第85話 そもそも、リディルさんの体ってどうなっているんだろう
昨夜、みんなが引き上げた食堂で、私はキャロちゃんとリディルさんと一緒にああでもないこうでもないとフライドポテトの試作をしていた。
最初は、ポテトを一番よくあるくし形切りに。その時も十分おいしかったんだけど、キャロちゃんの手にはほんの少しだけ大きかったの。
だから私は、思い切ってもう少し細く切ってみることにした。
バーニャカウダのニンジンも、細長いスティック状でしょ? それと同じことをジャガイモでもできないかなと思って。
そしたら……これが思いのほかぴったりで!
キャロちゃんはもちろん、私自身もとっても食べやすくなったのだ。
「だからこのスティックポテトを完成品としてリディルさんに食べさせたら……」
言いながら、私は思い出していた。
◆
最初は『じゃがいもですか』と、特別驚いた様子もなかったリディルさん。
けれど、けちゃっぷのついたポテトを口に含んだ途端、明らかにリディルさんの動きが止まったの。
かと思うと大きな目がさらに大きく見開かれ、ものすごい勢いでポテトを掻きこみ始めたのだ。
『んむっ、んむっ! ……っララ! これは! これはなんですか!』
「そっそれはけちゃっぷです!」
何を隠そう、リディルさんが授けてくれたスキルだ。
もっ! もっ! とすごい勢いで食べながら、リディルさんがらんらんと目を輝かせる。
『これが……けちゃっぷ!? おいしい……おいしいですよララ!!! おかわりお願いします!!!』
「えっ!? もう食べちゃったんですか!?」
気づけば、こんもり山盛りに入れたはずのポテトが消え失せていた。
『あと!!! けちゃっぷもおかわりお願いします!!! 大盛りで!!!』
そう言って差し出されたケチャップ用の小皿は、ポテトを使って丹念に皿をぬぐったのだろう。わずかにケチャップの赤い線が残っているだけで、こちらもすっからかんになっている。
「はっはい!」
私はあわてて受け取り、けちゃっぷを追加するために想像しようとした。
けれど途中で気が変わり、小皿ではなく、普通のお皿の中にこんもりとけちゃっぷを用意した。
『っ!!! ララ、さすがですね! わたくしとあなたは以心伝心! わたくしが今望んでいるのはそう! この山盛りのけちゃっぷなのです!!!』
どうやらとても喜んでくれているようだ。
おかわりのポテトに、これでもか、これでもかというくらいけちゃっぷをつけつづけている。
……というかリディルさん、なんならポテトよりけちゃっぷをたくさん食べているような……?
ポテトをスプーン代わりにして、けちゃっぷを舐めているような……?
『おいしい! おいしいですよララ! このけちゃっぷを考えた人物は、天才だと思います!』
そこまで!?
確かに私もけちゃっぷはおいしいと思うんだけど……あっ! リディルさん、ついにけちゃっぷを直で舐め始めてる!
……どうやらリディルさんは、『けちゃっぷたっぷりポテト』というより――けちゃっぷの方に魅了されてしまったらしい。
まるではじめてごはんを食べた時のように目を輝かせ、止まることなく食べ続けている。
私はふふっと笑った。
「リディルさん、またひとつ好きな食べ物が増えましたね! ……今回の場合は料理というよりソースですが」
『そうですね。ララの作る料理がどれもおいしいのは当たり前ですが、まさかこのけちゃっぷという代物がこんなにおいしいとは』
好きなものは、それが食べ物であれ人物であれ、増えれば増えるほど人生が豊かになる代物だ。
リディルさんにももっともっと好きなものが増えるといいな……。
考えながら、私はまじまじとけちゃっぷを見た。
「そういえば、ぷろていんもだけど……このけちゃっぷって、一体どこで食べられていたものなんですか? 神様の国ですか?」
どれも、食べたことのあるようでない味ばかりだ。少なくともこの国で広く使われているものではない。
『どうでしょう。神々は食事をしませんから……あ、でも、どうやらこれは原産地があるようです』
「えっ!?」
原産地!?
さらっととんでもない単語が出てきた!
リディルさんがスキルツリーの前で目を細め、ぐっと顔を近づけているのが見える。
『ほら、ここに小さく書いてあります。ええと……〝カゴノメトマトケチャップ〟、ですね』
カゴノメトマトケチャップ……?
聞いたことのない名だ。
『ララも、鑑定すれば見えると思いますよ』
あっ! そうかその手があったんだ!
私はいそいで目の前のケチャップを鑑定した。
『カゴノメトマトケチャップ:開封後は冷蔵庫で保存し、一か月程度を目安にお使いください』
「かごのめ……が、もしかして原産地なのですか?」
『……と思ったのですが、でもよく考えてみるとおかしいですね。普通、産地であれば『カゴノメ産』のように、〝産〟がついているはずなのですが』
「言われてみれば……。というかこの鑑定結果だけ、どうして敬語なんでしょう?」
今までの鑑定結果は、事実が淡々と羅列してあるものばかり。
なのにけちゃっぷだけ、まるで説明書のような文章になっているのだ。
「それに、〝レイゾウコ〟って……?」
不思議な言葉ばかり。
それらの謎については、残念ながらリディルさんもわからないらしい。
『それよりもララ』
リディルさんはけちゃっぷがたっぷりついたポテトをほおばりながら、えっへんと言った。
『今わたくしたちにとって大事なのは――けちゃっぷをたっぷりと味わうことだと思います! さぁおかわりをください!』
見れば、先ほどもう一度山盛りにしたはずの皿がまた空になっていた。
「リディルさん大丈夫ですか!? いくら女神さまといえど食べすぎではありませんか!?」
そもそもリディルさんの体ってどうなっているんだろう。食べ過ぎてお腹がいたくなったりしないのかな……!?
私が心配していると、リディルさんがフッと鼻で笑った。
『ララ、わたくしを誰だと思っているのですか。わたくしは剣の女神なのですよ。この空間にある食べ物はいわば感覚的なものであり、実在はしません! それに食べ物ごときにわたくしがやられるわけないではありませんか!』
「……そうですよね! 失礼いたしました!」
『よいのです。無知は罪ですが、わたくしはよくできた神なので人の子の罪を許しましょう……。それよりももっと食べますよララ! 今日はたっぷりけちゃっぷのポテトパーティをすべき日だと思います!』
まさかリディルさんの方から提案してくるなんて!
「ぴきゅ、ぴきゅ」
キャロちゃんもキャロちゃんで、ちいちゃなおててとおくちを動かしてご機嫌でポテトを食べている。
だったら……あと私に残されたことは、思いきりパーティをすることだけだ!
「はいっ! 今日は思いきり、たっぷりけちゃっぷのポテトパーティーをしましょう!」
『それでこそララです!』
「ぴきゅ~!」
◆
………………そうして。
翌朝になって、
『うう……! お腹が、お腹が痛いです……!』
とお腹を抱えて苦しむリディルさんを見ることになったのだった。
***
………………安定のぽんこ、じゃなかった、女神様です。
カゴ〇メケチャップ、甘味が強くて好きなんですよね~。ハイ〇ツは酸味が強くてちょっと大人の味。どっちもおいしい。
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