第84話 『けちゃっぷたっぷりポテト』
「待ってくださいね! 今実物をお見せしますから!」
昨日のやりとりを思い出しながら、私は水に浸してあったじゃがいもを持ち上げた。
既にその体からは皮が向かれ、そしてスティック状に切られている。
本当は皮つきでも、それはそれで味わいがあるんだけど、れべるあっぷ食堂で色々試行錯誤した結果、まずは皮なしの方が一番じゃがいもの味を楽しめると思ったの。
そしてこの料理では、角切りや薄切りではなく、スティック状にするのが一番いいのだ。これも、試行錯誤の末に出した結論だった。
私は丁寧に水切りしたじゃがいもに、まんべんなく小麦粉をまぶした。それからじゃがいもをフライパンにどさっと並べる。たっぷりのオイルを流し込み、じゃがいもが半分くらい浸かったところで火入れスタート。
こうして低温の油でじっくり揚げていくことで、じゃがいもの甘味が引き出されるのだ。さらに程よく揚がってきたら、端に寄せて空気に触れさせる。こうすると、ポテトのカリカリ度がアップするんだよね。
何度かそれを繰り返し、最後は火力を最大限にしてカリッと揚げる!
味付けに、少量の塩をパラパラ。
それで完成だ。
その頃には、辺りにポテトのふんわり香ばしい匂いがただよっていた。
それを見たおさげの女の子が、ぼそりと呟く。
「ふぅん……ただのポテトなんだ」
その言葉に、私はニヤリとする。
ふっふっふ……そう、ここまではよくあるただのポテトだ。くし切りポテトよりだいぶ細いけれど、お塩も振ってあるけれど、それでもまだ〝よくあるただのポテト〟の域から出ないポテトだ。
「でも、これを目にしても同じことが言えますか!?」
私は鼻の穴を膨らませ、どやぁっ! という顔で、厨房の隅に置いておいた瓶を取り出した。
そこにはもちろん、たっぷりの真っ赤なけちゃっぷが詰まっている。
「ララ、それはなんだい?」
気づいたフィンさんが声をかけてくる。
「ふっふっふっ。これはれべるあっぷ食堂のにゅー! 隠し玉です!」
「にゅー隠し玉……?」
実はこのお料理は、れべるあっぷ食堂では一回も出したことがない。
……純粋にこれを作ったのが昨日の深夜でみんなに食べさせる時間がなかったっていうだけなんだけれど……。
でも! あのリディルさんが大絶賛していたから、ここで初めて出しても問題ないと思うの!
それに他の料理と比べて料金はだいぶお安く設定してあるし!
「ぴーっきゅ! ぴーっきゅ!」
私が自信満々に考えて、そばからキャロちゃんの声が聞こえた。
あっあれれ!? キャロちゃんいつの間にぽっけから抜け出して調理台の上にいたの!?
「おっとと」
すかさず、フィンさんがパッと手でキャロちゃんを捕獲してくれる。
「ここに入っていなさい」
言いながら、キャロちゃん用に持ってきたマグカップの中にキャロちゃんを入れている。さらに、ハンカチをキャロちゃんにかぶせて端と端をきゅっと結んだ。
そうすると、キャロちゃんが頭巾をかぶったようになる。ふさふさの葉っぱが、頭巾の後ろから出ている。
「これなら少しは魔物っぽさも隠れると思う。…………多分」
耳打ちされて私はこくこくとうなずいた。
さすがフィンさん! 細かい気遣いができる騎士団長さん!
これなら、マグカップに入ったぬいぐるみにしか見えない気がする! …………多分。
私は気を取り直して、あげあがったポテトを小さな籠に入れた。そしてそばに深めの小皿をつけ、中にたっぷりのけちゃっぷを入れる。
よーし! これで『けちゃっぷたっぷりポテト』の完成だ!
ちなみに鑑定した時の効果は、こんな感じになっている。
『けちゃっぷたっぷりポテト:スキルスピード+15%、クリティカル+6%、運+6%、浄化、治癒・小』
じゃがいもとケチャップしか使っていないから、付与されるバフもシンプルだ。
「フィンさんも食べてみますか!」
「いいのか? 売り物じゃないのか?」
「実はつまみぐい用のポテトもちゃんと用意してありました!」
言いながら私はサッ! とつまみ食い用ポテトを取り出した。
味を確かめる、という意味でも大事だしね!
「ならお言葉に甘えて……これはこの赤いソースにポテトをつければいいのか?」
「そうです! 遠慮せず、たっっっぷりとつけちゃってください!」
私の言葉にフィンさんはうなずいた。
スティック状のポテトを一本とると、ずぶずぶと赤いけちゃっぷの中にポテトを沈めていく。
たっぷりのけちゃっぷを絡めてから、フィンさんはゆっくりとポテトを口に運んだ。
そして――。
「…………!? うまいな!」
フィンさんの顔がパッと輝いた。
「これは……トマトだよな? だが、トマトソースとは全然味が違う。酸味もあるが、それ以上に甘くて、濃厚で……何よりポテトのほくほく具合とすさまじく合う!」
私はニッコリした。
そうなのだ。
味の濃いけちゃっぷは、生野菜やゆで野菜のような水分の多い食べ物より、ポテトのようにほくほくこっくりしたものと相性がすさまじくいいのだ。
塩気のあるほくほくポテトが口の中でほどけ、そこに濃厚けちゃっぷが絡み合う。
その瞬間はまるで、まだ見ぬ心の友とようやく出会えた時のような喜びがある。
「んん……! シンプルな料理なのに、なぜかやたら満足感が高いな……!?」
そう言ったフィンさんはうっとりと目を閉じている。
わかります、わかりますよフィンさん!!!
これは一見するとポテトにソースをつけただけの素朴な料理ですが、その見た目からはわからない奥深さに、不思議と心を満たされる格別の料理なんです!
ついつい目をつぶりたくなってしまうその気持ち、心の底からわかります……!
「ふふふ。魔の組み合わせでしょう。そして私は予言しますフィンさん――あなたはきっと、既にポテトを食べる手が止まらなっているのではありませんか!?」
びしり!
私が指さすと、今まさに二本目、三本目のポテトを口に入れていたフィンさんの目が驚きに見開かれた。
「な……! なぜそれを……!?」
「ふふふ……なぜなら、それは私もリディルさんもキャロちゃんも通ってきた道だからです!」
私はにっこりしながら答えた。
***
サクカリポテトはほんとおいしいですよね~。
マ〇クのポテトも大好きなんですが、最近の一押し、実はスシ〇ーのポテトだったりします。やたらうまい。みなさまはどこのポテトがお好きですか?
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