第240話 This is my Rifle, This is my Gun.
「今からこの銃――
「「「サー、イエッサー!!」」」
ハイポートで重量の感覚を肉体に叩き込んだところで、彼女たちにはこの後の訓練でMini-14の扱いを覚えてもらう。
「コイツは弓はおろか、戦場で飛んで来る魔法も比べ物にならんほどに凶悪な武器だ! 詳しい原理は追々説明するが、指先にちょっとした力を込めて突起を引いただけで、鉛でできた弾丸が高速で飛んでいく! ……このようにな!」
そう言ってライフルを構えたロバートが引き金を絞ると鋭い破裂音が響き渡った。
相応の距離にいた訓練兵たちは鼓膜を殴りつけてくる音に小さく驚く。
彼女たちの視線の先で、人間の頭大の果物が破裂して吹き飛んだ。
しかも音が響くだけ――複数回に渡ってだ。
初めて間近で聞く銃声に、何人かが身を竦めるのが見えた。
だが、誰ひとり悲鳴は上げない。間違いなく訓練の賜物だった。
反応してしまうのは仕方ない。馬などのそれと同じく条件反射のようなものだ。訓練を重ねれば慣れていくだろう。
「今回は貴様らでもわかるように近い距離で撃ったが、ここから宿舎までの距離でも人間の頭を吹き飛ばせる威力を持っている! よほど高位の結界でもなければ簡単に殺せる! 鎧も貫通するぞ!」
誰かが――あるいは何人かがゴクリと唾を飲み込んだ。
おそらく自分にそれを向けられた時のことを想像したのだろう。
「だからこそ愛しい恋人のように丁重に扱え! ご機嫌を損ねるなよ? 貴様らの脳みそでもすでに理解していると思うが、この武器の使い方を覚えてもらう! いや、手足同然に使いこなせ! コイツはファックの次にいいモノだ! ヨダレを垂らしてだらしなく男を誘う
彼女たちにライフルを与えたのは、早急に戦力が確保できることもそうだが、これまで兵として数えなかった人間が戦力化できる実証実験でもある。
剣や槍、人によっては弓を扱った経験は騎士団の者たちにも相応にある。
だが、それはあくまでも儀礼騎士団向けの訓練であり、まともな騎士や兵士を相手に立ち回りができるものでは到底なかった。
〈パラベラム〉が鍛えるべきはそこではない。
個々の才能に左右される技能よりも、現代軍隊として過去から積み上げられてきた叡智――“訓練次第で誰でも同じ程度の能力を発揮できる戦い方”を叩き込むべきなのだ。
「スカした美少女もう卒業!」
「スカした美少女もう卒業!」
「我ら精鋭百合騎士団!」
「我ら精鋭百合騎士団!」
「司祭の聖句にゃ惚れられない!」
「司祭の聖句にゃ惚れられない!」
「頼りになるのはMini-14!」
「頼りになるのはMini-14!」
Mini-14を胸の前に掲げ、歌いながらでも問題なく走れるようになった。
新兵訓練中のヴェストファーレンやDHUの軍からは奇異の目で見られているが、あちらはあちらで近いことをやっている。
単純に騎士やそれに近い従士といった面子、しかも女が厳しい訓練に参加してメニューをこなしているのが信じられないのだ。
「まず銃の仕組みから説明するが、簡単に言えば密閉した筒状の底部で力を発生させると、その上に乗っているものは逃げ場のある方向へと押し出され――」
これは教会討伐軍との戦いで使われた火縄銃で使われている原理なので説明しても大きな問題はない。
そもそも仕組みもわからず武器を使うなど危険極まりないのだ。
たとえ仕組みがわかったところで、火縄銃は黒色火薬――今は煙が凄まじいため褐色火薬へ切り替えている最中だが――がなければ意味を為さない上に、爆轟に耐えられる金属加工技術、また引き金とバネで連動する
「
正しく構えて正しく撃たせる。タイミングも可能な限り揃えさせる。
「早漏も遅漏も我が軍には不要だ! できないアホの穴から突破される! 仲間を危険に晒すつもりか! あぁっ!?」
「「「サー、ノーサー!」」」
「呼吸だけで銃口は動く! 射撃を安定させたい時は息を吐いてからそっと引き金を絞れ! そいつを使いこなせば魔物の目ん玉だって撃ち抜ける!」
「「「サー! イエッサー!」」」
銃弾を除く重量は2.9キログラム。
より重いM14とは異なり、これまでの訓練を積んだ兵たちなら取り回せると判断した。
あるいは魔力の補助を受ければ可能かもしれないが、それはこの部隊の存在意義とは異なる。
魔力を感知が可能な兵が存在する以上、そのようなつまらないことで気付かれるわけにはいかない。
「
訓練に次ぐ訓練、丸太を掲げさせられ筋力増強に励んでいた訓練兵たちは、あっという間にこのライフルを扱えるようになっていった。
「いいぞ
そうして何日かの訓練も経た頃には、もはや身体の一部にも等しくなっていた。
当然だ。そうなるように訓練を施したのだから。
「大規模な魔法なんてのは無詠唱でもなければ、自分を見てと注目させる手淫も同じだ! 目立ちたがり屋は早死にする! 真っ先に倒せ!」
「恐れるな! 相手がマヌケ面を晒している間に、.223キャリバーでクソッタレどものドタマとケツに新しい穴を増やしてやれ!」
「騎馬兵でも魔法兵でもない! 貴様らが戦いを制するんだ!」
「「「サー! イエッサー!」」」
返事に続いて幾重にも重なる銃声。それはまるで新たなに生まれ変わった彼女たちの産声のようにも聞こえた。
百メートルほど先では、人間を模した標的にいくつもの穴が開いている。
そこへ目がけて一心不乱に弾丸を送り込む訓練兵たちの目は戦意にギラつき、口元にも品を損なわない程度の小さな笑みが浮かんでいた。
少し前まで漂っていた、甘ったれたお嬢様の顔はもうどこにも存在しない。
「まだまだ足りないが少しは殺し屋のツラになってきたな。いい女が揃ってきやがったぞ」
訓練期間の終わりが見え始めていた。
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