第62話 れべるあっぷ食堂の新たな一員
ドーラさんの言葉に、私も身を乗り出す。
「もしかしてキャロちゃんを連れて行くつもりですか!? それともまさか……!」
キャロちゃんを、魔物として討伐する気なのですか!?
口に出すのが怖くて、私は思わず途中で言葉を切ってしまった。
私たちが固唾を呑んで見守る前で、フィンさんがこめかみを押さえながら言う。
「本音を言うと、マンドラゴラ病が広がる前に、今すぐそのマンドラゴラキングを檻に入れて王宮に連れていくべきだと思う」
やっぱり……!
フィンさんの言葉に、私は急いでキャロちゃんを守るように、ぎゅううっと強く腕に抱えた。腕の中でぴきゅ、ぴきゅ、とモゴモゴ動くキャロちゃんの声が聞こえる。
「お願いです。どうかキャロちゃんを連れて行かないでください……! マンドラゴラ病が広がらないよう、私が全力でこの子を見ていますから!」
「そうだよ! キャロちゃんはうちの子なの! 連れて行かないで!」
「セシルたちが責任もつからぁ!」
キャロちゃんを連れていくという言葉に、リナさんとセシルさんもあわてて駆け寄ってくる。そんなふたりを見て、フィンさんが小さくため息をついた。
「……そう。絶対に君たちが嫌がると思っていたんだ」
「まあ、今のところは下手に刺激せず、様子見でもいいんじゃないか?」
そこへあっさりと言ってのけたテオさんに、フィンさんがいら立ったような顔を向ける。
「テオ、そんな簡単な話では」
「だってよ、フィン。お前たちがツドミム村に行ってから数日経っているし、さっきお嬢ちゃんも言ってたじゃねぇか。マンドラゴラを増やしちゃだめって言ったら、一匹もマンドラゴラ化してねぇって」
「それはそうだが……」
ためらうフィンさんに、テオさんがニカッと笑う。
「それに俺、気になることがあるんだ」
「気になること?」
「じいさんの歌に出ていただろう。『マンドラゴラキングと呼ばれた怪物は 寂しさを埋める「友」を求めた』って。あの歌はじいさんが勝手に作った歌だが、案外外れてねーんじゃねぇかって思ってるんだ」
「つまり……?」
首をかしげる私たちの前で、テオさんがビシッとキャロちゃんを指さした。
「マンドラゴラキングは、寂しいから他の野菜をマンドラゴラに変えているんだろう? じゃあそいつに友達ができて、寂しくなくなったら? ――マンドラゴラを増やす必要は、なくなるんじゃねーのか?」
「あ……!」
「グリズリー将軍の歌が本当なら、まあ一理あるっスね」
私たちはいっせいにキャロちゃんを見た。
抱きかかえられ、もぞもぞぷはっと顔を出したキャロちゃんは、いつも通りうるうるの瞳で、不思議そうに周りを見回している。
そんなキャロちゃんを見ながら、私はまっすぐフィンさんの方を向いた。ぐっと眼差しに力を込め、心からの気持ちを訴えかける。
「私、キャロちゃんに言い聞かせて、マンドラゴラ病を起こさせません! 万が一起きた場合は、全部責任もって浄化してまわります! だからお願いします! キャロちゃんを、連れて行かないでください!」
「ララぁ、浄化って大きな声で言っていいんだっけぇ?」
あっ。
セシルさんに突っ込まれて私はしおしおと肩をすくめた。そんな私の肩を、ぽん、とリナさんが叩いていく。
「あたしも、めいっぱいララの手伝いをするよ! キャロちゃんのことで、都のみんなには迷惑かけない!」
「セシルもぉ~。食堂のみんなで見守れば、きっと大丈夫だよね。ねっママ」
ドーラさんの腕にがっちりと手をかけたセシルさんも、嬉しそうに言う。
「やれやれ……こうなる予感はしていたけどね……」
ひっぱりだされたドーラさんは呆れ顔をしていたけれど、すぐにフィンさんたちを見つめると、ゆっくりと頭を下げた。
「というわけで騎士さんたちやい。キャロはその、『まんどらごらきんぐ』とかいう前に、うちのペットだ。あたしたちが責任もって面倒を見るから、ひとまず連れて行くのはやめてくれないか。あたしの娘たちがうるさく騒ぎそうだしねぇ」
「そうだよ騎士さんたち、連れて行くのはよしてくれよ」
「あのニンジン泣きそうになっているじゃねぇか。無理矢理連れて行ったらかわいそうだぞ」
「そうだそうだ!」
ドーラさんの言葉に合わせて、食堂の中からやいのやいのとお客さんの声が上がる。
「だってよ。どうする、フィン」
まわりの言葉に、フィンさんはそのまましばらく悩んでいたようだった。
かと思うと、ふぅと、まるで重い荷物を下ろしたかのように、大きく息をつく。
「……わかった。ひとまず、マンドラゴラキングの……キャロは食堂に置いておこう」
「やったぁ!」
「ありがとうございますフィンさん!」
私たちは顔を見合わせて喜んだ。とりあえず、キャロちゃんの安全は守れたみたい!
ほっとする私たちに、フィンさんが珍しく厳しい口調で付け加える。
「ただし、陛下も同じ考えかどうかはわからない。今後は慎重に経過を見ていく必要があると思っているし、何かあった際には、かばいきれなくなるかもしれない」
フィンさんの言葉に、私は真剣な表情でうなずいた。
さっきドーラさんはキャロちゃんのことをペットと言っていたけれど、生き物を迎える以上、私たちはしっかりと責任を持たなくてはいけない。
他の野菜をマンドラゴラ化させないのはもちろん、キャロちゃんの生命と安全を守るのも、私たちの仕事だ。
腕の中でもぞもぞと動くキャロちゃんをぎゅっと抱きしめながら、私は力強く言った。
「もちろんです。私たちが、精一杯キャロちゃんを守ります!」
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\テレッテレー!キャロ(聖騎士団公認)が仲間に加わった!/
……こんなことを言っていますが原稿が進まなさすぎて来週の更新はかなり危ういかもしれないです……。
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