第61話 マンドラゴラキング……の……?
「しかしララ、テオの言っていることが本当なら、君はまたなんで『マンドラゴラキング』を抱えているんだ?」
キャロちゃんを見つめていると、フィンさんが控えめに聞いた。
途端に食堂内の人たちも、私がなんと答えるのかじっと聞き耳を立て始める。
ううっ。ここまで来たら、もう「ぬいぐるみです」は通用しなさそう……。
私は観念すると、正直に打ち明けた。
「実は……フィンさんとツドミム村に行った日の夜に、この子――キャロちゃんも一緒についてきたみたいなんです。多分、マンドラゴラニンジンの中にまじっていたんだと思います」
「ツドミム村の……? そういえばフィン、先ほど歌詞の中に『王は口付けを落とす 芽生えた種から生まれた怪物に 王はまた涙を落とした』という一節があったな?」
「おう。詳しくは知らんがそれで仲間を増やすんだってじいちゃんが言ってたな」
そこに、リナさんが「あっ」と声を上げる。
「あっ。そういえばキャロちゃん、昨日ちゅーした野菜が全部マンドラゴラになっていたよね?」
「うんうん、なってたよぉ~」
「ということは……ツドミム村のマンドラゴラ病は、もしかしてララが抱えているその『マンドラゴラキング』が感染源なのか?」
「多分そうかも……しれません……!」
私は手の中のキャロちゃんを守るように、ぎゅっと抱えた。
どうしよう。マンドラゴラ病の感染源だとわかった以上、もしかしてキャロちゃんは連れていかれるのかな? それとも、退治されちゃうのかな……!?
私はあわてて言い訳するように付け足した。
「あっ、で、でも、キャロちゃんは言葉が少しわかるみたいで、「マンドラゴラを増やしちゃだめだよ」って言ってから一匹もマンドラゴラ化させていないんですよ!」
「へぇ? コイツ言葉がわかるのか?」
テオさんがおもむろに立ち上がったかと思うと、ずかずかと私たちの方へ歩いてくる。
目の前にぬんっと立ちふさがったテオさんに、キャロちゃんが一瞬身をすくませた。それから様子を窺うように、大きな瞳でうるうるとテオさんを見上げた。
「よう、キャロと言ったか? 俺ぁテオだ。よろしくな」
言ってテオさんの太い指が一本差し出される。まるで握手を求めるような動作だ。
それに対して、キャロちゃんはおそるおそる……といった様子で震える手を差し出したかと思うと、テオさんの太い指に自分のオレンジ色の手をぴとっと重ねた。
「ははっ! 見ろよフィン、ラルス。こいつ、マンドラゴラなのに握手してくれたぞ! やっぱキングだろこれ」
「キングなのにそんなぷるぷるした感じなんスか? 今にも泣き出しそうだし、キラーラビットに一瞬で喰われそうじゃないスか。威厳ゼロっスよ」
「ばっかお前、『寂しがりの王』ってじいさんが歌ってただろ」
ふたりの会話に、何かを考えていたらしいフィンさんがぱっと顔を上げた。
「そうだ、ララ。君にはあれがあるだろう?」
「あれ……?」
フィンさんが何を指しているのかわからなくてきょとんとしていると、足早に駆け寄って来たフィンさんが食堂のお客さんに聞こえないよう、私にこそっと耳打ちする。
「『鑑定』だよ、ララ」
「ああ!」
思い出して私はハッとした。
そうだ。そもそもキャロちゃんのことをずっと『マンドラゴラ』だと思っていたから、鑑定したことがなかったんだった!
私はじっとキャロちゃんを見つめると、すぐに心の中で『鑑定』と念じた。
実は生きている魔物を鑑定するのは、これが初めてだったりする。一体どんなものが出てくるのだろうと考えている私の前に、スゥッと白い文字が浮かび上がった。
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<マンドラゴラ・キング(ベビー)>
年齢:3ヶ月
レベル:1
状態:健康
特性:寂しがり
スキル:『マンドラゴラキングの口付け』
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……ん? マンドラゴラキング……ベビー???
括弧の中に書いてある文字を見て私は目を丸くした。
「どうした、ララ」
「あのう、この子、名前の横に『(ベビー)』って書いてあります。どうやら生後3ヶ月みたいです……!」
「ははっ! 生後3ヶ月じゃ、まごうことなき赤ちゃんだな!」
テオさんの大きな声に、また食堂内がざわめく。
「本当にマンドラゴラキングらしいぞ、あれ」
「生後3ヶ月ってのはどうやって見分けたんだ?」
一方のフィンさんは眉間に手を当てていた。
「まさかこれが本当にマンドラゴラキングだなとは……。すぐに陛下に知らせなければ」
「自分、今からひとっぱしり行ってきましょうか?」
「いや、いい。他にも相談しなければいけないから、私が行こう。それより今は、この食堂にいる人たちにどう情報規制をかけるかだな……」
言いながらフィンさんが食堂を見渡した。
今いるのは、顔なじみがほとんどだ。みんなしっかりキャロちゃんの姿を見て、そして『マンドラゴラキング』という単語を聞いている。
「すまんな! 俺が大声で言っちまったわ」
「って言いながらこれっぽっちも悪びれた様子がないっスね、テオさん」
「お詫びに、全員記憶を失うまで絞めるか?」
とんでもなく物騒なことを言い始めたテオさんに、食堂にいる全員がビクッと肩をすくめる。そこへ呆れ顔でいさめたのはフィンさんだ。
「やめろ。そんなことで記憶はなくならないし、騎士としてあるまじきことをさらっと口にするな」
「テオさん、どう考えても騎士より傭兵向きなんスよねぇ……」
ぼそっとしたラルスさんのつぶやきに、何人かのお客さんがうんうんとうなずいたのを私は見ていた。
その中から声を上げたのはドーラさんだ。
「まあもうバレちまったもんはしょうがない。人の口に戸は立てられぬって言うし、認めるしかないだろう。それよりフィン様方、あんたたちこそこの子をどうしたいのかね?」
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