第254話 吐くまで飲もうぜ!②
「なんだこの肉の絶妙な焼け具合は……! 外はカリッと、中は溢れんばかりの肉汁だ! 口の中がパーリィーだ!」
バクバクと和牛のいいところから食べているエルンストが感極まってグルメ漫画のような声を上げた。
「黒毛和牛のいいところを紀州備長炭を使って丁寧に焼いています。遠赤外線効果で肉汁が無駄に出て行かないようにしていますからね」
「部位はバクバク、どこをバクバク、使ってるんだ?」
食うか喋るかどちらかにしてほしい。
彼について来た獣人たちの食べっぷりも似たような勢いなので、
「タンとハラミとカルビとロースと……って、クリューガー少佐、片っ端から食べてるじゃないですか! 味混ざりますよ!」
「心配するな、ちゃんと食べ分けてる。あ、ホルモンだっけか、そのへんはまだか? アレ美味いんだろ、聞いたことあるぞ。コシヒカリライスもくれよな」
「まぁ、コメも炊いてはありますけど……」
ちゃんと土鍋で炊いてある。それほど多くはないので沢山食べたい人間は屋台に行くべきだ。
「あ、
「生卵食べられるんですか? あと海苔とか……」
「それはさすがに地球のだろ? 胃腸が強化されてるから問題ない。くれくれ」
いったい、どこからそういう情報を仕入れてくるのか。
……いや、この男、独特の癖はあるがコミュニケーション能力はあるので、自衛軍の食堂の連中とも案外仲がいいのだ。
「じゃあ、これを」
ごま油と塩で少し辛く和えた白髪ネギ、それと細かく違った海苔を散らせて卵黄を乗せた特製ごはんを出すとひったくるように持って行かれる。あとは焼けた肉と一緒にものすごい速度で食べられていく。
「キリシマ大尉! 美味いじゃないか! あ、俺にもそのライスボウルをくれ」
ひとしきり食べたスコットも遅れて絶賛の声を上げた。
食べる方に集中していた彼は言葉こそ短いが、表情を見れば満足しているのがひと目でわかる。
しかも、巨漢を維持するためか食い意地かはわからないが、エルンストよりも食べるのが多くて速い。
「「おまえホント料理人になったらどうだ!」」
声をハモらせたふたりはあっという間にジョッキを空にすると、テーブルに置いてあった新たなジョッキに手を伸ばす。
これでは「ちょっと炭火で焼いただけですよ」と言う暇もない。あー、口元に米粒がついている。
「そうか、やけにジョッキが多かったのはそういう……」
ふたりの迷いのない動きを見た将斗はすぐに気が付いた。
これは皆に分けるために持って来たのではなく、自分たちがすぐに飲んでしまうからお代わり用に持って来たものなのだ。わけてくれたのはついでだ。
しかも、温くなる前に飲む気だ。明らかに面構えが違う。なんというドランカースタイルか。
「アメリカンなバーベキューも好きな方だが、和牛の味を楽しむならこっちの方がいいな」
スコットがしみじみと頷く。
分厚くてデカい肉をじっくりと焼く、豪快極まりないアメリカンスタイルは米軍出身の兵士たちが別の場所で気合を入れてやっている。
これは適材適所だろう。食い意地の張った連中はあちらに群がっている。マリナもその中にいた。相性がいいのかもしれない。
一方、小食なサシェは付き合い切れず、スコットの隣にいていくらかもらっている。質のいい肉を邪魔されずに食べられる最高のポジションだ。そつがない。
「いやぁ、賑やかだね。僕はこっちの方が好きかな」
「美味しいもぐもぐですねもぐもぐ」
いつの間にかジェームズとミリアがいた。
「お、どこにいたかと思えば」
「ちょっとマクレイヴン准将に呼ばれていまして」
「また悪だくみか?」
エルンストが皮肉交じりに訊ねる。
「ははは、否定はしません。お腹が空いたので明日にしてもらいましたが」
貴族出身のジェームズは品よく食べているが、横のミリアは男性陣に負けない食欲優先っぷりだ。なかなかの勢いで肉とビールが細い身体の中に消えていっている。
「しかし、ミリアは……よく食うな」
こんなキャラだっけ? というのはこの場にいるメンバー共通の思いだろう。
一緒にいる機会の多いジェームズはもう半ば諦めているようだが。
「まぁ、食べ尽くすつもりでやってもらって大丈夫です。会場全部で六百人分は用意していますから」
瞬く間に網の上からなくなっていく肉を補充しながら苦笑した将斗は、自身も温くならないうちにジョッキの中身を乾かしていく。
「マサト殿、野菜も補充するか?」
「ああ。頼む」
「…………」
「そちらも適当に飲んで食べてくれよ? 俺も飲むから」
焼き場にいると暑くて仕方ない。呑まないとやっていられないのだ。他の要因もあるが。
「わたしもそろそろ飲もうかな」
翼も……こちらも暑さだけではなさそうだが、ジョッキを持つや否や結構なペースで飲みだしている。
それほど酒に強いイメージはないが、大丈夫だろうか。
「いい宴になったもんだ」
「いやホントバクバク」
スコットが食べる手を止めて周りを見渡し、エルンストがライス片手に食べ続けながら同意した。
このような形で、宴のメインはバーベキュー。あとは〈パラベラム〉の食堂関係者が出店形式で各種料理を用意しているのだ。
自衛軍出身者はカレー、やきとりなど。ラーメンは麺を啜るのが貴族子女には大変だし忌避されるだろうとやめておいた。
アメリカ軍はハンバーガーにポテト、フライドチキン、さらにはケバブなどもやっていた。さすがはファーストフードの国。気合が違う。
ドイツ軍は各種ソーセージを中心にプレッツェルなどオクトーバーフェストで見られる料理を。ザワークラウトは誰かが自家製で仕込んでいると聞く。
あとは……イギリス軍関係者も徐々に増えていて、彼らはビールを衣にしたフィッシュアンドチップスを中心に大英帝国料理を――いや、ここは深く言うまい。
それぞれの屋台の人だかりを見ればわかる。現実はどこまでも非情なのだ。
「よう、飲んでるか。……って、見たらわかるな」
「皆さんお疲れ様です」
そこでロバートがクリスティーナを伴って姿を見せた。
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