第95話 それってとっても最高だ!
「うん。この世界には、怪我を治す回復ポーションに、毒を取り除く解毒ポーションなど、様々な薬がある。だが実のところ、ありとあらゆる病気に対応した万能薬というのは伝説上でしか存在しないんだ。それもあって《治癒》スキル持ちは貴重と言われている。いわば、歩く人間万能薬だな」
歩く人間万能薬……! そう聞くと、なんだかすごい気がしてくる! いやもともと《治癒》スキルはすごいんだけども……!
「でも、ララが作れば、たとえ干し肉であろうとも、ピクルスであろうとも、そこに《治癒》効果が付与される。ならば実質、それは万能薬を作ったことになるのではないか? しかも一度作れば、そこにララがいなくても患者が食べれば勝手に効果が発動するだろう?」
「なるほど……! 確かに、言われてみればそうですね! ならば日持ちのするものを作れば、私が聖女として現地まで出向く必要はないということですね!?」
しかも、前にリディルさんは言っていた。
『ララの場合は、料理を作った方がより効果が強いようです』
と。
「そうだ。しかもその方法なら、全国各地にララの万能薬を届けられる上、保存もできるんだ。例えば、飴なんかどうだ?」
飴!
その単語は、私の中で星のようにパッと輝いた。
昔一度だけ、旅人さんにはちみつ飴をもらったことがある。
とっても甘くて、それなのに口の中でずっところころしていてなかなかなくならない飴は、食べている間じゅうずっと幸せだった!
もしあの幸せな味とともに、体の病気や怪我もよくなるのだとしたら……。
それってとっても最高だ!
「もちろん量を作るのは大変だが、全国にララの万能薬がいきわたれば、各地に派遣されている聖者たちだって負担が減ると思わないか?」
すごい。
考えれば考えるほど、いい案だという気がしてくる。
それはまるで霧がサァーッと晴れていくように、突然目の前が明るくなったような気がした。
「す……すごい! すごいですフィンさん! 私、全然気づきませんでした! こんなことを思いつくなんて、さすがフィンさんですね!?」
「いや、むしろ気づくのが遅くなってしまって申し訳なかった。ララにもいらない負担をかけてしまったな……。最初から気づいていれば、大神殿に来ることもなかったのに」
「そんなことはありませんよ! 先ほども言いましたが、私は大神殿に来て本当によかったと思っているんです。大神殿の中を見れたこともそうですし、聖者さんたちにお会いできたのもとてもいい経験になったと思っているんです。……あ、だから来週も、それから今後も、出張食堂には行きたいと思っているんですがいいですか……?」
今気づいたのだけれど、私が出張食堂に行くということは、つまり忙しいフィンさんも付き合わせるということだ。
「でもでも、もちろん私ひとりでも行けますよ! フィンさんもどうぞお仕事に戻っていただいても!」
「大丈夫だ、ララ。前も言っただろう。それが私の仕事だ」
それからフィンさんがふと何かを考えるような表情になる。
「それに……私も今日楽しかったんだ」
「え?」
「こんな風に料理を手伝ったのは初めてだったが、すべて新鮮だった。生地をめん棒で伸ばすとあんな風になるのも初めて知ったし、茹でるとあんな風に変わるのも初めて知った。私がやったのは微々たることだが、それでも作った料理をおいしそうに食べている人を見ると嬉しくなった。私にもようやく、ララの気持ちが少しだけわかった気がする」
「フィンさん……!」
「それに、ララが隣に立っていたからかな。いつも食べさせてもらう側だったけれど、君と同じ風景を見ているのかと思うと、少しだけ君に近づけた気がした。……楽しかったよ、ララ」
「私も、楽しかったです!」
嬉しくなって私は言った。
フィンさんが隣にいて、ふたりで協力して料理を作る。
それは今までのどんな経験とも違っていて、今までにないくらい、とても楽しかったのだ。
「フィンさんの言う、『同じ風景』、私にも見えました!」
「そうか。ならよかった」
私たちは顔を見合せて、にっこりと笑った。
その時ぽっけの中から、「ぴきゅう~」というキャロちゃんの声が聞こえてくる。
「キャロちゃんも、今日は楽しかったね」
ぽっけからキャロちゃんを持ち上げると、穏やかな夕風に葉っぱをさわさわと揺らせながらキャロちゃんがぱっと万歳するように両手を上げた。
「ぴきゅ!」
ふふふ。キャロちゃんも楽しそう。
「来週もまた行こうね、キャロちゃん。私とキャロちゃんと……それからフィンさんとリディルさんの四人で」
「ぴきゅ~!」
「ああ。ともに行こう」
私たちは笑いながら、れべるあっぷ食堂へと帰っていったのだった。
***
きっといつの時代も、ベ〇スブレッドのような万能食は需要がありますよねぇ……。
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