【コミカライズ開始！】はらぺこ令嬢、れべるあっぷ食堂はじめました～奉公先を追い出されましたが、うっかり抜いた包丁が聖剣でした！？～

第90話 特に寒い日に食べると最高！

　それから、あらかじめ取り分けてあった私たち用のペリメニをフィンさんにも差し出す。

「フィンさんもよかったらどうぞ。きっと初めてですよね？」

「そうだな。いただこうか」

　言いながらフィンさんがスプーンでペリメニをすくう。

『ララ！　わたくしにも！　わたくしにも早くっ！』

「待っててください、今食べますから」

　リディルさんにせかされて、私もスプーンでペリメニをすくった。

　ふぅふぅと息をふきかけ、ぱくりと口の中に入れる。私はヘンリクさんと違って、熱い物も全然平気だからやっぱりこの食べ方が一番いい！

　噛むと、もちもちとした皮が口の中で弾け、バターの風味とともにじゅわっと肉汁と玉ねぎの旨みが口いっぱいに広がった。

　同時に熱々のスープが喉を通り過ぎ、体の中からあたたまっていくのを感じた。

「ん……！　これは…………おいしいな！」

　フィンさんも、口の中のものをこぼさないようもごもごしながら感動したように言う。

『はふ、はふ、はふ……。なるほど、これは、たしかに……んむ、んむ。おいしいですね。んむんむんむ……』

　私がペリメニを口に入れた瞬間自分のところにも呼び出していたらしいリディルさんも、はふはふ言いながら幸せそうに食べている。

　ふふふ……久しぶりに作りましたが、喜んでもらえてよかった！

　少し離れたところでは、ニーナさんも幸せそうな顔をしていた。

「はぁ……。まさかこんなところでスープ仕立てのペリメニを食べられるなんて……。もちろんお魚とかお肉とかの料理もあることにはあるんですけれど、そうは言っても材料が一緒でも作るものが違ったら全然別物でしょう？　エルピディオ大神官様についてロクアン王国を離れたけれど……久しぶりに食べると染みますわぁ」

