第2話 [喧嘩するのはやめてほしい]

 小学生の頃、同じ学年で、初恋相手の女の子がもっと可愛くなって転校してきました。

 ここまでは別にいい。

 それプラス、


 ……えぇっ? 訳がワカラナイヨ……。


「ってか離れろ! なっちゃ……黒金さん!」


 抱きついてから数秒、離れる気配が一切しない黒金さんに声をかける。


「えぇ? なんか水臭いよ透。昔みたいになっちゃんって呼んでよ〜」

「昔は昔! 流石に今はもう呼ばないぞ!」

「むぅ。じゃ〜罰として……! 蛇の刑!!」

「お、懐かしいなぁ……じゃねぇなァ!!」


 昔はよく、イタズラしたらお互いにぎゅ〜〜っとお腹を締め付けるという技をやっていたが、今やったらどうだろう。

 そう、柔らかい球体二つが俺に押し付けられ、金属ヤスリで理性を削られている気分だった。


「にひひ、降参する〜?」

「お、俺をからかうのも大概にしろよ……!」


 だが、流石に理性や周囲の視線の限界がきた。


「ぐ、ぬぬ……! な、!! これで勘弁してくれ……!」

「へ!? い、いきなり名前呼び……。ま、まあいいけどさ〜……」


 瞠目させ、頰を少し朱色に染めてニマニマと笑っていた。

 見た目はだいぶ変わったが、中身はどうやら幼い頃から全く変わっていないらしい。とんでもない美少女になっていて、中々しんどいものだ。


 そんなことを思っていると、白銀さんがガタッと席を立ち上がり、俺たちの横に立って睨みつけてきた。


「お二人とも、さっさと席に座っていただけませんか。朝のHRホームルームが進みません」


 べりっと俺と夏墨を引き剥がすついでと言わんばかりに、ギロッと夏墨にガンを飛ばしていた。


 HRを妨害して悪かったと思っているが、こんなことで白銀さんが怒ることはないと思ってたんだがなぁ。

 何が気に触ることを言ったり、してしまったのだろうか。


 一方夏墨は、数秒白銀さんを見つめて何かを察したようだった。


「……へー、オッケーオッケー。あたしのライバルってことなのかなぁ〜」

「ッ……。ライバル? 何を言っているのでしょうか」

「銀髪サンは透のなんなの? あたしはちなみに、初恋相手だけどね!」

「……だからなんだと言うんですか? 私には関係が無いことだと思いますが。あと銀髪さんではなく白銀冬雪です」

「にひひ、誤魔化しか〜。まあいーや。透はあたしのだから。誰にも渡さないつもり」


 あたしのものって……。そんなに俺をからかいたいのかよ夏墨……。

 年齢も重ねたんだし、俺に対してはきっと特別な感情を抱くことはなく、良いからかい相手くらいにしか思われていないんだろう。


「そう、ですか」

「そーだ!」

「いや、俺は別に夏墨のもんじゃねぇだろ」


 白銀さんの表情があまり浮いていなかったが、夏墨のようなタイプは苦手なのだろうか。

 一旦話に区切りがついたようなので、先生が口を開いた。


「えーっと……。みんな色々気になることあるかもだけどとりあえずHR続けるよ? 夏墨さんは透くんの横の席だからね」

「お〜! よろしくね、透」

「昔みたいに、授業中ちょっかいかけんなよ」

「それは無理な話だね〜」


 俺の前で喧嘩をするのも、平穏な日常をぶっ壊す宣言をするのはやめてほしいものだ。

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