第3話 [引越しの挨拶くらいしてほしい]

 朝のHRが終わり、夏墨の席の周りに人集りができ、質問責めにあっている。

 いつこっちに飛び火するかとヒヤヒヤしながら席に座っている俺。右に座っている白銀さんもさっきから機嫌が悪そうだし、生きた心地がしない。


「よ〜〜! なんかとんでもねぇことになってたなァ!」

悠人ゆうと。他人事みたいに言いやがって……」


 おちゃらけた雰囲気を纏う男子クラスメイト。こいつは高校から友人となった岬小路みさきこうじ悠人である。


「んで? 転校生ちゃんの初恋相手ってマ??」

「貴様……ニヤニヤするな。初恋相手だよ、悪いか? あぁん?」

「イヤァァァ! 頭ぐりぐりやめろォ!! 馬鹿になりゅ〜〜!!」

「元々馬鹿だから変わらんだろうが!」


 そんなやりとりを交わしているうちに、もう始業式の時間が近づき、体育館に移動することになった。

 体育館では校長先生のつまらn……ゲホンゲホン。ありがた〜い話を聞き流して終わり。


 今日は始業式と軽い連絡のみということで、午前で終了。


「透ク〜ン……」

「俺たちとお話ししよっかァ〜」

「二人の関係を詳しく聞かせてほしいぜ」

「返答次第では貴様を葬らねばならぬ」


 野蛮な連中(嫉妬に狂ったクラスメイト)に絡まれる。


「お、俺は何も話すことないです……。さようならッ!!」

「「「「「待てぇえええ!!!」」」」」


 俺は教室から脱兎のごとく逃げだすのであった。



###



 なんとか撒くことはできたが、根本的な解決にはなっていないから明日の学校がとても憂鬱だ。

 今日中に言い訳を考えておかないといけない。


「はぁ……なんでこんな目に……」

「にひひ、透は大変だな〜」

「ああほんと、夏墨おまえが来てから一気に…………。ん!? い、いつの間に俺の横に!?!?」


 いつのまにか、俺の隣に夏墨の姿があったのだ。


「昔っからあたしらよく鬼ごっこしてたでしょ。50mそうあたしクソ速いからね〜」

「元幼馴染がハイスペックに……」

「元幼馴染ぃ? 、でしょ〜?」

「…………」


 ツンツンと俺の頰をニヤニヤしながら突く夏墨。本当に俺をからかいたいだけのようだな。


「……ってか夏墨、いつまでついて来るんだ?」

「いつまでって……あたしの家が近くなったら?」

「今んところずっと一緒だが」

「こっち側に引っ越して来たんだよね〜」


 トコトコと俺の横をなぜか嬉しそうに歩いている。

 たまにチラッと俺の顔を見立ては目が合い、ニマ〜っと満面の笑みを見せて来る。ドキッとしてしまうのは仕方ないだろう。


「夏墨」

「ん?」

「ここが俺が一人暮らししてるマンションだ」


 俺の顔とマンションを交互に見る夏墨。


「……ちなみに透の部屋番号は?」

「202だな。なんで聞いた?」


 夏墨は何も言わず、ポケットから鍵を取り出した。そして衝撃の事実を言い放った。


「あたし、203号室に引っ越した」

「……え? ――ええぇええええ!??」


 俺は驚きのあまり、大声を出してしまった。

 そういば最近隣室に誰かが引っ越して来たと思ってたけど、まさか転校生兼、初恋相手が引っ越して来ていたとは……。


 引越しの挨拶くらい、して欲しかったなぁと切実に思うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る