第25話 装備選択画面的なアレ


「それで、なににするつもりなんですか?」


 ふたたび宿の部屋に戻ったところでエルンストが訊ねる。


 今のところは護身用に隠し持っているタクティカルナイフとHK45T自動拳銃、それとローブの下に吊るしたH&K MP5A5短機関銃サブマシンガンだけで戦えないこともなさそうだ。


 とはいえ、将斗たち五人にこの未知の世界を舐める気持ちは一切ない。


 上っ面を見ただけではゲームのような世界だが、そこにいる自分たちはすでに仮想現実バーチャルのキャラではなく生身の存在だ。

 死んでしまえばそこで終わりだと全員が理解している。


「サイドアームはこのまま四十五口径のHK45T。メインのライフルはとりあえず5.56×45mmNATO弾を使う……M27 IAR歩兵自動火器にしよう」


 ミリアに指示を出して装備品をチョイスさせる。まずは主力のライフルが決まった。

 M27 IARは目立つ機関銃手のM240やM249などの代替として分隊支援用小銃型支援火器として生まれ、アメリカ海兵隊で新制式銃として採用されたものだ。

 分隊支援火器SAWとして見るとベルトリンクを使用したり、銃身交換が容易な従来品には及ばない面もあるが射撃精度が優れているためかえって歩兵銃を侵食したようなものだ。


「人間相手なら十分ですが、それで魔物とやらを倒せますかね? バケモノなんでしょ?」


 そこでジェームズが疑問を口にした。

 薄い鎧なら九ミリ弾でも抜けることはフランシスで聖剣騎士団が身をもって証明している。


「うーん、創作物にもよりますが、最悪のパターンではモンスターに銃弾が通じないこともありますね」


 そんな作品を将斗はいくつも読んだことがある。

 あくまでファンタジーサイドを絶対優位にすることで、それに対抗できる主人公の異質さ・強さを際立たせる手法だったが、この世界がそうである可能性とてゼロではないのだ。


 真剣さを帯びた将斗の発言に、他のメンバーの危機意識が急速に上昇する。


「それはさすがに俺では判断できん。たしかクリューガー大尉は選抜射手マークスマンだったな。狙撃銃も用意しておくか。M38 SDMRでいいな」


 将斗たちが選択したM27のみならず、西側諸国でアサルトライフルの主要弾薬として使用されている5.56mm×45NATO弾。

 それよりもさらに口径が大きく狙撃銃にも使われる7.62mm×51NATO弾ならば威力も射程も申し分ないが、現時点ではまずメンバー間の連携不足を補えるよう弾薬の共通化を優先する。

