第74話 ちょっと絵本の世界みたいだ
「そ、それが難しいなら週二……いや、最悪一ヵ月に一回でもいい!」
「ふぅ~ん。で、今のを聞いてぇ、ララちゃんはどう思ったのぉ?」
セシルさんが私に聞く。
同時に、他のみんなも一斉に私の方を見た。
「わたし、は……」
私はじっと考え込んだ。
それから、ゆっくりと口を開く。
「私は――出張食堂に行ってもいいと思っています」
「な、なんだと! 本当か!? やった!」
私の返事に、パッとエルピディオさんの顔が輝く。
うわ! エルピディオさんの笑顔初めて見た!
「いいのかララ。無理はしなくてもいいんだぞ?」
フィンさんが心配そうに私の顔を覗いてきたけど、私は笑顔で首を横に振った。
「大丈夫です。私……純粋にやってみたいと思ったんです。できるかどうかはわからないけれど、私のお料理で少しでも皆さんが元気になってくれるのなら……それってとてもやりがいがあるなって!」
ごはんを食べることは、生きること。
ごはんを食べて楽しくなるのなら、それはつまり、生きることが楽しいということにもならないかな?
残念ながら私はエルピディオさんの望むような聖女にはなれないけれど……お料理で聖女や聖徒さんたちを手助けすることだったら、私にもできるかもしれないと思ったの。
「ねぇそれぇ、今流行りのやりがい搾取ってやつじゃなぁい? 大丈夫ぅ?」
「そ、そんなことは……ないと思う……!」
セシルさんの言葉にたじたじになっている私に、エルピディオさんが身を乗り出す。
「もちろん、賃金は弾む! 言い値で払おう!」
「わぁ! ありがとうございます! ……でもあの、賃金よりも他のひとつお願いしたいことがあって……」
「なんだね? 言ってみたまえ」
私はおそるおそる申し出た。
「あの……神殿料理を私に教えてほしいんです。一体どんな風に作られているのか、興味があって」
「ははぁん。さてはララ、神殿料理のレシピ知りたさに引き受けたっしょ?」
リナさんに指摘されて私はぎくりとした。
……そうなのだ。実はこれも引き受けた大きな理由のひとつだったりする。
「だ、だって……どんなものなのか気になって……! 今までほとんど食べる機会がなかったし……!」
私が赤面しながら言うと、テオさんがガッハッハ! と笑った。
「さすが嬢ちゃんだな!」
「食に対する飽くなき探求心はほんとさすがっスねー」
「だが、それならそれでよかったのではないか。無理強いされるのはよくないが、ララにとってもプラスになるのならそれが一番いい。……ただし、その日は私も同行させてもらう」
「えっ! フィンさんも一緒に来てくださるのですか?」
「ああ。これも業務の一環だからな」
思わぬ申し出に嬉しくなる。
フィンさんと一緒に行けるのなら、これほど安心できることもない。
「……なんかぁ」
そこに、ニコニコした顔のセシルさんが乗り込んでくる。
「フィンさんがついてくるってことはぁ、あれだよねぇ? ララちゃんのぉ、護衛騎士、ってやつぅ?」
護衛騎士。
その言葉に私は目をぱちぱちさせた。
「護衛騎士って言ったらあれじゃん! お姫様につくやつ! ララお姫様じゃん!」
「お、おひめさま……!」
自分とはあまりにも無縁な言葉に、なんとなくドキドキしてくる。
ちょっと絵本の世界みたいだ。
「本当に何から何まで……! いつもありがとうございます! 嬉しいです! それに、お姫様体験までできるなんて……一生の思い出です」
私が照れると、なぜかフィンさんも照れたようだった。
「い、いや別に……テオ! 何をニヤニヤ笑っているんだ!」
「いや別にぃ? っていうか俺だけじゃねぇしな」
言いながらもテオさん……と皆さんがニヤニヤしている。フィンさんが咳払いした。
「……ごほん。それより大神官よ、同行して構わないだろう?」
「ええ、構いませんよ。それから、もしご希望であればそこの魔物も連れてきて構いません」
そう言ったエルピディオさんの目線の先にいたのは、私の膝の上にちょこんと座っていたキャロちゃんだ。
「ぴきゅ?」
「キャロちゃんも連れていっていいんですか? キャロちゃん、魔物なのに」
「別に神殿は魔物と対立しているわけではないからな。連れてくる人がいなかっただけで、連れてきてはいけないという戒律もない」
「なんかぁ、神殿のカイリツ? ってぇ、思ったより雑ぅ」
セシルさんがきゃらきゃらと笑った。
「キャロちゃん、どうする? 私と一緒に神殿、行く?」
私が尋ねると、キャロちゃんは大きなおめめをパッとつぶって、元気いっぱいに言った。
「ぴきゅ!」
――こうして半月に一回の、れべるあっぷ食堂の出張が決まったのだった。
***
……エルピディオ、やたらとキャロちゃんを気に掛けるなぁ……。実は作者想定外の行動だったりします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます