第125話 強制ドアノック
ほぼ同時に発射された二発のM456A2
「おおっ!!」
味方からは大きな歓声が上がったが、敵の方ではおそらく大騒ぎになっているに違いない。
轟然と火を噴いたM1128ストライカー
少なくとも、この場にいる〈パラベラム〉メンバー以外の度肝を抜くには最高の働きをしたと言ってもいい。
MGSに搭載されているのは、元々イギリスで開発されたロイヤル・オードナンス L7戦車砲をアメリカ軍仕様として国産化したライフル砲だ。
対戦車戦ではなく積極的な火力支援に使用される目的もあり、駐退機の改良による反動の低減、自動装填装置に対応するため砲尾部を上下反転させる等の改修がなされている。
「次弾用意! 命令あり次第発射! 迫撃砲部隊、狙いは適当でいい城壁を狙って自由射撃!」
「「「「イエッサー!!」」」」
ロバートの張り上げた声に味方が今度はざわついた。
城門を破壊できるだけの攻撃魔法ならば、次を放つのにいったいどれほどの時間がかかることか。この世界ではそういう認識だ。
にもかかわらず、「すぐに攻撃できる」と言ってのけたのは衝撃以外のなにものでもない。
事実、ほとんど間を置かずストライカーMCの120mm迫撃砲と迫撃砲分隊からの81mm迫撃砲が城壁の上へと降り注いだ。着弾するたびにわずかに聞こえる悲鳴と城壁が崩れていくのが見えた。
このまま続けていればそのうち崩壊するのではないかと思える。
「外してるヤツは修正しろ。砲弾が勿体ないだろ。あぁ、人的被害は無理に狙わなくていい。白旗が掲げられるか、門から敵が飛び出てくるまでだ」
これはただの小手調べだと言わんばかりのロバートを見て、リーンフリートたちは唖然とするしかない。
あまりにも一方的な戦いだった。
こちらは攻撃で早々に城門を破壊したが、向こうは矢の一本も放っていない。それでいてすでにほぼ負け寸前にまで追い込まれている。
「ロバート殿、兵は前進させなくてよろしいのですか?」
クリスティーナが問いかけた。
城門が破壊されたのだから歩兵なりが突撃して制圧するのがセオリーだ。モタモタしていれば逆に態勢を立て直した敵が打って出てくる可能性もある。
無論、彼ら〈パラベラム〉がそんな常識で動いていないことは理解しているが、周りもそうとは限らない。そのあたりの橋渡しは彼らを知る自分がやらねばならないだろう。
だからこそ、クリスティーナはあえて兄たちにも聞こえるように声を上げたのだ。
「うーん、相手次第かな。できればここで兵を失いたくない。王都まで行ったらイヤでも戦わなきゃならんかもしれんしな」
「なるほど……」
――なるほど、なわけがあるか! 彼らがどれだけ異常かわかっているのか!?
