第81話 まさに、神からの授かりもの

「あと、肉もあるんだろ!? 肉肉肉肉!!! もう実家出てからぜんっぜん肉食えなくて、気がおかしくなりそうだったんだよ!!!」


 うおおおお!!! と吠えているのは、ツンツンした赤髪の子だ。

 隣で見ていたフィンさんが、ぼそりと呟く。


「…………やたらと元気がいいな。ああいう子は騎士でよく見るんだが、聖者にもいるんだな」


 確かに、あの元気さはテオさんや騎士さんたちと近い。


「スキルは自分で選べませんからね。私も、一番最初は就職先が見つかりやすそうなスキルだったらいいなぁって思っていましたし! 彼らも、自分が聖者になるとは思っていなかったのかもしれません」


 私もまさか自分に《はらぺこ》なんていう不思議なスキルを授かるなんて夢にも思っていなかったしなぁ……。

 結果的に今すごく楽しいから、全然大丈夫なんだけれど。


「確かにそれもそうだな……。私は運よく《剣聖》スキルを授かったが、これが魔法に関するスキルだったら、騎士ではなく魔法使いになっていたかもしれない」

「そう考えると、スキルというのは本当に不思議ですよね」


まさに、神からの授かりものだ。


そう考えていると、先ほどの子たちの大きな声がした。


「すいませーーーん!!! この『頑固ステーキ』ってのひとつください!!!」

「あたしは『バターミルクビスケットの蜂蜜がけ』くーだーさーい!」

「わかりました!」


 私はすぐさま、下ごしらえをしておいたステーキ肉をフライパンで焼き始めた。

 同時に、お手伝いの神官さんたちに、あらかじめ焼いて覚ましてある最中のバターミルクビスケットのカットをお願いする。


「ララ、何か私に手伝えることはないだろうか?」

「では、ビスケットの仕上げをお願いできますか? 切ったビスケットの表面に、常温のバターを乗せるんです。少ししたら溶けてくるので、それを刷毛でビスケット全体にたっぷり塗ってください!」

「このかけらをたっぷり塗ればいいんだな? わかった」


 言いながら、フィンさんは早速取り掛かっていた。


 男の人の大きな手で小さなバターのかけらをつかみ、こぼさないようにそーっとそーっとビスケットの上に載せている。

 それから溶けるのを待ってから、刷毛で丁寧に丁寧に塗り広げていく姿は、いつもかっこいいフィンさんとは違ってなんだか可愛らしかった。

 塗り終わったフィンさんが、笑顔でお皿を女の子に差し出す。


「お待たせしました。『バターミルクビスケットの蜂蜜がけ』です」

「ありがとうございまー………………えっ!? 嘘、すごいイケメンいるんだけど……!!!」


 最初ビスケットを見てウキウキしていたはずの女の子が、フィンさんを見て固まる。そのせいで、受け取ったらお皿からビスケットが転がり落ちそうになっていた。


「ねぇ、ちゃんと受け取らないとこぼすよ!」

「あっ! あぶな! 教えてくれてありがと!」


 ぺろりと舌を出しながら、女の子があわてて自分の席に戻っていく。


 うんうん、わかるよ。フィンさんは本当びっくりするくらいの美形だもんね……!


 うなずきながら、私はフライパンのステーキをひっくり返した。


 よし、こっちも完成だ!


 ステーキをお皿に載せていると、先ほどミルクビスケットを受け取った女の子が歓喜の声を上げていた。


「おいっっっしーーーい!!! 何これ!!! おいしすぎてほっぺ落ちちゃう! ひとくち食べただけなのに、この一週間の疲れが吹っ飛んだんですけど!?」

「大げさすぎでしょ……」

「そんなことないって! 騙されたと思って食べてみな!?」


 言いながら、金髪の女の子がミルクビスケットを手づかみしたかと思うと、おさげの女の子の口の中にもぐっと押し込んだ。


「んむ……!!!」


 もぐ、もぐとおさげの子の口が動く。


「どう!? おいしいでしょ!」

「………………まぁ確かに、これはおいしいかも」

「ほらぁ~~~~ほらほらほらぁ~~~あたしの言った通りだったじゃーーーん!」


 その光景を見ながら、私はくすっと笑った。


 ふふ、喜んでくれてよかったな。おいしいってひと言が聞けただけで、私もとっても嬉しいんだ。


 そこへフィンさんがやってくる。


「ララ、お客さんに出す係は私がやろう。ララは料理に集中していて。作れるのは君しかいないから」

「ありがとうございます!」


 フィンさんは最初の方こそ少し戸惑っていたようだけれど、やっぱり元々が優秀だからかな。

 すぐに手順を覚えて、てきぱきとお客さんの注文をさばいていた。


「ん~~~まっ!!! やっぱこれよこれ! 男は黙ってでかい肉!!!」


 『頑固ステーキ』にかぶりついた赤毛の男の子も、満面の笑みで食べている。

 そんなふたりの食べっぷりに、出張食堂の前には瞬く間に長蛇の列ができた。

 私と同い年の聖者見習いさんたちが、ニコニコしながら自分たちの番を待っている。

 私も嬉しくなって、ますます張り切った。

 そこに、先ほどの金髪の女の子といたおさげの女の子の声が聞こえる。


「……あの、ここに書いてある『けちゃっぷたっぷりポテト』ってなんですか?」


 私はパッと顔を上げた。

 彼女は私が食堂から持ってきた出張食堂のメニューを見ていた。


 ついに!!! この料理に気づいてくれた人がいた!!!


 ――実はこの料理は、今回の出張食堂のために開発した新料理だったりする。


 ここ最近、キャロちゃんやエルピディオさんたちのことでバタバタしている間に、気づけばスキルポイントがすごく溜まっていたの。


 《鑑定》で見える、今の私はこんな感じだ。


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〈ララローズ・コーレイン〉

性別:女 年齢:16歳

レベル38:3041/12901

状態:はらぺこ 職業:はらぺこ包丁使い

体力:14700 精神力:14700

力:32 防御:25 素早さ:27

器用:60 魔力:48 運:50

スキル:はらぺこ

包丁使い

鑑定

塩生成

バフ付与:小

下級火魔法

下級水魔法

浄化

胡椒生成

プロテイン生成

武器変化:おたま

武器変化:泡立て器

バフ付与:中

治癒・小

ケチャップ生成

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自分のことを《鑑定》することがあんまりないんだけど、気づけばずいぶんと色々なスキルを覚えたんだなぁ……!


 そして最後にある《ケチャップ生成》こそ、一番最近覚えた新スキルだった。


 話は、少し前にさかのぼる――。






***

ケチャップと言えばやっぱりですよね~。

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