第173話 戦場談義〜後編〜
「いいぞ、言ってみてくれ」
ロバートは続きを促した。
「私は魔法使えるわけじゃないので、思い付きレベルで実用性は二の次ですが……」
「身構えなくていい。検討するだけでも価値はある」
チームのリーダーとして敢えて表情を崩して見せた。
現実を突き付けているばかりでは士気も上がらない。
今後を見据えれば、こういった意見を言い合える空気の方がよほど大事だ。
「そうですね……。たとえば、バリスタの先端や矢羽に魔法で作動する何かを乗せられれば対空火器の代わりになるかもしれません。リューディア、できそうかな?」
この世界には物理法則を無視して飛んだり火を噴いたりするワイバーンやヒクイドリがいる。
ついつい地球軍事技術で考えてしまうため失念しがちだが、魔法というテクノロジーが存在しているのだ。
既存の攻城兵器に誘導性を持たせられれば、それこそ新たな兵科が生まれるかもしれない。
「ふむふむ……。やってみないとわからないが面白そうだ。エルフとしては協力するに吝かではない」
話を振られたリューディアはすぐに話に乗ってきた。
小さく耳が動いている。
表情には出さないが、新たな試みに関われることが嬉しいらしい。
「ほぅ、一蹴するほど難しくはないんだな?」
スコットも興味を示した。
彼の場合、純粋に新たな技術に興味があるのだろう。
「おそらくだが。高位の魔法使いなら同じ
「魔法式の構築とか言うほど簡単じゃないとは思いますけど……。でも、やってみる価値はあると思います」
リューディアが基礎概念を理解し、サシェも同意を示した。
「フム。魔法と工業の
それまでマグカップを片手に黙って聞いていたウォルターが頷いた。
彼はチームを率いてバルバリアで冒険者活動をしていたため、〈パラベラム〉の中でも魔法に多く触れていた。
自分たちなら対戦車兵器か航空支援を頼めばいいが、現地人が巨大な魔物に対抗するにはそうともいかない。
そうした技術と技術を組み合わせる必要性を密かに感じていたのかもしれない。
「言われてみるとここには魔法もあったな。高速で飛んでるワイバーン相手に地上からノロノロ火球を放つよりはずっとマシかもしれん」
スコットは頷きながらそっと腕を組んだ。
「へぇ、意外。おっさんたちは魔法が好きじゃないのかと思ってたよ」
マリナが驚きの声を上げた。
たしかに彼女の言うように、〈パラベラム〉は召喚機能と治癒以外の魔法技術に頼ってこなかった。
「別に好き嫌いなんてねぇよ。便利過ぎるモノに頼ると勘が鈍るからな。イザという時だ、使うなら」
「ふーん、そんなもんなんだね。でも武器とかは便利なんてレベルじゃ……」
少女の脳裏にゴブリンの巣と巨大蜘蛛達の末路が思い起こされた。
「何言ってんだ。慣れた得物を使って最大効率で敵を倒す。これに勝る戦い方があるか?」
スコットは平然と返した。
冒険者の仕事でも手に入る最も強力な武器を使うはずだ。それがちょっとだけ異なるだけだ。
「うっ、そう言われるとなにも返せない……」
からかったつもりなのに軽くいなされてしまった。
不発に終わったマリナは軽く頬を膨らませる。
「まぁ、何にしたって使いどころが肝心なのさ」
言葉にするのは避けたが、他にも理由があった。
もちろん先ほども言ったように好き嫌いではなく、得体の知れないものと忌避したからでもない。
それらが個人の才能に依存するものだからだ。
「まぁ、こっちが塹壕を掘るなら翼竜はかなりの脅威だ。アイツら空飛ぶ火炎放射自走砲だぞ。それに対抗できる可能性があるなら面白い」
スコットは小さく鼻を鳴らした。
技術的な観点から見直すことで、少しでも再現性が担保されるなら活用する道も見えてくる。
