【コミカライズ開始!】はらぺこ令嬢、れべるあっぷ食堂はじめました~奉公先を追い出されましたが、うっかり抜いた包丁が聖剣でした!?~
第68話 ララをそんな目には――あわせてなるものか(フィンセント視点)
第68話 ララをそんな目には――あわせてなるものか(フィンセント視点)
「それが投資というものです。無駄になることを恐れていては何もできません。それに、僕が日ごろから倹約しているのも、まさにこういう時のための余力を作っているからに他なりませんよ!」
「ふむ……なるほどこれは手ごわいようだ」
おや……? あの兄上がまんまとやり込められてしまうとは。
エルピディオ大神官が聖女に並々ならぬ執着を抱いているというのは聞いたことがあったが、まさか期間限定でもいい、お金を無駄にしてもいいからララに聖女になってほしいとは……。
並々ならぬ思いだが、一体何がそこまで彼を駆り立てるんだ?
私が探るようにじっと大神官を観察していると、同じことを考えていたらしい兄上が言った。
「ひとつ聞きたいんだけれど、大神官はどうしてそこまでララローズ嬢にこだわるのかな。大神殿では、他ならぬ君のおかげでかつてないほどたくさんの聖女がそろっていると聞くよ。なのに、たった一年かそこらでやめるララローズ嬢にも、君は聖女になれと言うのかい?」
「もちろんです」
大神官は強い瞳で兄上を見た。
「確かに今、歴史上類がないほどたくさんの聖女と聖徒――我々は彼らをまとめて聖者と呼んでいます――が王国内にいます。ですが、それはあくまで過去と比べた時のみ。王国全体を見た際に、まだまだ聖者の数は圧倒的に足りていないのです! ひとつの村に少なくともふたり常駐! それが全国すべての村に常駐! それくらで初めて、『聖者が足りている』と言えると私は思っています!」
ひとつの村に最低ふたりの聖者……。
なるほど。確かにその観点から見た場合、エルピディオ大神官の言う通り聖者は全然足りていないのだろう。
だがひとつの村に最低ふたりの聖者――つまり《治癒》スキル持ちがふたり常駐するというのは、あまりにも非現実的すぎる数字でもあった。
なにせ《治癒》スキルというのは、以前ララたちにも説明した通り、数年にひとり現れるかどうかという非常に希少なスキルなのだ。
「エルピディオ大神官。失礼ながら、それはあまりにも現実離れしていると言わざるを得ない。《治癒》スキル持ちが希少なのはあなたも十分に知っているはずでは?」
私の言葉に、顔色ひとつ変えずに大神官は言い放った。
「もちろん知っているとも。だからこそ、僕は日々聖者探しに全力を費やしているんですよ! たとえどんな小さな村でも、辺鄙な山奥でも、《治癒》スキル持ちを見つけ、大神殿に連れてくる。それが僕の使命なのです!」
使命。
彼は先ほど、れべるあっぷ食堂でもこの言葉を出していたな。
そこへ、国王陛下が不思議そうに尋ねた。
「エルピディオ大神官。素朴な疑問なのだが、そなたは一体どうやって聖者たちを探し出しておるのだ?」
「……それなら、陛下と殿下ふたり以外の人払いをお願いしても?」
聞かれて国王はうなずいた。それから目くばせすると、謁見の間には国王陛下と兄上、それから私とエルピディオ大神官の四人になった。
「まだ陛下たちには明かしていなかったのですが――僕は、《探索》スキル持ちです」
探索?
