第88話 家庭環境の違うふたり

 ――ニーナ・カミンスカヤ。22歳。女性。ロクアン王国出身。伯爵家の長女として誕生。家族構成は父、本人、妹、弟の四人家族。16歳の時に《治癒》スキルを発現。以降ラスナント大神殿で聖女として暮らす。


 ――ヘンリク・エスケリネン。22歳。男性。フィラントン皇国出身。農家の末っ子として誕生。家族構成は、祖母、父、母、兄、姉、姉、姉、本人の八人家族。16歳の時に《治癒》スキルを発現。以降ラスナント大神殿で聖徒として暮らす。


「……これまたずいぶんと家庭環境の違うふたりだな」

「そうですね……」


 ひとりは伯爵家のご令嬢。

 ひとりは農民の末っ子だ。


「それに、名前の響きが私たちと少し違うなとは思っていましたが、おふたりともリヴネラード王国の方ではなかったんですね?」

「そのようだな。しかし《治癒》スキル持ちなんて大層な能力者を、よく他国から引っ張ってこれたな。どんな手を使ったにせよ、誰でもできることじゃない」


 言いながらフィンさんが感心している。

 その横で私は考えていた。


 ロクアン王国に、フィラントン皇国……。

 ロクアン王国はこの大陸最大ともいえる広大な領土を持つ大国だ。土地が広いためにさまざまな気候を持つが、おおむね一年を通して永い冬と短い夏が特徴的。


 一方のフィラントン皇国は、ロクアン王国に隣接する小さな半島にある。『湖と森の国』として知られており、国のほとんどが森に覆われているのだという。こちらも冬は長く厳しく、日によっては太陽が沈まない日もあるのだと、以前村に来た旅人の人が教えてくれた。


「だとすると……」


 私は考え始めた。


 今ある材料で、作れるものと言えば……。

 う~~~ん……………………。

 …………。

 あっ! そうだ!


 やがてとあるレシピが思い浮かんだ。


 しかもこのふたつなら、ちょうど手持ちの材料で作れる!


 そのことに気づいた私は、ウキウキし始めた。すぐにフィンさんが気づいた。


「その顔だと、何かいいものが思いついたようだな?」

「はいっ!」


 言って、私は意気揚々とまな板の前に立った。


 まずは時間がかかるこっちの工程を先にやってしまおう!


 それからあらかじめ神官さんたちが作って寝かせておいてくれた小麦粉生地を取り、小さく切り取る。

 それをめん棒で伸ばすと、できたのは手のひらサイズの小さな生地だ。これはフィンさん用の見本だった。


「フィンさん。今私がやったように、これくらいの生地を作っていただけますか。数は……そうですね、二十個ほどお願いします」

「この丸いのを作ればいいのだな? わかった」


 すぐさまフィンさんが、たどたどしいながらも一生懸命作り始める。

 その間に私は、水につけてあったじゃがいもを手に持った。

 もともと、『けちゃっぷたっぷりポテト』のためにスティック状に切ってあるのだけれど、それをさらに細く細く切っていく。

 じゃがいもを十分細かく切ったところで、次は玉ねぎのみじん切りだ。

 両方切り終わったら熱したフライパンにバターを落として溶かし、玉ねぎを投入。焦げないように注意しながら飴色になるまで炒めたら、じゃがいもの出番だ。

 塩、胡椒をまぜて、じゃがいもが少し透明になってきたらすぐに火からおろす。


 ――前にこのレシピを教えてくれたおじさんが言っていたな。

 ここで、完全にじゃがいもに火を通さないことがコツなんだよって。じゃがいものホクホク食感を保つためには欠かせない工程らしい。料理って奥深いなぁ。

 それと、竈でじっくり加熱するからじゃがいもは炒めなくてもいいんだけど、今回はおふたりを待たせているので、時短でじゃがいもを炒めているのだ。


 そんなことを考えながら深皿にバターを塗り、炒めたばかりの具材を敷き詰めていく。

 深皿の半分ぐらいの高さまで入ったら、次の材料だ!


「じゃじゃーん」


 私が嬉々としながら取り出したのは、バーニャカウダでも使ったアンチョビだ。


 出張食堂ではあんまり出番がなさそうだと思ったんだけど、念のため持ってきていて本当によかった!


 味が濃すぎてもよくないから、程よい感覚でちぎったアンチョビをお皿の中にぺとぺと並べていく。

 それが終わったら、炒めた具材を深皿が埋まり切るまでもう一度敷き詰めて、上から牛乳と、ところどころに小さくちぎったバター、パン粉をパラパラ。

 さらに、ディルもパラパラ。


 ――ちなみにディルっていうのは、ハーブの一種だ。

 モミの木を手のひらサイズにしたような見た目で、甘みのあるさわやかな香りをしている。

 それが魚料理とすごく相性がいいから、『魚のハーブ』なんて言われていたりするらしい。

 見た目もいいから、飾りつけにもぴったりなんだよね。


 それをふた皿分用意したら、竈の中にぽん。


「よし……まずこっちは終わり! 次はこっち!」


 私はもうひと品の料理に取り掛かった。

 まずはこれまたトントントンッと玉ねぎをみじん切りにする。それから、頑固ステーキ用の肉を取り出すと、私は腕まくりした。


「やるぞ!」





***

ケチャップ大好き人間としてデルモ〇テを書き損ねていたなんて不覚……!!!デル〇ンテもおいしいですよね~。


あとララのお義母さんたちについてはですね……!本当は1巻部分ですぐ登場する予定が、セシルさんが思いのほか濃ゆいキャラになってしまった関係で出番が延び延びになっているという。第三部まで本が出せるのならその時こそ詳細が登場する(はず)なので、よかったら書籍買ってくれると本の寿命が延びます(ド直球宣伝

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