんなことを考えていたら、謎に間が空いた。


「えと……透くん」

「ん? どうしたんだ白銀さん」

「透くんは、その……素直な子デレデレ素直になれない子ツンデレ、どちらが好きですか?」


 少し頰を赤らめながら俺にそんな質問をしてきた。

 はは〜ん、これは語りたい感じだな? 内なるオタクが出てますぜ、白銀さん。やっぱり俺ら、同志だな。


「どちらも捨てがたいが、やっぱデレデレかな。ツンケンしてたまにデレるのはいいが、やはり素直な子は話していてチクチクしないからな!」

「そう、ですか……。なら私も明日から……」

「? 白銀さん?」

「ひゃいっ! ななななんでもないれす! あああ、今日はもう帰らないといけないんでした!!」


 急に汗を吹き出して身支度を済ませ、部屋から出て行ってしまった。地雷でも踏んでしまったのだろうか。

 もしやツンデレ好きじゃないやつとは関わりたくないとかそういう感じだったのか? 選択をミスってしまった……。


「透くんと冬雪ちゃん、新作スイーツ作ったよ〜……ってあれ? 冬雪ちゃんは?」

「こんなことなら……ギャルゲーをやっておけばよかった……ッ!」

「透くん何言ってるの!?」

「はっ、店長。いえ……なんでもないです」


 店長の作った新作スイーツで癒される俺であった。店長しか勝たん。



###



 冬雪わたしは、帰路を辿っている間に彼の言葉を思い出しながらため息をつく。


「透くん、あの転校生のことが好きなんでしょうか……」


 透くんは、私みたいにどんなことにも素直になれない子は嫌でしょうか。いざという時にならないと、かれを救えなかった私は嫌いでしょうか。


「私も…………!」


 中学生の時にかれと出会ってから、ずっと一緒だった。話していて楽しいし、こんな私でも何も気にせず話しかけてくれる。

 それに彼は……とても傷ついているから、一緒にいてあげたい。


「明日から……明日から私もやってやります……!」


 私は意気込んだ。

 もう、後悔しないために。

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