第71話 ゴミ掃除


 掛け声と共に一斉に茂みから飛び出た将斗たちはM27を構える。

 突然の闖入者ちんにゅうしゃに十数人はいた男たちが一斉にこちらを振り向くが、その時には既に結果は決していた。


撃てファイア!!」


 都合八挺のライフルから銃火が迸った。

 残念ながら火薬武器の存在しない世界で銃の姿はおろか銃声ですら威嚇にはならない。

 撃たれて初めてその恐ろしさを理解するのだ。


 だから――


 突然鳴り響いた轟音に、周囲から鳥たちが一斉に飛び立つ。


 そんな中、“正面からの不意討ち”を受けた男たちは、高速で叩きつけられる5.56㎜弾を浴びて何もわからぬまま地面へと倒れていく。

 ちょっとした剣や槍を防げるプレートメイルといえど、音速を超えるライフル弾を防ぐことは不可能だ。

 これは聖剣騎士団相手に9mm弾で実証済みだったので特に不安はなかった。


「な、なんだおまえたちは……」


 指揮官と思われる男が呆然と呻きの声を上げた。

 剣の柄に手を持って来てはいるものの、動いたら殺されると思っているらしい。

 先ほどまで見せていた余裕は今や表情のどこにも存在していなかった。


 当然と言えば当然だ。

 今ですらまったく動けなかったのだ。これでは元々の実力も知れている。強敵と向き合った際の首筋にチリチリと来る気配もない。


「森の中で暴れてる連中がいるから何かと思えば……」


 いつでも撃てる状態で部隊員たちは進み出ていく。その中でロバートが口を開いた。


「ずいぶん悪趣味なことしてるじゃねぇかよ。獣かテメーらは」


 始末したのは雑兵だけで、指揮官と思われる集団だけは撃たなかった。


 本音で言えば全員この場でってしまいたかったが、それでは情報が取れなくなってしまう。

 あくまでも襲撃を受けた原住民の救助として戦っただけで、武装勢力を皆殺しにすることが優先事項ではない。

 一時の感情に流されて台無しにしてしまうようでは特殊部隊として不適格だ。


「人間! そいつを殺せぇっ!! そいつらはっ!!」


 憎悪の込められた言葉がひとりのエルフから叫びとなって放たれた。

 同胞――ともすれば親族を無残に殺され、自身はなぶられる寸前だったのだ。これだけの殺意が湧き上がっても何ら不思議ではない。


「ちょっと黙っててくれないか、お嬢ちゃん」


 ロバートは鋭い視線を向けて少女を黙らせた。

 比喩表現ではなく、威圧だけで本当に動きを封じていた。

 段々と人間離れしてきたような気がしてならないが今は気にするところではない。


「さて、いくつか訊きたいことがある」


「いったい、なんなのだ、貴様らは……!」


 先ほどの言葉に答えなかったからか、もう一度問いが投げられた。

 想定内の態度ではあるが、こちらからの疑問は一切無視だ。あるいは混乱しているからかもしれないが。


「俺たちか? ただの冒険者だよ」


 今のところは。

 そこはロバートも口にしなかった。


 彼らパラベラムは現在ヴェストファーレン王国の庇護を受けつつ動いているが、それはあくまでも密約によるものだ。

 クリスティーナの顔を見ても気付かないような相手だ。尚のこと言う必要はなかった。


「なんだと!? たかが冒険者風情が!? 誇り高きバルバリア騎士に危害を加えただと!?」


 指揮官が心底驚愕したとばかりに叫んで歯を軋らせた。

 いつ殺されるかわからない状況下でよくそんな声が出せるものだ。貴族としての矜持とやらはそんなにも大事なのだろうか。

 いや、生きるか死ぬかの場でこれだけ騒げればたいしたものなのだが……。


「なにを大げさに……。やってることは畜生と同じじゃねぇか」

「そもそも、そこのお嬢ちゃんたちを嬲り殺すか攫おうとしてる人間が騎士だって? 俺はそっちの方が驚きだよ」

「身なりのいい盗賊の間違いではありませんかね?」

「もしくは騎士というのもそう思い込んでいるだけの幻想なのでは……?」


 威嚇されたところで痛くも痒くもない。

 スコット、エルンスト、ジェームズ、将斗の順で思い切り煽りにいってやった。


「ふざけけたことをぬかすな!!」


 向けられている銃口の存在など忘れたかのように指揮官が叫んだ。

 慣れていないマリナやサシェなどは小さく身を竦めてしまう。身体が大きいだけあって胆力だけは一人前レベルらしい。


亜人デミは人間ではない! 物を喋る家畜だ! 我らは神の名の下に国家に害をなすゴミを駆除する使命がある! それをなんと心得るか!」


「なるほど? 騎士様は自分たちとそこのお嬢ちゃんたちとでは命の重みが違うとおっしゃりたいわけで?」


「当然だ……! こんな薄汚れた亜人どもと我らが同じであるものか!」


 騎士様という言葉に、将斗たちが自分たちの身分に屈しかけていると判断したのか、ひとりの騎士がニヤリと笑みを浮かべて前に出てきた。


 どうやらこの小物は身分を全面に押し出すことで懐柔も可能と思い始めているようだ。

 自分が生き残るために、この男は次にどのような言葉を繰り出すのだろうか。

 すこしだけ気になったロバートは騎士が口を開くのを待つ。


「我らに対する無礼、本来であれば即座に死刑となる。しかし、冒険者としての職務が先行したとあれば、悪くはならぬよう取り計らってやろう。さぁ、その武器をどけ――」


「そうか。立場がわかっていないようだな」


「は?」


 言葉と共に銃口を向けていたロバートのM27の前に割り込む影があった。

 それと同時にHK45Tを抜き放ち、騎士の鎧へと向けて躊躇なく発砲してのける。

 あっという間で誰も反応できなかった。


 至近距離から放たれた四十五口径弾はあっけなく鎧を貫通し、その表面に穴を穿つ。


「あっ? あ……ア……」


 騎士の目が真下を向き、自分の身体に空いた穴を確かめようとするが、その動作の途中で力を失うと断末魔の呻きを上げて膝から地面に倒れ込んだ。


「ベックウィズ少佐!?」





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