第98話 ぷっくりましかく万能飴(小)

「それでそれで? これをどうやって飴にするんスか?」


 わくわくした顔で、ラルスさんが尋ねてくる。


 おっと! 感動している場合ではない! 当初の目的である飴を作らねば!


 私は腕まくりした。

 材料さえあれば、飴の作り方自体はとっても簡単だ。

 お鍋の中に、水とたっぷりのお砂糖を入れる。


 本当は蜂蜜も入れようかと思ったのだけれど、やめた。だってせっかくこんなにいいお砂糖が手に入ったんだもの。

 まずはこれだけで飴を作ってみたいと思ったの。


 それから水とお砂糖を鍋に入れたら木べらでなべ底が焦げ付かないようよく混ぜて、あとはほどほどの火でくつくつ煮込んでいく。

 やがて小さな泡がぷつぷつと出始めて、かと思うと白かったお水がほんのりと黄色く色づいてくる。


 まさに〝飴色〟って色だね!


 そしたら火を止めて、鍋を揺らして全体を飴色に変える。

 全体が綺麗に色づいたら、今度は薄く油を引いたフライパンに飴を移していく。

 少しずつ飴が冷えて固まっていくから、今度は油を塗ったフライ返しで飴の硬さが均一になるよう、何度かひっくりかえして小さな塊をまとめていく。


 冷めてだんだん硬くなってきたら、今度は手の出番だ!


 私はパン生地をこねる時などに使うのし台の上に飴を移すと、塊を分割しながら飴が細く細くなるように両手で転がす。

 ほどよい細さになってきたら、リディルさん登場!

 一口サイズになるように、スッ、スッ、スッと切っていけば……。


「おぉっ! 四角い飴っスね!」


 ラルスさんの言う通り、ぷくっとふくらんだ、でも四角い飴の完成だ!


「できました! 『ぷっくりましかく万能飴(小)』の完成です!」


 鑑定すると、効果はこんな感じだ。


『ぷっくりましかく万能飴(小):魔力+20%、浄化、治癒・小』


 ……あれ? 水とお砂糖だけだから付与されているバフが少ないのはなんとなく予想していたけれど、『魔力』のバフって初めてな気がする! もしかしてお砂糖には魔力アップの効果がついているのかな?


「ララさん! 食べていいっスか!?」


 ウキウキした様子のラルスさんが聞いてくる。


「もちろんですよ。よければぜひ試食どうぞ!」


 私が答えると、みんなが一斉に手を伸ばしてきた。

 ぷくっと膨らんだ飴が、次々とみんなの口に吸い込まれる。


「めちゃくちゃうま~~~っス!!!」

「んん~~~あまくておいし~い。セシル、蜂蜜飴よりこっちの方が好きかもぉ」

「蜂蜜飴もおいしいけど、こっちの方が優しい味わいだね!」

「ん……ほんとだね。正直あたしゃ蜂蜜の癖があんまり好きじゃないんだが……こっちは食べられるね」


 みんなの感想を聞きながら、私もぱくりとひと粒頬張ってみた。


 すぐに口に広がるのは……みんなの言う通り、癖のないまっすぐな甘さだ。

 確かにこれなら、蜂蜜が苦手な人でも食べられそう!

 しかも《浄化》と《治癒》もついているから、万能飴としても役立てそうな気がする!


 確かな手ごたえに、私はにっこりと微笑んだ。



 それから次の出張食堂の日。

 私はフィンさんと合流してすぐ、じゃらじゃらと瓶に詰めた『ぷっくりましかく万能飴(小)』を取り出した。

 気づいたフィンさんが目を輝かせる。


「ララ、ついに完成したんだね」

「はいっ! これで飴はばっちりだと思います!」


 ――あれから何度か改良を加えて、ぷっくり飴は一番最初に作った頃よりもさらに少し味がよくなった。飴のこね方を研究して、味が均等になる方法がちょっとずつわかってきたのだ。

 しかもこの間実践で試したのだけれど、この飴があれば、ちょっとした擦り傷ぐらいだったらたちまち治ってしまうのだ!

 既に騎士団のみなさんには、試作品の方だけれど瓶ごと渡してある。


「あとはこれをエルピディオ大神官に差し出すだけだな」

「はいっ!」


 私はうなずいて前を向いた。


 ――私は今日、この飴を交渉材料に、エルピディオさんに私が聖女となることをあきらめてもらうつもりでいた。





***


読者さん「あれ?ガラス、下手すると砂糖より高価じゃね?」


コメントを見た私「……ほんとうだ~~~!?!?!?!?!?」


というわけでしれっと「ガラス」を「木材」に変更しております(土下座)

メープルシロップ繋がり的な……!あと教えてくれて本当にありがとうございます……!

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