 同口径弾を使用するM27 IAR、そのマークスマンライフルとして開発された派生型のM38分隊選抜射手ライフルSDMRなら問題あるまい。


「了解です。近接用のサブにMP7を使いたいのですが」


 エルンストはMP5より小型のH&K MP7個人防衛火器PDWを希望する。

 狙撃銃では対応が難しい緊急時に、瞬間的な火力を発揮できる銃が欲しかったのだ。


「許可する。あとは手榴弾か……」


「基本はMK3手榴弾。あとはクレイモアも持っていこう。俺が運ぶぞ」


 爆発物の専門家らしく好みを入れてくるスコット。

 ついでのように指向性対人地雷クレイモアを入れてくるあたりが実に火力マニアなチョイスである。


「豪勢な装備ですね。これでダメなら開き直って重機関銃M2でも用意しますか?」


「ハンヴィーかM-ATVでも用意して近くの狩場にピクニックってか? それも悪くないな」


「ハンセン少佐ならトリガーつけてスタンディングで使えたりしません?」


「お前はいったい俺に何を求めているんだ、クリューガー……」


 火力を求めるあまり、分隊支援火器SAW汎用機関銃GPMGをすっ飛ばして、拠点か車輌に据え付けて運用する重機関銃の名前が出てきたことに五人は自然と苦笑を浮かべる。

 そんなものを使わなければ倒せない魔物がうろついているようであれば、自分たちの出番などなくなってしまう。


「あのですねぇ……。みなさんちょっと勘違いされてません?」


 いきなり過剰な火力を運用しようとする面々に我慢がならなくなったのか、ミリアが呆れたように会話へと入ってきた。


 ちなみに、地球の武器などさっぱりわからないクリスティーナは口を挟めずにいる。

 ただ、向けられる視線だけは妙に生温かい。彼女からしてみれば新しい剣などを手に入れた騎士と同じに見えるのかもしれない。


「そうなのか?」


「そうですよ! そんな無茶苦茶な世界に召喚なんてするわけないでしょう? 魔族と呼ばれる種族でもよほど高位の存在でもなければ、歩兵が持てる武器でも倒せるはずです。いきなり新生竜レッサードラゴンでも討伐したいのですか?」


 軍人らしい慎重さを持っているのはわかるが、この勢いを放置していてはそのうちダンジョンごと爆破でもしかねない。それはそれで攻略ではあるのだが……何かが違う。それだけはわかる。


「なら安心だな。じゃあ、早速呼び出してくれるか。……それとな、ミリア。ドラゴンを相手にするなら最低でも対戦車火器は持っていくから」

「戦車も欲しいですね」

「戦闘機も要るだろ。空飛ぶドラゴンなら空対空ミサイルAAMを浴びせて地上に落としてから砲弾をお見舞いしまくるべきだ」

「砲撃の前に念押しの対戦車ミサイルATMがあってもいいかと」

「魔法を使われなきゃいいですけどねぇ」


 ロバートの返答後半部、それと仲間たちの軽口にミリアは言葉を失う。舐めているのではなく全力で戦おうとしているのだ。


「さぁ、武器を頼むよ。サブマシンガンは仕舞っておいてくれ」


 指定した武器を要請すると、将斗たちがこの世界へ召喚された時と同じように、携帯端末から発せられた魔法陣が物質を生み出していく。


「相変わらず衝撃的な光景だな。ファンタジーにもほどがあるぜ」


 スコットはまだ頭が慣れてくれないと溜め息を吐き出す。


「気持ちはわかる。俺だって未だに信じられない。だが、昨日までの常識は捨てろってことだ」


 戸惑いの感情を隠すように、ロバートは弾丸の装填された弾倉をM27に差し込みながら獰猛な笑みを浮かべる。


「ところで、思ったんですが、銃声を発するのはどうなんです? この世界には火縄銃もないんでしょう? 目立つことこの上ないのでは?」


 ふたたび将斗が問いかける。


 こういう時に、彼の持つサブカル知識は意外なほど――いや、非常に役立つ。

 想定はしてもファンタジー世界の知識がないロバートたちだけであれば、そこまで考えず適当にライフルをぶっ放していたのは間違いない。

 この世界に銃声という概念自体が存在していないことを失念していたのだから。


「そうですね。大きな音を立てますから、野生動物や低位魔物への威嚇にはなるかと思われます」

「昨晩わたしが聞いたものでもかなり大きかったと思いますが……。マサト殿がおっしゃるように、あのような武器があるとは聞いたことがありません。無闇に使うのは知らない者との無用なトラブルとなるかも……」


 意見を出たところでミリアが解説を、クリスティーナがフォローを入れてくる。

 やはりオペレーターからは「こうしたほうがいい」といった具体的な助言を口にするつもりはないようだ。


 それを理解した面々は小さく肩を竦める。


「よし、基本は抑音器サプレッサーありきでいこう。たしかダンジョンとやらは地下空間だったな。銃声が反響するのは好ましくない。慣れておくためにも今のうちから使っておこう」


「薬莢が転がってるのもよくなさそうだな。排莢受けもつけておくか」


 追加で召喚された各種アクセサリ――光学照準器ACOGに抑音器、フォアグリップなどがM27に装着されていく。

 

「銃声をできるだけ抑えて空薬莢も回収すれば注目も集めずに済みますね。あとは“お仲間”ともなるべく離れて狩りをしたら問題ないでしょう」


 将斗の提案に面々が頷いた。


 ――さてさて。マサトさんのおかげで段取りと出だしは順調そうだけど、はたしてそう思い通りにいくかな?


 ミリアは“ある種の期待”をこめてそう心中で考えたが、オペレーターの役目に徹する彼女がそれを口に出すことはなかった。


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