急降下から火を噴かれれば、水攻めに遭うのと同じく塹壕に沿って炎が溢れ多くの兵士が焼かれてしまう。
たとえ牽制に近くても使える手があれば、敵も慎重になるし士気とて今よりも保てる。
「空を飛べて敵のど真ん中に降り立って、無詠唱レベルの魔法を発動できる魔法使いでもいれば対抗手段はあるかもしれませんがね」
「ハリウッド映画かな? 個人の技量に期待するのは近代軍らしくないよ、キリシマ中尉」
「そもそも、そんな魔法使いがゴロゴロいたら、もっと悲惨なことになっているだろ」
逆に言えば、それができる
段階的に制限解除される兵器・人員の召喚機能がなければ、将斗たちだけでは早々に詰んでいた。
「とにかく非常識な存在ですね。対空兵器があるとはいえ我々も他人事じゃいられません」
ジェームズが溜め息を吐いた。
事実、今回のように
奇襲を許せば〈パラベラム〉兵士とて黒焦げにされるし、ヘリでも危ないのだ。
そこはきちんと意識しておくべきだ。
「いずれにしても話はここまでだ。仮に“
スコット声が低くなったところで、にわかに空気が変わった。
「始まる?」
クリスティーナが疑問を発した。
周りもピンとこないのか小首を傾げている。
「おいおい、頼むぜ王女さま? 戦のセオリーからするとここからどうなる?」
ロバートが困ったような笑みを浮かべた。
これまでの常識とは異なる戦が展開されていたため、意識がそこに向いていなかったのだ。
これでは呆けていると言われても仕方ない。
軽く赤面したクリスティーナはすぐに思考を巡らせる。
「敵の攻勢を阻止しましたから……あっ」
答えが浮かび上がってきた。ハッとする。
「基幹部隊が反攻に――」
「砲兵部隊・銃兵隊、射撃中止」
立ち上がったハーバートが簡潔に指示を口にした。
「それから全歩兵部隊へ通達しろ。敵の足は止まった。反撃開始だ。侵略者どもを追い立てろ」
「了解。――『こちら司令部。砲兵部隊、銃兵隊、射撃中止。射撃中止。加えて全歩兵部隊へ通達。敵の足は止まった。攻撃に転じろ。繰り返す――』」
司令部からの指示を受け、銃兵隊と迫撃砲小隊の射撃が一時的に停止した。
大気を揺らしていた銃声と砲撃音が止み、一瞬の静寂が漂う。
ここからは――ついに反攻となる。
見守る視線の先で動かせるよう仕掛けをしてあった鉄条網が開かれる。
「我に続けぇぇぇぇっ!!」「手柄を上げる時間だぞ!」「ぶっ潰してやる!」
司令部には雄叫び程度にしか聞こえないが、ヴェストファーレン騎兵隊とDHUケンタウロス部隊が口々に声を上げ、先鋒として突撃を開始した。
「味方を巻き込むなよ!」「射線を確保できるよう動け!」
後ろには主力を占める槍兵部隊が続き、彼らを支援する形で弓兵に魔法兵、それと銃兵部隊が同士討ちとならないよう側面に回っていく。
これまでの鬱憤を晴らすのみならず、参陣した兵士として手柄を立てたいのだ。
「敵の反撃が来るぞ!」「部隊を再編しろ!」「指揮は誰が引き継ぐんだ!?」「だめだ、もたない! 撤退しろ!」「どこに退くんだよ!」
一方の討伐軍は半ば恐慌状態だった。
騎馬突撃の勢いを殺された今、それを真正面から受け止めるだけの士気は存在しなかった。
これでは結果を見届けるまでもない。早晩壊走するのが目に見えていた。
「――じゃあ、俺たちもそろそろ行くか」
UAVから送られてくるリアルタイム映像を眺めていたロバートが声を上げた。
「え? どこにです?」
将斗が問いかけると、ロバートは振り返ってニヤリと笑みを浮かべた。
「逃げ出される前に敵将を押さえちまおうかねって。――マサト、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます