第5話 [幸せな日常が続いてほしい]
「浦島おひさ〜。元気してた? 危なッ! こいつ指噛もうとした……」
「昔から変わってないだろ。お前、昔浦島に噛まれて大泣きしてたよな」
「言わないでよ〜!!」
水槽の中にいる亀を愛でる夏墨。この亀は俺と夏墨が道路の真ん中で轢かれそうになっていたところを捕獲したニホンイシガメだ。
「愛でてるところ悪いが、俺はそろそろ出かけにゃならん」
「用事でもあるの? あたしも行く〜」
「ダメ。バイトです」
「え〜!? バイトなんかしてんだ。社畜ぅ〜☆」
「誰が社畜じゃボケ」
スマホをポケットに入れ、もう出かける準備は万端だ。
「ま、でもいいよ。いってら〜」
「お前のことだからごねると思ってたな。意外だ」
「まぁね〜。透が昔と全然変わってなくてよかったって確認できたから」
「……俺は、変わったよ」
「うん、わかる。けど、あたしが一番変わってて欲しくなかったところが変わってなかったんだ」
「……そうか。そっか……」
俺はまだ、夏墨のことが好きなのかもしれない。わからないんだ。そういうことがわからなくなってしまった。
夏墨もただ俺をからかっているだけ。そう言い聞かせておく。そうしておかないと怖い。
小学生高学年の時に夏墨と離れ離れになって、中学生の時にトラウマを植え付けられ、その根が俺をまだ支配している。
白銀さんがいなかったら今頃俺は、女嫌いで捻くれたゴリゴリの陰キャになっていただろう。
「俺はもう行くから、お前も出ていけ」
「んもぉ〜、仕方ないなぁ」
「何様だ」
俺たちは外に出る。そして鍵をかけて、バイト先に向かうことにした。
「透」
「ん? なんだ?」
「いってらっしゃ〜い!」
「……なんだ? 急に」
「別にいーでしょー! ほらほら、せいかもん!!」
「ぷっ、ま、そうだな。いってきます」
「にっひひ〜!」
「ニッヒヒー」
「真似すんな〜っ!!」
白い歯を見せながら、夏墨は俺を見送った。
まあでも、こんな平和な日常なら続いていいかな。
そんなことを思っている今の俺氏。これから美少女二人の修羅場が待っているとは何も知らないのだ。
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「……透、あたしがいない間になんかあったのかなぁ……」
あたしは透を見送った後、ボソリと呟いた。
幼い頃からずっと彼を見続けていた。引っ越すことが決まった時には、ギャン泣きした。透と別れるのが辛すぎたから。
透は一方的に自分があたしに好意を抱いていると勘違いをしている。あたしだって好きだ。
「今も好きだよぉ〜……。なんて、ね。絶対に言ってやらない。言わせてやる」
あたしのパーフェクトプラン! 『もっかい告白させよ〜大作戦』を実行するのだ!
でもやっぱ、一番の脅威はあの銀髪のシロガネ……ふゆきって人かな。
「絶対あたしが最初に透を好きになったんだし。取られてたまるか!」
えいえいおー! と、自分の中で意気込んだ。
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