「そんなにか？」

　ニーナさんとは対照的に、ヘンリクさんはあまりペリメニに興味がなさそうだ。

　一応食べているけれど……という感じ。

「あなたも食べてみればわかりますわ。故郷の味って、やっぱり特別だもの」

「いや、俺はそんなことはないと思うね。故郷の味つったって、俺の場合はミートボールとか、割とこっちでも食べられるもんが多いからそんな感動しねーし」

「あっそ。勝手に言ってなさい」

　そんなヘンリクさんを放っておいて、ニーナさんはまた食べることに集中している。

「そういえば、そろそろですね」

　私は口の中のペリメニを飲み込むと、時計を見た。

「そろそろ？」

「先ほど竈にいれたお料理です。ちょうど焼ける頃合いのはずですよ」

　それから火傷しないようミトンをつけて竈のところに行き――あっつあつの深皿を取り出した。

「うん！　こっちもできました！　『ヤンソンの誘惑』です！」

　パッと見た時には、グラタンのような見た目をしている。

「や、『ヤンソンの誘惑』……？　すごい名前だな」

「ふふ、これはですね――」

　けれど、説明しようとした私より早く大きな声を上げた人がいた。

「なんだと！？　『ヤンソンの誘惑』だと！？」

　ガタタッ！　と立ち上がった、ヘンリクさんだ。

「ちょ、ちょっとヘンリク。急にどうしたのよ、そんな大きな声をだして」

　そばにいるニーナさんもびっくりしている。

「いやだって！　あいつ今『ヤンソンの誘惑』って言ったんだぞ！？　わかるか！？　『ヤンソンの誘惑』！！！」

「そんなに連呼しなくても聞こえていますわ。というか、なんなの？　あなたが連呼しているその……ヤンヤンの誘惑って？」

「『ヤンソンの誘惑』だ！」

　ニーナさんの言い間違いにも容赦ない。

　ヘンリクさんはフンッ！　と鼻を鳴らすと話し始めた。

「『ヤンソンの誘惑』ってぇーのはなぁ、フィラントン皇国の伝統料理だよ！　料理にしては変わった名前だろう？　これはな、おいしーい料理で男を誘惑したヤンソンって女が作った料理って話もあれば、野菜しかくわねぇ神官ヤンソンがこの料理の匂いに勝てずについくっちまったって話もある！　ま、どのみち、フィラントン皇国で一年中食われてる料理だ。特に聖霊祭の日にゃ特に欠かせねー必須料理なんだよ！」

「ヘンリク、あなたすごい早口で話すのね……」

　……言おうとしていたこと、全部ヘンリクさんに言われちゃった。

　でもまぁ、名前を聞くだけで喜んでもらえるならそれだけで十分だよね。

　ちなみに、ふたつのお料理の効果はそれぞれこんな感じだ。

『スープ仕立てのぷるぷるペリメニ：攻撃力＋20％、体力＋16％、スキルスピード16％、クリティカル＋６％、浄化、治癒・小』

『ヤンソンの誘惑：防御力＋17％、スキルスピード＋17％、力＋17％、体力＋７％、クリティカル＋７％、浄化、治癒・小』

　どっちも色んな具材がバランスよく入っているから、その分付与されるバフも多いみたい。

　私はお盆に二皿の『誘惑』を乗せると、ふたりの元に運んで行った。

「お待たせしました！　今日のお料理は、これが最後になります！」

「あら、わたくしの分もあるの？　嬉しいわ」

「ん～～～！！！　この匂い！！！　たまんねぇな！！！」

「……ヘンリク。さっき、『別にそんな感動しねーし』って言っていたのは、どこのどなただったかしら？」

「ごめん！　それは謝るよ！」

「許すわ」

　ニーナさんに突っ込まれて、ヘンリクさんはすぐにパン！　と両手を合わせていた。

　その辺は割と素直らしい。

「いや～～～さっきも言ったけどミートボールとかだったらほんと全然響かなかったんだけど、『ヤンソンの誘惑』は別だよ！　だってこんなん、大神殿で出てくるとは思わねぇじゃん！？」

「まぁそれはそうよ。わたくしだって、ペリメニが出てきて驚いたくらいなんだもの」

「ってことで！　おしゃべりはそれくらいにして早速いただきますっ！！！」

　言いながら、ヘンリクさんが勢いよくスプーンをカリカリに焼けた表面に突き立てた。

　すぐさま空いた穴から立ち上がる、もわん、とした湯気。

「っは～～～！！！　このクリーミーポテトとアンチョビの匂いがたまらん！」

　それから先ほど『俺猫舌だから熱いのだめなんだけど』と言っていたのが嘘のように、ヘンリクさんはふはふしながら食べ始めた。

「あちっ！　あちっ！」

「まぁ。なんてクリーミーで濃厚なお味なのかしら。しかも……そこに混じるアンチョビの塩っ気がたまらないわね」

「おまっ……！　俺より先に感想を言うなよぉ！　人がまだ食べられてねぇってのに！」

「あらごめんなさい。わたくしは猫舌じゃないからつい……」

　ニーナさんがいたずらっぽくフフッと笑った。

「くっそぉ……。んむっ、んむっ……！　……！　うん！　やっぱこの味！」

　言いながらヘンリクさんがぎゅーっと目をつぶった。

「これな、特に寒い日に食べると最高なんだよ！　ホクホクのじゃがいもに、とろ～っとしたクリームに、そこに混じるアンチョビ！　疲れた体に染みる～～～ってやつ？」

　言いながら、ヘンリクさんは次のひと口が待ちきれない！　というようにもうひとさじすくった。

＊＊＊

フィラントンの単語を出しただけで「ヤンソンの誘惑」を言い当てられて、私は「ひょっ！？」となりました。笑