他方、攻撃を眺めるリーンフリートたちは冷や汗が止まらなかった。それゆえに妹が無知なのではなく単純に〈パラベラム〉に毒されて感覚が麻痺していることに気付かない。
「なんという威力か……」
城門を一撃で破壊した鉄の馬車も凄まじかったが、それ以上にヴェストファーレン軍が驚いたのは、爆炎魔法と同等の破壊力を持つ攻撃を山なりの弾道で打ち出す
あれでは頭上への防御ができなければ簡単にやられてしまう。野戦は言うに及ばず建物の中以外ではどうしようもない。
塹壕といった概念も存在しないため、どうやっても防ぎようがないと考えているようだ。
この世界ではすでに
「あれでは籠城はほぼ無意味ですな。特にこのような出城では」
「城門が破られるのが早すぎました。かなりの痛手かと。それにこちらはいつでも全力で攻め込めます。この様子ではすぐに降伏するのでは?」
リーンフリートに語りかける側近の貴族たち。彼らは喜色を浮かべている。
長年仮想敵として睨み合っていた――どちらかと言えば自分たちが一方的に敵視されていた――バルバリアが今や風前の灯火となっているのだ。明言はしなくとも嬉しくないわけがない。
軍人でもある王子としては「自分たちの実力だけで勝ったわけではないのだから油断をするな」と言いたいところだ。
もっとも、これだけやられては逆にヤケでも起こさないかぎり反撃に転じられるとは思えなかったが……。
「たしかに、戦意が保てなかったようだな」
そうこう言っている間に破られた城門の上に白旗が掲げられた。
「攻撃中止! 攻撃中止! 兵は別命あるまで動くな! こちらも白旗を持った軍使を派遣しろ!」
すぐに〈パラベラム〉側の指示で攻撃が止む。
突撃できなかった一部の騎兵や、亜人軍からは不満の気配が見られるが、指揮官としては御の字の結果だった。
「しかし……まさか一撃であれほどの威力があるとはな」
「たしかに。あれでは攻城槌など要らぬではないか。その上、機械仕掛けの絡繰りというのだから信じられん」
「聞いてみましたが、生き物ではないため構造が複雑で整備が難しいようです。されど、馬や軍用魔獣と異なり痛みを感じず動揺もしないのは利点ですな」
伝令を受け、手頃な騎士を出城に向かわせたところで貴族たちが「自分たちもあれが欲しい」と言いたげな言葉を口にする。
リーンフリートは何も言わない。もちろん彼とてああいった武器があれば教会軍を相手にしても寡兵で戦えるのではと思ってしまう。その程度には魅力的に映っていた。
「我々には扱えんよ」
ここでひとりが空気を読まずにそう言った。あるいは弛緩した空気を戒めようとしたとも言える。
近くでそっと聞き耳を立てていた将斗は「へぇ……」と感心していた。
「ランツクネヒト卿……」
「彼らの武器の仕組みすらわからないのにどうやって活用するのだ? 運用方法は? そもそも供与してくれるかの問題もあるが、私には扱えるとは思えん。何より、軍馬がああいったものに慣れていない」
男――エルベリード・ランツクネヒト辺境伯の言う通り、周りでは皆が器用に愛馬を宥めていた。
攻撃の際には馬を落ち着かせるよう、あらかじめ通達があったためだ。そうでなければ振り落とされたりして怪我人が出ていたかもしれない。
楽観的なことを口にしていた貴族たちは、冷や水を浴びせられた気になって恥ずかし気に下を向いてしまう。
「おっと、勘違いしてくれるなよ
小さく笑ったエルベリードの口調が変わる。彼は悲観論を口にしただけではなかった。
「しかしランツクネヒト卿、彼らは異界より来たる者。見たところ歩兵の武器とて我々と異なるのは明白では……」
先ほど盛り上がっていた会話にも参加しなかった人間からの疑念だった。
それもまた想定内だったらしくエルベリードはそっと首を振った。
「否。魔力が感じられぬ以上、彼らの武器は魔法ではない。我々でも扱えるはずだ。こちらの弓や槍、剣の運用を理解していたことから、おそらくあれらも長年の歴史の中で変化し新たに登場したものなのだ」
そう言われるとどこか説得力がある。
たしかに〈パラベラム〉の面々は「こちらの攻撃を終えても降伏がなければ、弓矢の援護の下で城を占領に向かう」と言っていた。ここから考えられるのは、彼らの世界にもそうした戦が存在していたのだ。
「ならば、我々の技術で扱えるものから何とか教えを請うしかあるまい。彼らも兵力の少なさは感じているはずだ。兵士を供出するなら我が国に勝るものはいまい」
リーンフリートは密かに唸る。自分の部下の中に彼のような戦略眼を持った人間がいたことに。
たしかに
しかし、一度頼ってしまえば、その環境から抜け出せなくなる恐れがある。自分たちも戦って血を流してこそ発言力を維持できるのだ。亜人たちが兵を派遣しているのもおそらく似たような狙いがあるはずだ。
「面白そうなお話をされておりますな」
新たな声にぎょっとした全員がそちらを振り向いた。
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