第96話 こんなに可愛い顔をして……!?
「んまっ! ララ、これめちゃくちゃおいしーじゃん!」
「ちょっとおなか空いた時にぃ~これ最高ぉ~」
「うわっ!!! ララさんこれめちゃうまっスね!? 帰る時にも作ってもらっていいスか!? 寮に持ち帰りたいっス!」
翌日の、れべるあっぷ食堂で。
まかないとして出した『けちゃっぷたっぷりポテト』を食べながら、リナさんやセシルさん、そしてようやく食堂当番が回ってきたラルスさんが嬉しそうに声を上げた。
「へぇ。このポテトについているけちゃっぷとかいうソースは不思議な味だねぇ。一見するとトマトなのに、それだけじゃない奥深さがある」
ドーラさんの言葉に私はうなずいた。
「不思議ですよね。これもスキルで覚えたのですが、どうやってできているのかわからなくて」
「何でできているのかわからない、かぁ……。まるで『フィリッツのピリ辛おつまみポテト』みたいだねぇ」
そう言ったドーラさんは、少しだけ寂しそうな顔をしていた。
――『フィリッツのピリ辛おつまみポテト』は、ドーラさんの亡くなった旦那さんの得意料理だ。
切ったじゃがいもにスパイスをかけて焼くだけらしいのだけれど、そのスパイスのレシピが受け継がれることなく、旦那さんが流行り病で亡くなってしまったのだ。
私もフィリッツさんのおつまみポテト、食べてみたいんだけどなぁ……。食堂内の道具箱やらはひと通り見たんだけれど、やっぱりどこにもレシピは残ってなかった。
「ぴきゅ~」
そんなことを考えていると、そばから声が聞こえた。
キャロちゃんだ。
キャロちゃんは一生懸命、はぐはぐとポテトを食べている。キャロちゃんもリディルさんと同じくけちゃっぷが気に入ったらしく、口の周りにいっぱいついていた。
そんなキャロちゃんを見ながらリナさんが言う。
「ねぇ、あたしずっと思ってたんだけどさ………………けちゃっぷがついたキャロちゃんって、おいしそうだよね」
「ぴきゅ!?」
「り、リナさん!? キャロちゃんはごはんじゃないですよ!?」
「じょーだんじょーだん! …………でもさ、今度ニンジンにもけちゃっぷつけてみない?」
「ぴきゅきゅ~~~!?」
怯えたキャロちゃんが、涙目でぷるぷると震えだす。
「ていうかぁ、セシル思ってたんだけどぉ」
今度はセシルさんの声。
「キャロちゃんってニンジンだよねぇ? でも、じゃがいも食べてるよねぇ? それってぇ、共喰いにならないのぉ?」
………………言われてみれば。
私はじっとキャロちゃんを見つめた。
キャロちゃんはスキル『マンドラゴラキングの口付け』を使えば野菜たちをマンドラゴラ――つまり仲間に変えられるのだ。
ということはやっぱり…………概念的には共喰いなの……!? こんなに可愛い顔をして……!?
私がごくりと唾を呑む横で、ドーラさんがけろりと答える。
「まぁ共喰いなんざよくある話さ。それに魚だって大体似たような見た目をしているが大きい魚が小さい魚を食うからね。世の中弱肉強食さ」
「ぴきゅ!」
どちらかというと真っ先に食べられてしまいそうな外見をしたキャロちゃんが、真っ先に返事をする。
「それよかララ。ポテトもいいが、あんたフィン様が言っていた〝飴〟を作るんだろう?」
「はい! そうなんです!」
れべるあっぷ食堂のみんなには、もう先日の話をしてある。
私が聖女にならない代わりに、《浄化》と《治癒》が付与された飴を全国に配ってもらう計画だ。
「飴ってことは……やっぱり蜂蜜を使うのかい?」
ドーラさんの言葉に、私はふっふっふと笑った。
「いいえ。今回使うのは……お砂糖です!」
「「お砂糖!?」」
声を上げたのはドーラさんとラルスさんだ。
「ララ、それはいくらなんでも厳しいんじゃないかい? 砂糖といやぁ、昔よりはましになったとはいえまだまだ高級品だろう」
「まぁーもしかしたらフィンさんだったら伝手はあるかもしれないっスけど……フィンさんほんと格別にお育ちがいいんで……そうは言ってもすごい値段っスよね?」
そうなのだ。
実は何を隠そう、砂糖というのは結構高級品だったりするのだ。
でも……。
そこで私はもう一度ふっふっふっと笑った。
最近お金の心配をしなくて済むようになって、ついでについつい他の面白そうなスキルに流れちゃっていたけれど、実はずっと! 手の届くところにアレはあったのだ!
そう――《砂糖生成》のスキルが!
私は自信たっぷりにふんっ! と鼻を鳴らした。
ドーラさんたちにもスキルツリーのことを詳しく説明していないから、知らないのは無理もない。
私を見たセシルさんが不思議そうな顔になる。
「あっもしかしてぇ、材料費は大神殿に請求するから大丈夫ってことぉ?」
「確かに大神殿に持ってもらえれば平気そう」
「だけど、大神殿が材料費を負担するにしても、全国に配れるほどの量となると相当じゃないかね?」
「あのどケチが引き受けてくれるっスかねぇ……。『無駄な出費はすべて削る!』とか言い出しそうっスけど……」
怪訝な顔をするみんなの前で、私は包丁を天に突き上げながら高らかに宣言した。
「リディルさん! アレ、いっちゃってください!」
――本当はもう少しスキルポイントをためてとあるスキルを覚えたかったんだけれど、このタイミングで砂糖の話が出てきたのもきっと何かのご縁!
私の言葉に、リディルさんが優雅にほほ笑む。
『わかりました。《砂糖生成》をあなたに授けましょう』
次の瞬間、パァァッという光とともに、私の中に何かあたたかい力が宿ったのを感じた。
――うん、間違いない。
私はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫ですよみなさん……なぜならたった今、《砂糖生成》ができるようになりましたので!」
「「「「はああああ!?」」」」
その言葉にみんなが驚いて目を丸くしている。
「ちょっ……! 《砂糖生成》って何!?」
「なんかまたとんでもない単語が出てきたっスね……」
「おいおいおい、本当かい!? あんたが色々できるのは知っていたけど……砂糖って!」
「えぇ~! じゃあこれからは、蜂蜜以外の甘ぁいお菓子も食べられるってことぉ?」
「はい!」
私は自信たっぷりに答えた。
それから、えーと……塩の時は石、胡椒の時は土、ぷろていんの時は岩。そしてけちゃっぷの時はトマトだったけれど……。
「リディルさん、《砂糖生成》では何を使えばいいですか?」
私が聞くと、リディルさんが自信たっぷりに答えた。
『それはですね、ララ。ずばり…………木材を持ってきてください!』
「木材???」
***
概念共喰い。
そしてスキルの取り方でもしかしたらお気づきの方もいるかもしれないのですが、ララは本人無自覚ですが、実は甘味より塩味の方に目がなかったりします。あと肉。
キラーラビットの肉はおいしいんです!(byララ)
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