第4話 [不法侵入も普通に料理うまいのもやめてほしい]

「あぁ……なんか、クソほど疲れた」


 俺は自分の部屋のベッドに制服のままゴロンと転がり、天井を眺める。


 午前しか授業がなかったというのに、疲労感がマックスを超えている。

 明日からもこの疲労度だと考えると、昨日より憂鬱な気分になってしまう。


「飯食った後バイト行くか〜」


 作るのが面倒くさかったので、即席麺で済ませることにした。


「愛しの初恋ちゃんが作ったげよっか?」

「ヒッ」


 背後から聞こえる軽やかな声と耳に吹きかけられる息によって、俺の背筋は一気に氷点下まで下がったような気がした。


「なんッッでここにいるんだ夏墨!!」

「鍵はちゃんとかけないとダメだよ〜?」

「……? 鍵はかけたぞ」

「それ玄関でしょ? あそこ」


 ピッと指差す先には、パーパーに空いたベランダの扉。


「不法侵入すんなよ……」

「じゃあ、アレちょーだいっ」

「アレとは?」

「あ・い・か・ぎ♡」

「拒否するッ!! そして出て行け!!」

「い〜や〜!!」


 ぐいぐいと玄関まで押すが、夏墨も抵抗してくる。謎に相撲が始まっていた。


「じゃあ! とりまあたしに料理作らせて! それで決めるのもいいってもんでしょ?」

「何がいいかわからんが」

「どれくらい料理上手くなったかとか知りたくない?」

「気になら……ないことはない。はぁ、今回だけだ」

「よいしょ〜! お任せあれ! 冷蔵庫のもの使わせてもらうねぇ」


 嬉しそうにパタパタとキッチンに向かい、鼻歌交じりに料理を作り始めた。


「……俺もなんか手伝おうか?」

「いやいや〜。お客さんは座っててくださ〜い」


 軽やかに拒否されたので、おとなしく座って待つことにした。『まあ、楽しそうならオッケーです』と言い聞かせていた。


 数十分後、料理ができたようなので、俺は椅子に座った。


「おお……! 美味そうだな」

「見た目ヨシ、味もヨシだよ〜」


 見た感じは、普通に店に出しても違和感のないほど美味しそうな料理。だが昔の夏墨こいつの料理は不味かったという記憶があるので油断してはならない。

 恐る恐る料理を口に運んだ。


「ヴッ……!!」

「ど、どお……? あたし結構頑張ったんだよ……?」

「お前……なんか、なんかさぁ……」


 俺はプルプルと震えながら、心配そうに俺を見る夏墨に向かってこう言い放った。


「普通にくそ美味いのやめろよ! めっちゃ美味い!!」

「っ! ぃよしッ!! ママに料理教わっといてよかったぁ……!」


 俺は料理に夢中になって気づいていなかったが、夏墨はこの上なく嬉しそうに頰を緩ませていた。

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