第63話 これはうちの可愛いペットのニンジンです

「いらっしゃいませ~!」


 れべるあっぷ食堂に、今日もみなさんの声が響き渡る。


「ララちゃん、ぱんけーきひとつにぽかぽか茶ひとつぅ! それからリナちゃん、目玉焼きパンふたつお願いしまぁ~す」

「はい!」

「は~い!」


 セシルさんが注文を担当してくれるようになってから、私は調理に専念できるようになった。

 おかげで前よりもずっとずっと早く、いろんな料理を出せるようになっていて、とっても楽しい!

 経験値もどんどんたまって、もはやスキル習得が追い付いていないくらいだった。


「ごっそっさん! おばちゃん会計を頼むよ!」

「はいよ」

「ってうわ! 何そのニンジン!? っていうかそれ魔物じゃね!!?」


 男性のお客さんが、ドーラさんのそばにちょこんと座っていたキャロちゃんを見て声を上げる。その叫びに、ドーラさんがほんの少し眉を動かした。


「何言ってんだい。テイマーだって魔物をペットにしているだろう。これはうちの可愛いペットのニンジンだよ。名前はキャロちゃんってんだ。覚えときな」

「お、おう……」


 私はふふっと笑った。

 ドーラさんの言葉には、言われるとなんとなくそんな気がしてきてしまう強さがある。おかげで、キャロさんを初めて見るお客さんたちも、戸惑いながらもなんだかんだ受け入れているようだった。

 さらにドーラさんが続ける。


「それにね、この食堂には〝あの〟聖騎士団だって常駐しているんだ。これほど治安のいい場所もないだろう?」

「まぁそれは確かに……」


 戸惑うお客さんに、テオさんがガハハ! と大きな声で笑う。


「おう! 俺たち聖騎士団の奴が、少なくともひとりは常にいることになったからな! 治安も爆上がりってもんよ!」

「騎士たちの腕前は国王陛下のお墨付きだ。万が一キャロちゃんが暴れても、我々が抑え込むと約束しよう」


 ニッコリと微笑んだのはフィンさんだ。


 ……そう。

 先日、キャロちゃんが魔物だとバレてしまってひと騒動あったのだけれど、実はそこから一転して、なぜか聖騎士団の皆さんがこの食堂に常駐することになったのだ。

 フィンさんいわく、『連れていけないのなら食堂で監視すればいい』という話になったらしいのだけれど……まさかキャロちゃんひとりのために、聖騎士団の騎士さんが毎日ひとり常駐することになるなんて!

 れべるあっぷ食堂の皆さんもお客さんも大喜びとはいえ、フィンさんたちは平気なのかな……?

 それともやっぱり、〝マンドラゴラキング〟ってそれくらいする必要がある、すごい魔物だったのかな……?


「ぴきゅ~」


 そんなことを考えていると、キャロちゃんがとてとてと私の方に歩いてきた。それから足元に立って、大きく潤んだ瞳で私のことをじっ……と見つめてくる。

 察した私はしゃがみ込んだ。


「キャロちゃん、私のぽっけで休憩する?」

「ぴきゅ!」


 私が聞くと、キャロちゃんは嬉しそうに目を細めた。そのまま両手で救い上げてポケットに入れてあげると、すぐさますやすやと寝息を立て始める。


「キャロちゃんはぁ~ほんとララのポケットがお気に入りだよねぇ」


 身を乗り出したセシルさんがおもしろそうに言う。


「まぁ、キャロ坊にとってララがかあちゃんみたいなもんだろう」

「そうそう。友達っていうか、ママだよね」

「そうですか?」


 実家でもよく妹たちの面倒を見ていたから、その動きが染みついているのかもしれない。


「おうおう。嬢ちゃん、将来はいいかあちゃんになりそうだなぁ」


 なんて言いながら、ニヤニヤしたテオさんがフィンさんをチラ見する。


「なぜ私に振るんだ。……いや、私もララはいい母親になると思うよ。そもそもララはもともとすばらしい女性だから」

「おっ。フィンにしては言うじゃねぇか! えらいえらい! 成長したな!」


 言いながらテオさんが、男性でも容赦なく吹き飛ばしそうなほど強い勢いでフィンさんの背中を叩き始める。


「なぜそこで成長などという言葉が出てくるんだ……」


 だけどそこはさすがフィンさん。少し体が振動で揺れるだけで、びくともしなかった。

 さすが騎士さん! 体幹がすごい……!


「それよりテオ、そろそろ時間だ。私たちはもう出発せねば」


 フィンさんの言葉に、テオさんがめんどくさそうに答える。


「んあ? もうそんな時間か。まったく、これからお偉いさんの相手って考えると全然やる気がでねぇなあ。俺も一日れべるあっぷ食堂にいてぇぜ」

「それは私も……いや、みんな同じ気持ちだ。だからこそ持ち回り制にしたんだろう。テオも大人しく自分の順番を待てばいい」

「へいへーい。ま、それを言うならどこぞの団長さんが、俺なんかよりよっぽど首を長くして自分の番を待っているしなぁ?」

「そ、それは誰のことだろうか……!」


 なぜか少し赤面したフィンさんが、ゴホンと咳払いしながら言った。

 それから私を見る。


「というわけで今日は別の者に任せるが、私が登板の日は一日れべるあっぷ食堂に滞在させてもらうことになる。その時はよろしく頼む」

「はいっ! その日を楽しみに待っていますね! あ、もちろん、普通にお客さんとして来てもらうのも楽しみにしています!」

「うん。また時間の都合がついたら食べに来るよ」


 言って、フィンさんとテオさんはお仕事に向かった。




***

というわけで皆さま大変お久しぶりです!!!

まずは告知がてら、1年半ぶりくらいにはらぺこ令嬢を更新させていただきました!

近況ノート見てくださった方はご存じだと思うのですが、10/1(火)からは12時に毎日更新していきますので、ぜひまたはらぺこ令嬢にお付き合いいただけると嬉しいですーっ!!!

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