というと、探したいものを意図的に見つけられるスキルのことか? まさか大神官のスキルがそれだったとは。
だが《探索》スキルというのは主に〝物〟に適用されるもの。
例えばそれこそボート侯爵領にあった聖剣が見つからなかった場合、《探索》スキル持ちの者が招集されて、スキルを使って聖剣を探すのだ。
それに対してエルピディオ大神官が探せるのは、《治癒》スキル持ちという〝人〟のようだった。
まさか《探索》スキルはそんな風にも使えたなんて……。私が既成概念に囚われすぎていたのか、はたまたエルピディオ大神官が特殊なのか……。
とはいえ、びっくりスキルはララで散々経験したため、大神官だけが特別だったとしても正直そこまで驚きはなかった。
……ララは色々と規格外すぎるからな……。
「話すより、直接御覧になった方が早いでしょう」
言うなり、大神官はスッと左腕を前に突き出した。
かと思うと、
「《探索》、発動! 《治癒》持ちを我に示せ!」
と叫び、パチン! と指を鳴らしたのだった。
たちまち、エルピディオ大神官が鳴らした指の上に、白い魔法陣が現れる。
魔法陣はコォォオオ……と神聖な光を纏ったかと思うと、そこから七色の光を四方に向かってパッ! と放ったのだった。
「おぉっ!!」
その様子に、国王陛下が感嘆の声をあげる。
一方のエルピディオ大神官は、目を細めてどこか遠くを見ているようだった。
「今、僕の目には天空に浮かぶ星々のように、あまたの《治癒》スキル持ちが見えています。大神殿で修行中の新米聖者たちに、遠く離れたカルラバト大峡谷の隠れ里にいる聖者まで、すべて手に取るようにどこにいるかわかる。もちろん、その中には先日のララローズ殿も含まれている。彼らに会いたければ、光が導く方向へと歩みを進めていくだけでいい」
なるほど。彼は今までこうやって《治癒》スキル持ちたちを見つけていたのか。確かにこれなら、辺鄙なところに住んでいても関係ない。聖者たちの数が増えるのも納得だった。
「へぇ……便利だな」
感心したように言ったのは兄上だ。
「君の《探索》スキルは、どのくらいの範囲まで探せるのかい? まさかこの国すべて、いや、大陸全土まで探せると?」
「大陸全土は無理です。が、リヴネラード王国全土くらいであれば可能です」
〝リヴネラード王国全土〟
その言葉に、その場にいた者たちの目の色が変わった。
思わず私は、すばやく兄上に目線を送っていた。真剣な目をした兄上も、私を見てこくりとうなずく。
――今のを聞いて確信した。
エルピディオ大神官の《探索》スキルは、とんでもない能力だ。
王都全体を探索できるというだけでも相当の代物なのだ。
それを、王国全土とは……!
彼自身はそれをもっぱら聖者探しに使っているようだが、もし仮に探す対象を貴族や王族にした場合、あるいは禁忌の国宝などにした場合でも、彼なら簡単に見つけ出せるということだ。
すなわちそれは暗殺や誘拐、盗難などにもいともたやすく繋がるということでもあった。
「エルピディオ大神官よ」
だから国王陛下がこんなことを言い出した時も、私はまったく驚かなかった。
「そなたのスキルは、十分にわかった。その上で王命だ。今後、そなたのスキルを口外してはならぬ」
むしろ心の底から同意したくらいだ。
彼のスキルはララほどではないとは言え、それでも十分脅威となりうる力だった。
仮に彼の力が悪しき者の手に落ちた場合は、魔王とはまた違った混沌が王国を襲うだろう。
「承知いたしました。……もっとも、命令されずとも他の人に明かす気はありません。今回、陛下たちに明かすことすらどうしようか悩みましたくらいでしたので」
フッと笑いながら、エルピディオ大神官が中指で眼鏡をクイッ! と上げる。
「はっは! なるほど、私が言わなくても十分自分のスキルのことはわかっていたようだな。ならば安心だ」
さすがは辣腕で知られるエルピディオ大神官。自分の能力のすごさと危うさを、十分知っていたらしい。
とりあえず彼ならば、悪人たちにホイホイと利用されることはなさそうだな……。
ほっとした私の前で国王陛下が続ける。
「話は戻るが、エルピディオ大神官よ。そなたのスキルも希望もわかったが、だからといってララローズ・コーレイン嬢を無理矢理連れていくことは国王として禁ずる。そもそも聖女は、フィンセントの妻になるならないに関係なく、強制されてなるものではないのだ」
それは穏やかながらも、はっきりとした〝王命〟だった。
「……御意」
散々食い下がった大神官も、この命令には逆らえないと判断したのだろう。大人しく頭を下げている。
「……ですが」
だがやはり、彼はそこで諦めるような男ではないようだった。
「無理矢理連れていくことはいたしませんが、仮に、もし仮に、〝ララローズ殿の方から行くと言った場合〟には、神殿に連れて行っても構いませんね?」
「む、それは……」
陛下が口ごもり、私や兄上の方を見た。
「うーん……確かにそれは……」
兄上も私も、すぐにいい返しが思いつかない。
我々王家としては、勇者でもあるララを大神殿には渡したくない。いや、渡せない。
魔王が倒れて早百年以上。勇者を擁護する王家は目立った活動はなく、反対に聖女や聖徒を擁護する大神殿は民たちの支持を集め発言力を強めている。
今ここで勇者と聖女両方の力を持つララを大神殿に渡せば……覇権を大神殿に渡すも同然だった。
それにララは隠し事が下手だ。もしエルピディオ大神官に彼女のスキルの全貌を知られた場合、きっとあますところなく利用され尽くすだろう。
ララをそんな目には――あわせてなるものか。
私はキッと眼差しを上げると、一歩前に進み出た。
***
エルピディオさんはっょっょ眼鏡。
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