第14話 はちみつ色の王都ヘシトレにやってきました!

「ここが王都なのですね!」


 私は両手を組みながら、感極まったように目を輝かせた。


 数日の旅を終えて、ついに私を含めた騎士団はリヴネラード王国の王都、通称“はちみつ色の都ヘシトレ”にたどり着いていたのだ。


 大きな門を抜けた先には、名前の由来となったはちみつ色の石灰岩で作られた建物がずらりと立ち並んでいる。明るく輝くようなヘシトレストーンの中、真っ赤に色付けされた扉や緑の窓枠などが目にも鮮やかだ。


 通りでは、あちこちに並んだ露天から売り子たちが明るい声を張り上げていて、道行く人の賑わいとあいまって、歩いているだけで楽しくなりそうだ。


「もしかしてララは、王都は初めてなのか?」

「はい!」


 穏やかな顔のフィンさんに聞かれて、私はうなずいた。


 私の主な行動範囲は実家があるコーレイン村の領地と、そばにある森の中だけ。

 他の令嬢は社交界のために王都に来ているだろうし、王都にタウンハウスと呼ばれる別邸もあるだろうけれど、コーレイン家ではそんなものとうの昔に売り払っていた。


「そうか。なら、王都は広い。ここでしばらく暮らすつもりなら、今度私が街を案内しよう。危険な裏通りなども知っておいて方がいいからね」

「ええっ!? いいんですか、ありがとうございます!」


 私は感動に目を潤ませた。

 働き口を紹介してくれるだけでもありがたいのに、街の案内までだなんて……! 

 きっと騎士団長さんともあれば忙しいだろうに、なんて優しいんだろう。やっぱり都会の騎士さんって紳士なんだな……。


「でもその前に、まずはララの働き口を見つけないと。皆、せっかくだからこのまま酒場に行こう。陛下への謁見は後で私だけ行くから、皆は帰還の打ち上げをしていてくれ。ただし、飲みすぎるなよ」


 フィンさんの言葉に、ワッと騎士たちから喜びの声が上がった。


「おっ! 早速『勇者の憩い亭』か!? あそこのエールはうまいんだよな~!」

「テオさん、帰還早々酔いつぶれるのはやめてくださいね。テオさん重いんですから、運ぶのは数人がかりなんスよ!」


 そうお小言を言うラルスさんの顔も、心なしかいつもより嬉しそうだ。

 やっぱりみんな、王都に帰ってきて嬉しいんだろうな。そんな騎士さんたちの顔を見ていると、なんとなく私までニコニコしてしまう。


「そういうことなら、すぐに行こうぜ!」


 テオさんが先頭を駆ける中、早速たどりついた『勇者の憩い亭』は裏にうまやもある大きな酒場だった。

 私の家よりもずっとずっと広い酒場はたくさんの人たちでにぎわい、四十代の店主らしい男性がフィンさんを見つけてすぐさま駆け寄って来た。


「やあやあ、これは聖騎士団のフィン様ご一行ではないですか! 偵察の旅からお戻りになられたのですね!」

「ああ。せっかくだから、慰労会でも開こうと思って。今から騎士たちを入れてもいいか?」

「もちろんですとも! そろそろかと思って、お酒もたぁんと用意してありますよ! ……おや、その女性は?」


 そこで、店主の目が私に向けられる。


「ちょうど紹介したいと思っていたんだ。彼女はララローズ。わけあって働き先を探しているのだが、以前ここで料理人を募集していた気がして」


 フィンさんに紹介されて、私は緊張しながらぺこりと頭を下げた。


「ララローズと申します! 《はらぺこ》スキル持ちですが、ご迷惑はおかけいたしませんっ!」

「スキル? へえ。お嬢ちゃんはお貴族様なのかい?」

「はい! と言ってもものすごく貧乏なので、仕送りするために働き口を探しています!」


 私が言うと、店主さんは目を丸くしてからわっはっはと笑った。


「貧乏だなんて、自分で言うお貴族様も珍しいですなあ。……おわっ!」


 そこへ、既にエールのジョッキを握りしめたテオさんがガシッと店主さんの肩に腕を回してくる。


「おいオヤジよぉ、ぜひともこの子を雇ってくれよ。いい子だし、何より作るメシがうまいんだ。俺が保証するぜ!」


 絡んでくるテオさんを押しのけながら、店主さんはううむとうなった。


「私はその、はらぺこスキル? とやらも気にしないし、雇いたのはやまやまなんですが、ちょうど先日、新しい料理人が見つかったばかりなんですよ。ウェイトレスの席だったらまだ空いているんですが……」

「ウェイトレスか……。でもララは、料理人として働きたいんだよな?」


 フィンさんに聞かれて、私は口ごもった。


 確かに、私は料理人として働きたい。

 でも、スキルを気にしないで雇ってくれる人は貴重だし、フィンさんの紹介だし、仕送りができるならウェイトレスでもいいのかも――。


 私がそう考えていた時だった。


 入口から、白髪のおばあちゃんが扉を開けて入って来たかと思うと、私たちに向かって叫んだのだ。


「料理人なら、あたしが探しているよ! そこのお嬢ちゃん、あたしのところで働きな!」

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