第171話 砲弾談義~前編~
「命中! 効果は抜群だ!」
「うるさい、黙って仕事しろ。――迫撃砲各小隊、初弾から効果あり。効力射に移行せよ」
本部内でモニターを見ていた兵士が歓声を上げ、オペレーターのひとりがそれを黙らせた。
――どこかのゲームで聞いたようなイントネーションだな。
状況を眺める将斗はそう思いながら、衝撃でビリビリと震える窓の向こう側を見た。
クロスノク基地の西方、普段は空き地となっている場所ではいくつもの“鉄の塊”が空を向いていた。
その中のひとつが射撃を続ける120mm迫撃砲 RT(Rayé Tracté≒曳光弾)だ。
「銃兵隊、弾薬の保有量に注意せよ。必要に応じて補給部隊へ連絡するように」
「弓兵部隊は進出し過ぎないように」「騎兵隊、準備はいかがか」
『次弾装填――撃てぇっ!』『角度修正! 早くしろ!』
室内には通信が飛び交い、スピーカーからは砲兵たちの通信が飛び交う。
120mm迫撃砲 RTは、フランス・トムソン-ブラーント社が開発した迫撃砲だ。
口径は120mm、射程約十数kmという従来の軽榴弾砲に匹敵する長射程を備えている。
以前から使っている80mm迫撃砲とは異なり、外見的な特徴として牽引用のタイヤを装備している。
これにより移動・展開が容易となっており、ヘリで吊り下げての移動も行えるが、今回防衛側である〈パラベラム〉に関係のない話だが。
今回はアメリカ海兵隊がM327 EFSS(Expeditionary Fire Support System)として採用した目的とほぼ同じく、
もっとも、この基地にはHIMARSも155mm榴弾砲も配備されてはいない。
「この砲撃によって敵の――」
「なるほど。それぞれ部隊を南北に分けたのは――」
「そもそも最初に突撃を受けた際に――」
上級指揮官が集まる席ではハーバートとリーンフリート、それにエリアスが意見を交わしていた。
周りでは幹部たちが真剣な表情でメモを取っている。彼らも姿を変える戦いについて行こうと必死なのだ。
「砲兵部隊、張り切っていますね」
実務者級が会話を重ねているのを余所に、近付く気配を感じた将斗はつぶやいた。
「そりゃそうだ。〈
スコットが小さく笑った。
新たに召喚された迫撃砲部隊は、パラディアム基地から移動してきたM1129 ストライカーMCと共に、現在罠に嵌り込んだ教会討伐軍に向けて持続射撃を行っている。
「まぁ、我々が出撃してしまうと歩兵部隊の活躍の場を奪ってしまいますからね……」
「押し込まれるような事態とならない限りストライカー部隊が出る予定はない。M1129の場合は間接支援ができるから引っ張り出しているがな」
「あー、人手不足がなければもうちょっと派手にやれたんでしょうね」
同じく外を眺めるジェームズが声を発した。
運命を決める会戦を前に、彼には迫撃砲の射撃は少々地味に見えるのだろう。
「
「そうなんですか? さすが爆発物に詳しいだけはありますね」
スコットの言葉にジェームズは知らなかったと目を見開いた。
「おいおい、大丈夫か007。特殊部隊ってぇのはあらゆる知識に精通していないといけないんだぞ」
スコットは煙草を取り出して口に咥えた。
指令室は禁煙なので雰囲気だけで我慢するつもりらしい。
「まぁそうなんですが……」
彼の言う通り、特殊部隊員に求められるのは一般兵以上の精強さだけでなく、一般部隊や砲兵・航空部隊といった軍全体の作戦を支援する能力もある。
今回のように限られた戦力、“主役”を支援する形で戦わなければいけない場合の知識も同様だろう。
――言いたいことはわかるけど、ハンセン少佐の場合、絶対に趣味の領域にも踏み込んでいるだろ……!!
ジェームズも将斗も自身の能力の至らなさを恥じるが、心の一部ではそう思ってもいた。
部下たちの会話を眺めるロバートは小さく笑っている。
「幸いにして俺たちは兵器寿命をあまり気にしなくていいが、それを差し引いても迫撃砲は今回の戦いに向いているんだ」
火の点いていない煙草を咥えたまま、スコットは後輩たちに解説を始めた。
すでにM777 155mm榴弾砲も召喚可能となっているが、敢えてそれを選択しない理由があるのだ。
実際、砲兵側からも先ほどスコットが触れたように、今回想定される戦いでは迫撃砲の炸薬投射力が榴弾砲を上回っている面も説明されていた。
「てっきり、まだまだ人手が足りていないからかと」
「もちろんそれもある。だが、他の理由が大きいな。会戦にて教会軍を撃退、あるいは壊滅に追い込む必要があるだろ?」
そう、たとえ遠距離砲撃や爆撃で兵力の損耗が避けられるとしても「神罰が起きたのでは?」で終わっては困る。
「そうでした。新人類連合軍が勝った証が必要でしたね」
今回榴弾砲部隊ではなく迫撃砲部隊が拡充されたのはそのためだ。
「迫撃砲の特徴は、砲口初速を低く抑えた上で射撃時の反動を地面に吸収させる。この上で大きく湾曲した曲射弾道をとるから必然的に射程は短い」
巨漢は手で迫撃砲の弾道を真似て見せる。
近くにいたマリナとサシェ、クリスティーナにリューディアも、細かいことはわからなくても興味はあるのかそっと近寄って来た。
「だがな、射程を犠牲にして得られる
「それが投射力ですか」
将斗が問いかけた。
「ああ。利点のひとつだな。そいつも速さと威力に分かれるが」
スコットは頷いた。
外から聞こえる音が証明するように、榴弾砲に比べればリズミカルと言ってもいい速度で砲弾をバラまくことが可能だ。
「照準調整は都度必要だが、一度設定すれば後は知っての通り砲身内へ砲弾を落とすだけだ」
言われた現地組も窓の外に目をやる。
砲弾をせっせと運び、次々に敵へと送り込んでいる姿が見えた。
「このおかげで一定時間なら、見た目は派手な榴弾砲より多く射撃できる。さっき言った反動吸収方式もあるから迫撃砲は射撃時の駐退復座に要する工程が要らないしな。これは――」
通常の火砲は、抵抗をかけながら砲身を
――と、砲の構造に関わる専門的な話題に踏み込んだあたりで、現地人の顔が完全に「?」になってしまった。
さすがにマニアックかとスコットは空気を読む。
「まぁ、難しい話はいい。アレはこれから銃という兵器が広まればさらに活躍できる場が生まれる」
そう言った瞬間、クリスティーナとリューディアの目が光った気がした。
――あぁ、なるほど……。
状況を察した将斗に苦い笑みが浮かんだ。
それぞれ王族としての立場から、今後の自分たちの国・種族がどういった地位に落ち着けるかを考えてしまうのだ。
必要であるならいち早く取り入れる努力をしなければならない。
そんな意識が垣間見えた。
――やれやれ、ただ戦って勝てばいいだけじゃないってのが面倒だな。
スコットでさえそう思うほどなのだ。
異世界は異世界で多くの悩みがある。そう感じずにはいられなかった。
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