第34話 反省会(火力不足)
「ふーむ。もうちょっと他の兵器が使えると楽なんだがなぁ」
気の抜けた声を上げたのはスコットだった。
宿の部屋に入って装備を外すなり、真っ先にソファへどかっと倒れ込むように腰を下ろした。
「気を抜きすぎだぞ、ハンセン少佐」
ロバートが苦言を呈した。
今は用意された宿屋に戻っており、ここにはもう地球組とミリアしかいない。
マリナとサシェには「今日はゆっくり休んだらいい」と告げて別れ、将斗たちはクリスティーナに通された宿屋に戻って来た。
宿の場所は「どうせ明日になればギルドで会うだろう?」と曖昧にして教えていない。
少なくともここは並の冒険者が泊まれる宿ではない。せっかく細かい話を先送りにしたのに、新たな疑念を植え付けては本末転倒だ。
「とは言うが、MRAPで森の中まで乗りつけて
ベッドに腰かけたロバートは長い息を吐いてから口を開いた。なんだかんだと彼も疲れたらしい。
「今日の規模ならまだしも、あれ以上の群れを真正面から迎え撃つなら、もっと高い制圧力が必要になりますね」
一方、宿で用意された夕食をテーブルの上に並べながら将斗は相槌を打つ。
小市民癖が抜けないので部屋の入口でワゴンを受け取った形となる。
もっとも部屋には銃などの装備も置いてあるので部外者に見せない方が賢明だった。
「
「じゃあMk46なんかどうだ? あれなら取り回しがしやすいだろ」
「Mk48がいい」
「7.62mmはもうちょっと我慢しろ」
装備の話を続けるふたりの少佐を眺めつつ将斗はテーブルの配膳を続けていく。
外食で済ませるかとも考えたが、まずは初日の狩りを終えての反省会を優先させた結果、せっかく用意してもらった宿なのでそこで食事をとることにした。
もちろん、ただ単に時間を惜しんだだけではない。
自分たちの素性や地球兵器の話題が出るのは容易に想像できたため、余人に聞かれる場所を避けたのだ。
「……よし、できたっと。さぁ、食べましょうか」
準備ができたと将斗が告げると、それぞれが席に着いて食事に手を伸ばしていく。
「おっ。想像してたよりずっと美味いじゃないか」
「そうだな。でも欲を言うなら散々動き回った身としてはもうちょっと味が濃い方がいいな」
温かいミネストローネ風のスープを口へ運んだロバートとスコットが声を上げた。
物流など諸々が発達していない世界の料理はどうかと身構えていたが、思った以上の内容だった。
たしかにいささか味が薄く感じられるが、塩分が控えめなのは宿の客層を考えてのことだろう。
それでも温かい食事は心が安らぐ。
一日を通して動き回った身体に滋養が染み渡っていくのをそれぞれに感じていた。
「異世界って言うからレーションは覚悟してたけどこれなら大丈夫そうだな」
「食事にはそれほど拘る方じゃないですが、やっぱりレーションじゃ味気がないですからね。いや、味の濃さはうんざりするくらいなんですが」
エルンストにジェームズも同意の声を上げた。
「そりゃあ宿のグレードが高いですから。味付けにしてもしっかり野菜で出汁を取っている感じかな。まぁ、しばらくして飽きるようなら調理場を借りて俺が作ってもいいんですけど……」
口の中でゆっくりと吟味した将斗が出来を評した。
本人が料理の腕にそれなりに自信があるせいか、ひと言でも言わずにはいられなかったようだ。
「ははは。ニンジャはカタナ振り回すだけじゃなく、料理までできるんだからたいしたもんだよな。アレか、最近流行りの料理男子ってヤツか?」
「言っても比較的簡単なものだけですけどね。みなさんの口にどこまで合うかはわからないですが」
エルンストからのいつものニンジャ発言をガン無視して、その上で将斗は少しだけ照れたように笑った。
何気に全員が「コイツ、何気に万能型ハイスペック人間じゃないか? なんで軍人なんてやってたんだ?」と思い始めていた。
「構わねぇさ。たまにはあっちの料理も食いたい、
期待するように笑うスコットと、同じことを考えているのか頷いているロバートとエルンスト。
尚、いつもなら皮肉めいたことを口にしそうなジェームズも「この話題にだけは乗らないぞ」とイギリス的無関心を決め込んでいた。
――まぁイギリスの料理はうん……。ただ迂闊なことを言ったかなぁ。
このままでは炊事係にされそうだ。将斗は早くも後悔を覚えていた。
「あー、料理の話題で盛り上がっているところ恐縮ですが、ロバートさんのおっしゃることもよくわかるんですよ?」
香草でローストされた豚のような肉を口に運びながら、ミリアはオペレーター用
仕事モードを終えた彼女の口調はずいぶんと間延びしたものになっていた。どれが素かは今のところわからない。
「ですが、移動車輌以外で歩兵装備を超える兵器を扱うには、最低でも拠点となる“本部基地”の立ち上げが必要なんですよ」
「基地?」
ロバートは海外派遣先での駐屯地のようなものを思い描いた。
たしかに現代兵器を召喚できるだけでは現代の軍隊のパフォーマンスを十二分に発揮できない。
数多くの人員や技術、兵站によって維持されているのだ。
そう考えればヴェストファーレンで仮に庇護されたとしても、すぐに頭打ちを迎える未来しか見えなかった。
そのあたりまですべて端末頼みにするわけではなさそうだ。
「ええ。それまでは各種召喚機能にロックがかけられています。ほら、このとおり」
五人へと向けて掲げた画面には、機能の一部が灰色の文字で暗く表示されておりその上から斜線が引かれていた。
たしかに、それを見れば使えなくなっているのは一目瞭然だ。
「……なんともまだるっこしいな。今日のゴブリンの殲滅にしても、あの規模ならバンカーバスターでもブチ込めば一発だったはずだ」
――いやいや、やり過ぎでしょ。周囲みんな吹き飛ばす気かよ。
とはいえ全面的に反対というわけでもない。
実際それができるのであれば選択肢は増え、自分たちの安全が確保されるのだ。
「ただ世界をひっくり返せというなら、航空機でも
さすがにこのファンタジー全開なシステムにも慣れてきたのか、スコットは浮かんだ疑問を率直に口にする。
「そうですね……。誤解がないようあらかじめお伝えしておきますが、これは“依頼主”の意向でもあります。戦略目標への攻撃も可能ですが、無意味な混乱を求めているわけではないのです」
「……それはつまり、“自然災害か神的なモノが下した天罰にしか見えないような攻撃”になっては意味がないと? 勢力同士が政治的・軍事的に衝突、あるいは妥協する中での変化を欲していると」
なんとなく言わんとするところを理解したジェームズがミリアの言葉を補う。
「ええ、“人間の手で行われた事実”が重要になるようです」
頷いたミリアは再度腕を伸ばしてタブレットを操作。
五人が覗く画面が変わり、そこにはロックの表示と共に赤く点滅する“戦略攻撃”の文字があった。
「ご覧のように“その選択肢”自体が用意されていないわけではないんです。最も強力な選択肢としては、最初の化学兵器だけでなく“核攻撃”も存在しています」
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