第13話 《はらぺこ》スキルの効果って
それから私たちは、順調に王都への道のりを歩んでいった。
森で採取した食材や、騎士さんたち(主にテオさん)が調達してきた獲物肉を取り入れながら、毎日ごはんを作る。
そうしているうちに私のレベルも上がって、新たに《
どちらも料理を作る時には必須のものだから、すっごく助かる!
早速るんるんで水魔法を使って野菜を洗っていたら、狩りから戻って来たフィンさんに話しかけられる。
「あれ、ララは魔法が使えるのか。もしかしてそれが《はらぺこ》スキルの効果なのか?」
「は――」
はい! と言おうとして、私は止まった。
あれ? これって、《はらぺこ》スキルの効果なのかな?
どっちかと言うとリディルさんのおかげだと思うんだけど、包丁を抜いたらスキルが増えるようになりました! って言って信じてもらえるかな……!? リディルさんの声って、他の人には聞こえていなさそうだし……。
私がぐるぐる考えていると、でっかいワイルドボアをかついだテオさんとラルスさんもやってくる。
「おっ? ララはスキル持ちなのか? やったな。平民でスキルが発動するのは珍しいから、ラッキーじゃないか」
うっ。この口ぶりからして、やっぱり私が貴族だとは夢にも思われていないみたい……!
そんな私に助け舟を出すように、フィンさんがごほん、と咳払いした。
「テオ……。実は、ララはコーレイン男爵家の令嬢なんだ。だから我々と同じ、貴族階級に当たるぞ」
「ええっ!? そうなんスか!?」
……ラルスさんまで驚きの声を上げている。
私がトホホと肩を落とす前で、テオさんがあわてたように手を振った。
「す、すまん、俺はてっきり……!」
「いえ、気にしないでください。令嬢らしくないという自覚はありますので……!」
だって、普通のご令嬢はキラーラビットもベアウルフもさばかないし、なんなら包丁を握ったことすらないはずだ。
むしろ気を遣わせてしまって申し訳ないなあ……と思っていたら、テオさんがかついでいたワイルドボアを、どん! と私の前に降ろす。
「すまんな! 代わりにこれやるよ!」
「いやテオさん、それ最初っからララさんに調理してもらう予定だったっスよね?」
ジトッとした目を剥けるラルスさんに、テオさんは「バレたか」とガハハと笑った。
その後フィンさんとテオさんは会議のために移動し、私はラルスさんと協力しながらサクサクとワイルドボアを解体していく。そしてラルスさんが、ちらちらと私――の手元、包丁を見ながら呟く。
「……ララさんの包丁、切れ味がすごいっスよね。そんな綺麗な見た目しているのに芋でも肉でも、なんなら骨でも簡単に断っているし。スゲー包丁じゃないスか? それに……その包丁、どっかで見たことある気がするんスよね……」
聞かれて、私はリディルさんを掲げてみせた。
「そうなんです、本当にすごいんですよ! 実はこの間森に落ち――」
「ラルスさーん! テオさんが呼んでいますよ!」
「っス! すみませんララさん、話はまた今度で」
呼ばれて、ラルスさんがあっという間に駆け出していく。
せっかくリディルさんのことを紹介するチャンスだったのに、逃してしまった……。でも、しょうがない。
ラルスさんの後ろ姿を見ながら、私はまたごはんの準備に戻った。
それから、先ほどのフィンさんの言葉を思い出す。
『もしかしてそれが《はらぺこ》スキルの効果なのか?』
「ううーん。リディルさんのおかげでスキルは増えているけれど、これは《はらぺこ》スキルと言えるのかな……?」
『それはですね、ララ』
すぐさま私の質問に答えるように、リディルさんの声が聞こえた。
『わたくしと《はらぺこ》スキルがシナジーを起こした結果、通常とは違う現在のスキルツリーが誕生していますが、《はらぺこ》スキル自体にも効果は別にあるはずです。鑑定してごらんなさい』
「そうなんですね!? というか鑑定って、人にも使えるんですね!?」
人に使うという発想が全然なかった私は、驚いて
『はい、鑑定はすべてのものに使えます』
鑑定、すごいなあ……!
リディルさんがおすすめだけあるなと思いつつ、私は早速、食べ物を鑑定する時と同じように自分の事を鑑定してみた。
ぽわん、と目の前に現れた文字には――。
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<ララ・コーレイン>
性別:女 年齢:16歳
レベル7:21/234
状態:はらぺこ 職業:はらぺこ包丁使い
体力:700 精神力:700
力:2 防御:5 素早さ:7
器用:10 魔力:1 運:7
スキル:はらぺこ
包丁使い
鑑定
塩生成
バフ付与:小
下級火魔法
下級水魔法
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すごい! レベルアップするための数値も、今まで覚えたスキルも、全部表示されている!
……でも職業の『包丁使い』はともかく、前についている『はらぺこ』は必要だったのかな!? あと体力と
私がじぃいっと見つめていると、どこか得意げなリディルさんが続けた。
『それから、スキル欄に載っている文字を触ってごらんなさい。詳細が見れるはずです』
「えっ!? そうなんですか!?」
なんて便利設計なんだろう。これでようやく、私のスキルの謎が解明されるのかもしれない!
ワクワクしながら、私は早速宙に浮かぶ《はらぺこ》の文字に触れた。
途端、ぽぅんと音がして、新しい文字が表示される。そこには――。
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はらぺこ:スキル所持者の胃袋が巨大化する
======
……。
…………。
………………えっ、まって。それだけ!?
私は思わずリディルさんをぎゅっと握りしめた。
役立たず役立たずとは言われてきたけれど、まさか本当にそれだけだなんて……。
もしかしたら何かいいこともあるんじゃないかって、ちょっとだけ期待したのに……。いやごはんをたくさん食べられるのはいいことだし、リディルさんのおかげですごく便利なスキルや魔法を使わせてもらっているけれども……!
私がくぅぅ……とうなだれていると、『おや』というリディルさんの声が聞こえた。
『ララ、よくご覧なさい。スキル説明の最後に、鍵のマークがついていますよ』
えっ?
言われて、私はあわててまじまじと文字を見つめた。
言われてみれば確かに、『胃袋が巨大化する』の後ろには、小さな鍵のマークがついている。
「これは……?」
『なるほど。どうやら、ララの《はらぺこ》スキルはまだ未覚醒の部分があるようですね。レベルが上がるか、あるいは必要なスキルを取得するか……いずれにせよ、条件を満たさなければ、ここは開かないようです』
それってつまり……まだほかにもあるってことだよね? よかった、お腹が空くだけじゃなかった!
私はホッとした。
何も書いていないから解放される条件は全然わからないけれど、このままレベルが上がっていけばヒントがわかるかもしれない。
一体、どんな効果が待っているんだろう。食べても太らないとか? ううん、ここはもっとすごく、毒でも腐った物でも何でも食べられるようになるとか!? そしたらすごい節約につながるよね! いい効果だと嬉しいなあ。
私はまだ解放されない効果を考えながら、ひとりでワクワクした。
他の人には散々笑われてきたスキルだけど、リディルさんのおかげもあって今はすごく楽しい。これからもたくさんおいしいごはんを作れればいいな。
フィンさんも、王都の酒場を紹介してくれると言っていたし、そこでなら念願の料理人になれるかもしれない!
私はうきうきしながら、まだ行ったことのない王都の事を考えてトントントントンとリズムを刻むのであった。
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